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夢幻圓喬三七日

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「女道楽って今も続いているみたいですよ。大阪に一人いますよ」
「一人だから連が取れちまったのかい。何とも中途半端ないい方だな。しかし、大阪か、一度行ってみたいな」
 余裕があれば僕も行きたいが、今日いち日で帳簿はマイナスだ。明日のご祝儀に期待しよう。師匠に橘之助さんの情報を伝えることにした。
「その後、橘之助さんは圓三郎さんと結婚しましたよ」
「二人は仲が良かったからな。末廣にも一緒に出たよ。こちらも一件落着だ」
「一度橘之助さんの高座を観たかったですね。トリを取るほど上手かったんでしょ」
「櫓太鼓(やぐらだいこ)の金之助、外連(けれん)の里朝(りちょう)、そしてたぬきの橘之助。これが三味線に因んで三本の指だ」
 上機嫌に指を三本立てて洒落ている。少し酔ってきたのかな。
「師匠、上手いですね」
「柴田だ」
 あんまり酔ってはいなかった。それどころかいきなり僕に切り込んできた。
「おまえさんの好い人のことを聞かせておくれよ」
「いきなりなにを言うんですか」
「こないだ言いかけたろ。この家にはその人の下着はねえって」
「覚えていたんですか」
「覚えているも何も、おまえさんは嬉しそうに話してたじゃないか」
「嬉しそうになんかしてませんよ。揉めているんですから」
「なんだ、喧嘩でもしたのか。早く謝っちまいなよ」
「喧嘩なんかじゃありませんよ。彼女に黙って会社を辞めたのか気に入らないみたいで、あれこれ言われるんですよ」
「それを俺の時代では痴話喧嘩って云ってたんだけどな。今の時代では何て言うんだい」
「今の時代でも痴話喧嘩ですよ」
 その時胸の携帯が震えた。父からのメールだった。師匠との話を中断してメールを確認する

……蕎麦屋の大将が明日は大丈夫か確認してくれって五月蠅いんだよ。それと、母さんが話したがっているから、早めに来て昼食を一緒に食べないか? 恐惶謹言(きょうこうきんげん)……

 母がなにを話したがっているのか気になったが、内容を師匠に伝えて、父に返信する

……委細承知の助 因(よ)って件(くだん)の如(ごと)し……

 きっとこのメールを自慢げに蕎麦屋の大将に見せるはずだ。
 もう少し時間があるので、落語鑑賞会をしよう。三日目が更けてゆく

作品名:夢幻圓喬三七日 作家名:立花 詢