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おえかきギミック

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「ねぇ、先生。」
「ん?」
「私ね、昨日妖精の絵を描いたの。」
「見せてごらん。」
私は噴水ではしゃいでいる妖精の絵を見せた。
「リリスちゃんは本当に絵が上手だね。」
「そうでしょ?」
「うん。とても12歳とは思えないくらい上手だよ。」
「ねぇ、先生。」
「ん?」
「病院のお庭を散歩してきてもいい?」
「いいよ。でもあまり長くならないようにね。」
「はい。」
そう言うと私は病院の庭へ行った。

私が入院している病院には噴水やお花畑やベンチやたくさんの木がある。そのせいか病院の庭へ出ると病気であることも忘れてしまう。それくらい魅力的な場所だった。これが家の庭だったらもっと良かったと思った。
私は毎日、先生の許可をもらっては病院の庭へ行っていた。そこで何をする訳でもなく、ただぼーっと景色を眺めたりする。それだけで幸せな気持ちになれた。逆に言えば、病院という閉鎖された空間の中で唯一の幸せな空間だったのかもしれない。

この日はものすごく天気が良かった。病院の庭へ来た私は何気なく噴水へと向かった。噴水を眺めるようにしゃがみこんだ。それから綺麗な青空を見上げた。雲ひとつない快晴だった。耳を澄ますと噴水の音と小鳥のさえずりが、素敵な音楽のように聞こえた。
そして私は少しずつ顔を下げ、噴水の噴出す水を見た。そうすると薄っすらと虹が架かっていた。
「わぁ、虹!綺麗!」
私は思わず声に出して言った。雨上がりでも虹はなかなか見ることができないのに、こんな身近な噴水で虹が見れるなんて思いもしなかったからだ。私はすごく幸運な人だなと思えた瞬間だった。それからもしばらく噴水に架かった虹を見つめていた。そうすると噴水の音と小鳥のさえずりが奏でる音楽を邪魔するかのように、耳が痛いくらいの高い音の耳鳴りが鳴り始めた。
「うるさいなぁ!邪魔しないで!」
私はまた思わず声に出した。でもきっと病気のせいかもしれない。そう思うとなんとなく割り切れる気がした。
作品名:おえかきギミック 作家名:清家詩音