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時代の端っこから

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「まあまあ、そうケンカすなっての」
 親戚が集まるとだいたい親以上の世代と子世代とで分けられる。今日も同じように高校生の僕、大学生の姉ちゃん、そして大学院生の諒一兄ちゃんの三人は一つのグループを作った。
「それよりさぁ、諒一兄ちゃんは知ってんの?ハシマだかグンカンジマだか……」
 三人の中で一番の年長さんだからじいちゃんのことを知っているかと思い質問をしてみた。というのも諒一兄ちゃんはじいちゃんにとっての初孫で、一番可愛がられたからだ。
「うん、全部ではないけどじいちゃんから少し聞いたことはあるなあ」諒一兄ちゃんはオードブルのエビフライに手を伸ばした「賢ちゃんは叔父さんから端島のことは聞いたことないの?」
「あるよ、でも……」
「それが本当のことだと思わなかった、でしょ?」
横から姉ちゃんがフォローした。石油会社で仕事をしているお父さんはいつも仕事であまり家で話をする機会がないのは我が家の事情だ。今この通夜の席でいないのもカタールで単身赴任をしているからだ。
 父さんは昔のことはあまり話すのは好きでなかったが「船に住んでいたんだ」言っていた。だから自転車にも車にも乗ったことがない、と。そう説明すると諒一兄ちゃんは笑い出した。
「二人ともどんなところを想像してたん?」
「だってさ、端島だか軍艦島だか言われてもわかんないんだもん」
「ごめんごめん、賢ちゃんもトモちゃんもそうか、今はな、エエもんがあんねん」
 そう言って 兄ちゃんが見せてくれたのはスマホで出した「軍艦島」とやらの写真だ。
「これって、船?」
「だから島やて言うてるやん」 
「へえ、こんな島があるんや」
「何でもここでは学校も病院も、映画館もパチンコ屋まであったんやてよ」
「へえーっ……」
 僕と姉ちゃんはスマホに映る祖父の故郷を初めて見た。外観からはどう観ても名前の通り「軍艦」にしか見えないその姿を見て僕はそこにあった生活はどんなものか急に知りたくなった――。

作品名:時代の端っこから 作家名:八馬八朔