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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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おしゃべりさんのひとり言【全集1】

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スタートから試作品が出来上がるまでに、約半年がかかりました。これで僕の役目は終わりのはずですが、P電工さんとの取引を担ってしまっていますので、手を放すつもりはありませんでした。
貿易会社と契約し、20フィート(6メートル)のコンテナで、1万セット分の部品が輸入され、貸倉庫の半分を占めてしまいました。
これを組立てないといけません。これは本来、僕の仕事ではないですが、設計した責任上、ノズルにワックスが固まる懸念点を回避するために、組立て時の注意点や品質管理でパートさんへの指導はしっかり行いましたので、狭い倉庫の作業台に次々と完成品が山積みになっていきます。
そして、これを出荷するには箱が要りますよね。そこはちゃんと製品のサイズに合わせて、既製品の段ボール箱にきっちり収まる化粧箱もデザインしておきました。ついでに取説や販促用リーフレットも、僕にとっては慣れたもんです。
はっきり言って広島の企業には、何もしてもらっていません。まるで僕自身がプライベートで作った製品のように見えてしまいます。僕はその企業の社員じゃないけど、作業した分のお給金はいただいていましたので、この仕事は楽しかったんです。
もっと販売網を広げてやろうと思いました。以前特別ボーナスを約束してくれた役員さんが気をよくして、「今まで見たことないくらいのボーナスを期待してくれ」と言われたので、生協やホームセンターに試作品を送りまくって、営業活動を続け、北海道や静岡の大型店舗のカタログにも載せていただくことが出来ました。

良かったのはここまで。

既にトータル3000セットほどの『ら~くぬり』の卸契約が決まった頃、今まで僕に『白木あらい』を手ほどきしてくれていた職人さんが、その広島の企業を退職されることになったんです。
「なんで辞めるんですか? 今からがいい時じゃないですか!」
「クビになったんじゃ。もう給料払う金がないとかで」
「そんなはずないですよ。モップも3000セット決まりましたし、これからもっと資金繰りはよくなりますよ」
「それが本当なら、その金一人占めする気だろうな。今月の給料も払ってくれなくて、失業保険で何とかしてくれって言われた」

それから間もなく、今度は事務員さんが突然クビになった。理由は、今後は役員の娘が事務をすることになったとかで。そのクビになった事務員さんによると、
「役員の娘、給料70万円も振り込まれてるんですよ。おまけにその自宅が事務所ってことになってて、家で仕事してることになってるけど、実際は何もしてないのに、事務所の家賃として30万も別に振り込まれてるし」

なんだこの会社、ヤバいんじゃないか?
明らかに企業規模を縮小(人員削減)し、固定費を減らそうとしている。

僕はこれまでやって来た実績から、クビは言い渡されなかったけど、自分自身の貢献に対して、十分満足な給金をもらっているわけじゃない。
特別ボーナスの約束があるから、ここまでやって来たんだ。
それを確かめる必要があった。

「特別ボーナスの件ですが・・・」
「そんなのはないよ。毎月ちゃんと支払ってるからね」
(なんだとこの親父!)

確かに僕は、正社員じゃない、ただの委託業者にすぎません。でも小さな家族経営レベルの会社に、全国規模の販売網と海外からの部品仕入れのルート開拓を行い、感謝されていると思っていました。それがこの仕打ちです。
すぐに手を切ろうと思いましたが、設計デザインの特許契約があります。なのでその件に付いては、正式に文書契約を交わそうと申し出たところ、
「特許って言うのはね会社に付くもんで、社員には給料で支払いうもんだ」
「僕は社員じゃなく、委託されたデザイナーですよ。設計の特許は本来は僕のものだと思いますが」
「誰が特許を申請したかで決まるんだ。この特許は会社が申請したからね」
「初めからそのつもりだったんですね。特許料も特別ボーナスも」
「今はわしの孫の教育費を貯めんといかんからなぁ」
この時初めて、(腐れ外道がぁぁ!!)ってセリフを吐きたくなりました。

僕はその日でその会社と手を切りました。P電工の仲の良かった関係者には、その広島の役員に騙されていたので、突然『白木あらい』のトレーニングから手を引くことを謝罪しました。『ら~くぬり』の方も「僕は責任が持てなくなる」と伝えました。
モップ組立を任せていたパートさん達は、僕が出勤しなくなったので、組立品質の確認ができなくなって困ったらしく、僕に連絡をくれたのですが、事情を話したところ数人いたパートさん全員が怒って辞めたそうです。
これで、もうノズルにワックスが詰まるのを回避する組立て方法を知っている人もいません。

借りていた作業着を返すために、こっそりと正月にその倉庫に立ち寄り、ポストに入れておこうと思ってたら、1万個の部品在庫が山積みの横で、その役員と娘、小学生の孫たちまでもがモップを組み立てているじゃないですか。まずは3000セットを売り切らないとお金貰えないんでしょうね。
でもノズルが詰まって使い物にならないと思いますよ。