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赤狭指村民話集成

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茶の秘密



 あれは確か、大正、いや昭和の初めごろじゃったなあ。この床津地方にふらりとやって来て住み着いた男がおった。
 この男、たいそう働き者での。それなのにどこか人懐っこいところもあっての。そんな男だったもんで、周囲の者も心安くしておった。
 ある日、この男が突然、この地方で新しい事業を始めるとか言い出してのう。膨大な土地を買い占めて、良霧川沿いで茶の栽培をおっぱじめたんじゃ。

 普通はそんなあてずっぽうな事業なぞ始めても上手くいかんもんじゃが、この男の場合は上手いこといったらしくてのう。なんでも、この男の作る茶葉は、得も言われぬ独特の美味であったということじゃ。そんなこともあって、みるみるうちに得意先が増えていき、あっという間にその茶葉は当時の一代銘柄になったんじゃ。
 そうなると当然、後追いで茶の栽培事業を始める者も出てきたが、同じ床津地方で作っているにも拘らず、その男が作る茶のような「独特の美味」は出せなかったそうじゃ。

 じゃが、その茶の美味の理由は意外な所から露見してのう。

 ある所で、余命幾ばくもない老人が、今際の際に『茶を飲みたい』と言い出したんじゃ。そこで、どうせなら売れ筋をということで床津の茶をその老人に飲ませたそうじゃ。すると、その日清、日露の両戦争を行き抜いた御老体、急に目をカッと見開いて

『これは死人の味じゃ。この茶が植わっている箇所を掘ってみろ。死体が埋まっとるぞ』

と叫んだそうじゃ。

 当時、この地方では若い女性を狙った奇怪な連続誘拐事件が相次いでいて、犯人はおろか、被害者すらも見つかっていない状況じゃった。初めは周囲も警察も老人の言を一笑に付していたが、事件解決の糸口が見えないため、当たって砕けろとばかりにその男の茶畑を掘り返してみたそうじゃ。
 すると出るわ出るわ。すでに骨になった者から、まだ生々しい肉がついているものまで、数十の遺体が茶畑にびっしりと埋まっていたんじゃ。その遺体は全て、茶の根っこによってその養分を吸い取られるかのように包み込まれ、その姿はさながら繭のようであったと言われたそうじゃ。

 男は、茶畑を掘り返される直前、どこかに行方をくらましてしまっての。事件の方は結局、未解決となったそうじゃ。

(民話採取元:床津郡 佐藤 花吉)


作品名:赤狭指村民話集成 作家名:六色塔