小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

三年目の同窓会

INDEX|1ページ/56ページ|

次のページ
 

              第一章 三年後の同窓会

「三年経ったら、また同窓会をしような」
 そう言っていたのは、坂出俊文だった。
「うんうん、そうだよ。またしようよ」
 と、その言葉にいの一番に乗ったのが、鈴木美穂だった。二人はアイコンタクトを送って、賛同者を煽った。もちろん、反対者などいるはずもなかった。
 高校を卒業してから三年目、仲の良かった友達ばかり集まっての同窓会。メンバーは男女それぞれ四人ずつの八人での同窓会。こじんまりとしていて、気兼ねがいらない分、楽しめる。
 全員、坂出の申し出に賛成だった。元々、この同窓会も、三年前の卒業式の日に、坂出が言い出したものだった。今年叶ったのだから、三年後も叶うだろうというのは、少し安直な考えであるが、希望を持つのは悪いことではない。それを励みに頑張れることだってある。
 皆それぞれにストレスを抱えていても、昔の仲間が集まれば、花が咲くのは昔話、嫌なことを忘れるには絶好の場所で、
「待ちに待った同窓会だ」
 と言っているやつもいた。
 同窓会を楽しみにしていた中に、川崎恒久がいた。彼は、いつも幹事役を任されるのだが、言い出しっぺの坂出がすればいいのにと思いながらも、なぜか幹事を任されても文句が言えないのだ。面倒見がいい性格ではあるのだが、たまには自分も楽しみたいと思う。最初は、人から頼りにされるのが嬉しかった。中学時代までは、自分のことだけしか考えておらず、まわりはそのことを分かっているからか、クラス委員に勝手に選出されたりしたものだ。別に彼が頼りになるというわけではなく、嫌みから皆が推薦したのだった。
 それでも、やっているうちに様になってくるもので、
「川崎さんは頼りになるわ」
 と、特に女性からの支持をもらえるようになってくると、それまで嫌だったクラス委員も、まんざらでもなくなってくるのだった。
 女性から頼りにされると、川崎も有頂天だった。
――俺って、結構頼りになるんじゃないかな?
 自惚れかも知れないが、自惚れて力が発揮できるなら、それに越したことはない。
「人から頼りにされるのって、結構くすぐったいものだな」
 と、自然とほくそ笑んでいる自分に、なかなか気が付かない。
「気持ち悪いわ」
 と思っている人もいただろうが、そんな人は別に気にならないので、放っておいてもいいと思っていた。
 川崎は、自分の性格を両極端だと思っていた。好きになってくれる人もいれば、嫌いな人もいる。それは誰でもがそうなのかも知れないが、彼の場合は、序実に現れている。分かりやすい性格だと言えるのではないだろうか。
 短所なのだろうが、川崎は短所だとは思っていない。むしろ、長所の裏返しではないかと思っているので、その性格を悪い性格だとして、治そうという気には、ならなかった。
 川崎と坂出はグループの中では、それほど仲がいいというわけではなかった。むしろ、他の連中の方が坂出と仲が良く、川崎の入り込む隙間がないというのが、本音だったのかも知れない。ただ、それもいずれ、坂出のためにひとはだ一肌脱ぐようになるのだが、それも、坂出が本当は、川崎と仲良くなりたいと思っていたということを聞かされて、自分の早合点だったことに気付かされて、後悔したほどだった。
「川崎さんは、おだてられると弱いけど、自分で勝手に判断して、すぐに諦めるところがあるから、注意した方がいいわよ」
 と、助言してくれたのは、鈴木美穂だった。
 美穂は、グループの中では、女性の筆頭格だと言ってもいい。男性の筆頭格が坂出なら、女性は美穂である。大きなお世話だと思っても、指摘してくれたのが美穂だったら、彼女の意見を無下に否定することなど、してはいけないことであった。
 美穂のいうことは、川崎以外の男性でも逆らうことができなかった。あの坂出でも一目置いていて、お互いに高いレベルでのところで、お互いの意見を語り合っていることもある。川崎にはついていけないと思いながらも、時々、坂出が羨ましく思うくらいだった。
――俺は、美穂のことが好きなのかな?
 好きだという気持ちは間違いなくあるのだが、諦めの良さが手伝ってか、それを認めようとしない自分がいるのも確かだった。
 女性を好きになるにも、何かの理由がいると川崎は思っていた。それは自分が諦めが早い性格に起因しているからだということを自覚していなかったので、その理由を自分で理解できていなかった。
 同窓会の幹事になってから、美穂と親しく話せるようになったのだから、まさに、
「災い転じて福となす」
 ということわざ通りである。
 幹事をするにしても、嫌々していたわけではないところが好感を持ってくれたのかも知れない。自分でも嫌々やるのと、気持ちを切り替えて楽しくやるのでは、楽しくやる方がいいに決まっている。
 最初の同窓会の段取りは、美穂の方である程度出来上がっていた。川崎は、同窓会のことなど、半分忘れていたくらいで、美穂から最初に連絡があった時、どうして連絡してきたのか分からず、嬉しさだけが頭にあったが、
「ほら、同窓会の話をしていたでしょう?」
 と言われて、
「ああ、そうだったね」
 と、曖昧に答えたが、それに対して美穂は、川崎を責めるようなことはしなかった。だいぶ後になってから、
「忘れていたくせに」
 と、意地悪を言われたが、それも、すっかり打ち解けた後だったので、一つの話題として笑って話せる内容だった。
 同窓会のメンバーとの連絡、さらには会場の手配など、美穂は実にテキパキと動いてくれた。しかも、自分はあくまでも裏方としてである。川崎がすべて手配したようにしか、皆は思わないだろう。それだけでも美穂に感謝しなければいけなかった。
 最初の同窓会では、大学生と社会人とそれぞれに別れての同窓会となった。大学生とはいえ、そろそろ就職活動に勤しまなければいけない時期に差し掛かっていたので、すでに大学生としての浮かれた気分はある程度失せていた。
 就職組は、女の子三人と、男は一人だけだった。女の子でもそのうち二人は短大を卒業して、社会人一年目で、結構大変だと話している。社会人を経験している男というのは、言い出しっぺであった坂出である。
 あまり坂出は仕事の話をすることはなかった。社会人の少ない中で話をしても仕方がないと思ったのか、それとも話すと愚痴になってしまうだけだと思ったのか、自分から話すこともなかった。あまり愚痴をこぼしたところを見たことがない坂出らしいとは思ったが、どこか寂しそうな雰囲気を感じたのは、川崎だけだったのだろうか。
 話題は学生時代に終始していた。
「タイムカプセルを作ってもよかったな」
 と言い出したのは、いつも突飛なことを言って、まわりを驚かせる木下だった。
「少し古臭い考えじゃないか?」
「確かにそうかも知れないけど、こうやって後から皆集まるのなら、そういう話題もあって不思議じゃないと思うんだ。お前は自分で、何を埋めたか、何年までなら覚えていられると思うかい?」
 話題を振られた坂出は苦笑した。このメンバーの中では一番物忘れの激しい坂出だけに、そう長く覚えていることはないだろう。
「三年、がいいところかも知れないな」
作品名:三年目の同窓会 作家名:森本晃次