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三年目の同窓会

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「だから、同窓会も三年なのかい?」
 横から、川崎が間髪入れずに質問した。
「ああ、だから三年なのさ。皆三年も経てば、きっと変わっていると思ったからな」
 そういえば、皆それぞれに変わった。特に女性は、セーラー服におさげ髪と言った雰囲気から、化粧の似合うレディに変身していた。見紛うほどの変わりように、川崎も最初は目のやりどころに困ったほどだ。
 さらに香水の香りも印象的で、高校時代から顔立ちがハッキリしていた佐久間恵子など、化粧を施しても、やはり綺麗だと思わせる雰囲気に、思わず唾を飲み込んだほどだった。
 恵子は、当時と変わらず、背が高く、スラリと伸びた足は、ミニのタイトスカートがよく似合った。いかにもOLという雰囲気に、社会人一年生だという新鮮さも加わって、一度見てしまうと、しばらく目が離せなくなるほどだった。
 男の視線には慣れているのか、恵子は嫌な顔をするどころか、誘惑の目でこちらを見ている気がしてきた。
――俺に気があるんじゃないか?
 と、川崎が感じるほどで、見つめられると思わず顔が赤らんでくるのを感じ、何とか隠そうとしているのを見て、
――あら、可愛いわ――
 とばかりに、口元が怪しく歪んだのを、川崎は見逃さなかった。気がついてもどうすることもできない自分に腹立たしさを感じながら、視線をしばし美穂に向けてみた。美穂はそんな川崎の気持ちを知ってか知らずか、坂出と話し込んでいる。その顔に笑顔はなく、――何か深刻な話なのかも知れない――
 と思い、しばし、二人を見つめていたのだった。
 坂出は、女性に対して、だらしがないという噂を耳にしたことがある。
 しかもその噂とは、いくつかあり、一度に複数の女性と付き合っているという、浮気性な内容のものや、女性に対して甘く、女性のいうことを何でも聞くために、悪いこともしかねないという噂である。
 内容としては、どれも悪い噂ではあるが、内容的にはそれぞれに相違があり、まったく違った立場から見ているものがほとんどだった。
――どうして同じ人に、そんな違った噂が立ったりするんだ?
 川崎は、坂出とは中学の頃からの付き合いなので、噂の中には信憑性の高いものもあるが、まったく根も葉もないものだと思えるものもあることを分かっている。坂出に限って、女性に利用されるようなことはない。かといって、利用することもない。彼が普通にしていれば女性の方から寄ってくる。
 だからと言って、プレイボーイというわけでもない。彼の素振りの中に、女性に対しての優しさが感じられるのだ。彼の中で、どこまで意識してのことなのか分からないが、彼の持って生まれた天性の素質のようなものなのかも知れないと思うのだった。
 基本的に、女性の前では毅然とした態度で、女性に慕われるタイプだと思っていたが、たまに見せる彼の憂鬱な態度は、女性の母性本能を擽るらしい。男の川崎には分からないが、そのことを教えてくれたのが、恵子だった。
 恵子は、あどけなさの中に、大人の魅力を醸し出す女性であったのと同時に、好感が持てる男性に対しては、大っぴらな態度を取っていた。
 一見、尻軽に見えるが、実際には自分から男性を口説くようなことはない。醸し出すフェロモンを、男性が放っておかないのだ。
 川崎も、恵子の存在をずっと気にしてきた。だが、恵子のことを最初にうわべだけで見ていたせいもあり、気にしていても、近寄って行こうという気にはならなかった。恵子のまわりには絶えず男がいて、自分の入り込む隙間などなかったからだ。
 ただ、そんな恵子に、坂出も近づこうとはしなかった。そんな坂出を見ていて、川崎は、自分が、
――ひょっとして勘違いしているんじゃないか?
 と、その時に初めて、恵子という女性の本当の姿を垣間見た気がしたのだ。
 恵子と、美穂は仲が良かった。
 女性から見たら、恵子は人気が高かった、朗らかで、明るい性格は、女性から好かれるタイプだった。男性に対しての態度も女性から見れば、分かるのだろう。
「あなたは、損な性格をしているのかも知れないわね」
 と、誰かから言われて、少しショックを受けている時期の合った恵子を慰めていたのが、美穂だったのだ。
「あまり気にしない方がいいわよ」
「ええ」
「彼女も悪気があっていったわけじゃないからね」
 と慰めていたが、もし相手が恵子でなければ、この言葉は火に油を注ぐようなものではないだろうか。
 恵子は、美穂の言葉を噛み締めるように聞いていた。美穂の言葉は、話し方によるのだろうか、聞いていて、相手に余計なことを考えさせないようなところがある。そうでなければ、恵子はさらなるショックに打ちひしがられていたかも知れない。
 だが、恵子を慰める言葉は、他にはないのではないかと思えた。放っておくか、火に油を注ぐのを覚悟で忠告するかであるが、美穂であれば、後者でも大丈夫だ。他の人が聞いたら、
「それくらいのことで、何を真剣に考えているの?」
 というであろうことでも、恵子にとっては追いつめられる言葉となる。それだけ恵子という女性は感受性の強い女性であった。
 恵子のような女性は、そばに常に美穂がいなければ、一人で殻に閉じ籠り、友達などできなかったのではないだろうか、それを一番よく分かっているのが実は坂出で、グループの中のリーダー格であることを、誰もが疑わない性格であるところは、そこにあるのだった。
「坂出は美穂のことが好きなのだ」
 と、川崎はずっとそう思っていた。だが、果たしてそうなのだろうか?
 恵子の存在は、誰もが気になっている女性であるが、気になっていることを男性それぞれがまわりを意識してしまって、なかなか恵子に近づけない。恵子は知らず知らずのうちに、男性のバリケードを作り、自らを守っている形になったのだ。だが、デメリットもあり、本当に好きな男性も近寄ってきてくれない。そこが、恵子の損な性格の一つでもあるのだろう。
 恵子を好きな男性は他にもいた。グループの中でもいたのだが、恵子自身が相手にしていない。男性を見る目はあるように思えていたので、恵子に相手にされない男性は、それだけの男性なのだろう。川崎は友達としては最高だと思われているようで、それだけで十分だった。
 恵子は美穂に気を遣っていた。それを思うと、川崎が美穂を好きなのを知っていて、美穂に気を遣っているのではないかと思うのは買い被りだろうか? もし、恵子にそんなことを言おうものなら、
「何バカなことを言ってるんだか」
 と、一蹴されるに違いない。
 同窓会の前準備に奔走する美穂は、本当なら女にしておくのはもったいないと言えるほど、テキパキとしていた。
「美穂がいてくれるから、本当に助かったよ」
「いえ、川崎さんこそ、なかなか幹事がさまになってますよ。ご自分では気づかれていないかも知れませんけど、結構気を遣っていらして、私も見習いたいくらいです」
 ウソかも知れないが、それでも嬉しかった。美穂に褒められると、いやらしさを感じない。他の人からであれば、社交辞令に近いものを感じるのだが、美穂からは伝わってこないのだ。
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次