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時代の端っこから

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 次の日も暑い暑い一日だった。本番には父さんも何とか間に合い、式は予定通り進められた。家族で協力せいよというじいちゃんの遺志もあり、ばあちゃんと伯母さん夫婦のアシストで、父さんは悲しむ暇もなくぶっつけ本番で喪主を務めた。団地の集会所には同じ団地の住民がたくさん訪ねて来てくれて、じいちゃんは多くの人に送り出された。年々高齢化が進む団地ではこの風景が多くなったとばあちゃんは言う。それでも、
「多くの人に送り出されて幸せじゃ」
と言って寝台車は出発した。
 僕たちも出て行く車に両手を合わせ、それから後続のバスに乗り込んだ。

 それからじいちゃんの身体は煙になって天に昇って行った。夏の暑い空をゆっくりと、現世に別れを告げて光のある世界へと旅立っていった。僕はもう一度手を合わせて、いつの日か自分が行くまでのお別れを念じた。
「父さん」
 僕の横で同じように手を合わす父さん。石油開発の仕事をする父は現在カタールに単身赴任している。これまでもサウジやイエメンなどアラブ諸国を歴任し、僕自身も二度ほど現地に姉ちゃんと陣中見舞いをしたことがるある。日頃から気丈で、今この時も大きく取り乱す様子がない。その辺はさすがだと思うけどこの日ばかりは我慢の顔が見え隠れしてるのがわかり、言葉が掛けづらい。
「父さん、あのね」こちらを振り向いた表情を見て僕は無意識に父を元気付けなきゃと思った。
「じいちゃんは、軍艦島の生活が懐かしかったんだって……」
「ほう、そんなこと言うとったんか……」
「うん……」
 その話題を出せば父も目を細めるだろう。僕はそう思ってた。
「親父は『良かった』と言ったかもしれんが、価値観ってのは人それぞれやからのう」
 予想外の回答に僕は次の言葉が出てこなかった。
「それより賢太郎、お前ちゃんと勉強してるか?」
次の話題は父さんから出た。会えばいつも言われるのでなれているけど、勉強はそれほどしていない。宿題は最低限するけど、それ以上はさっぱりだ。
「来年、受験するんやったら専攻決めて準備せんと」
「ハイハイ」
 ここでおじいちゃんがいたなら「賢太郎は伸び伸びさせてやったらええ」と言ってくれる場面だ。それがもうないと思うとやっぱり淋しい。僕は父の顔をチラ見して、それから昇りゆく煙を見つめた――。

 明言はしなかったが父さんにとってそこは「それほど楽しくなかった」と言いたかったみたいだ。ばあちゃんの話ではじいちゃんは「あそこは楽しかった」という。同じ場所の生活を真逆のことを言うのは何故だろう。横にいた姉ちゃんと顔を合わしても何も答えが出るはずもなかった。
 
作品名:時代の端っこから 作家名:八馬八朔