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短編集46(過去作品)

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 学校では相変わらず男性が声を掛けてくる。そんな中に自分のタイプの男性がいないことで、ストレスが溜まってくるのを感じた。
――どうして、私には好みでもない男性からしか声を掛けてこないのかしら――
 と考えていたが、誰にも相談できるはずもない。そんなことを相談すれば、
「声を掛けられるだけいいじゃない。選り好みするなんて贅沢よ」
 と言われそうで、それが怖かった。別に選り好みしているわけではない。付き合い始めたとしても、何を話していいか分からないのだ。別に男性恐怖症というわけではない。普通の女の子と同じように彼氏がほしいのだ。
 彼氏ができれば、どういう話をして、どういうデートをしたいかということもおぼろげではあるが、時々想像して楽しんでいる。相手の顔は最初こそ想像できていたが、最近ではなぜか、想像することができなくなっていた。元々想像していたとしても、それは芸能界のアイドルであり、ありえるはずのない想像であった、今から思えばそんな想像ができていたことすら信じられない。そんな自分が恐ろしくさえ感じる。
――本当に自分の想像だったのかしら――
 と感じるほどである。アイドルなど、今から考えれば夢にだって出てくるはずはないと思っている。
 声を掛けてくる男性は、相変わらず綾子の話しかけやすい雰囲気を強調していた。最初はそのことを聞くとそれなりに嬉しかったものだが、あまりにも皆同じ判で押したような言い方をされると興ざめしてしまう。ウソっぽく聞こえてしまうのだ。
 あまり人と話したくないのもそのあたりが影響しているのかも知れない。まわりが皆ウソっぽく感じるようになったのは今に始まったことではない。小学生の頃からそんなイメージがあった。
――世の中を冷めた目で見ているから――
 と自分で感じていたが、それよりも自分のことをよく分からないとい思いの方が強かった。
 自分のことも分からないのに、まわりのことが見えるわけもない。小さい頃から本当はアイドルが好きではなかった。中学に入ってデートする相手としてイメージするのがアイドルであることに疑問を抱きながら過ごしていた。自分が一番よく分からなかった時期かも知れない。
 特に好きではなかったのは、女性のアイドルである。アイドルが好きではなかったというよりも、アイドルに熱中するミーハーな友達が嫌だったとも言える。
「可愛いわね。あんな恰好できたら素敵よね」
 昔のアイドルほどではないにしても、アイドルらしい服装は見ている方が恥ずかしくなると感じるのは、綾子だけだろうか。魅了されているのを見ると恥ずかしくないのかと疑いたくなってしまう。
 アイドルがどれだけ自分に自信があるのか判らないけれど、少なくとも男のファン獲得のために着飾っているというイメージしか湧いてこない。それなりに自分に服装に負けないほどの資質が備わっているのであれば何も言わないが、綾子が見る限り、備わっている人は一人もいないように思えてならない。それこそ偏見かも知れないが、自分にはできるわけもないし、自分がアイドルなら嫌になるだろう。だからアイドルという人種は好きになれないのだった。
 性格の違いだろう。
 人によっては、
「私は恰好から入るのよ」
 という人もいるだろう。別に言い訳でもないが、綾子には言い訳にしか聞こえない。やはり偏見は相当なものだったに違いない。
 綾子に声を掛けてくる男性を見ていると、どちらかというと軽い男性が多いように思えた。確かに話しやすいというイメージで近寄ってくるのは、貫禄のある男性というよりも軽めに見える男性の方が多いだろう。それだけに綾子にとっては嫌だった。
 元々静かなタイプの綾子に、軽いタイプの男性が話しかけても絵になるものではない。適当にあしらっているというのが現状だろう。冷静な目で男性を見ることができると思っていたが、冷めた目で見ているというイメージが他の女性にはあるのかも知れない。
「綾子って結構お高くとまっているところがあるのね」
 という陰口を囁かれているのを噂で聞いたことがあるが、それも
――もてない女性のやっかみ――
 という風に割り切っていた。
「好きでもない人たちから声を掛けられて、何が楽しいものですか」
 と、心の中で呟いている。
 冷静に考えられるようになって、まわりからやっかみを抱かれるようになってからの綾子は、雰囲気が変わってきたことに自分でも気付き始めていた。その頃から背も伸びてきて、大人の女性のように見え、鏡を見ていて楽しくなってきている自分にハッとしてしまう自分を感じていた。小学生時代のニックネームだった「もんちっち」のイメージは完全に払拭された。それが、軽いタイプの男性が好きになれない自分の性格を司っているように思えてきたのだ。
 中には軽いタイプの男性が好きな女性もいるだろう。自分からは声を掛けられないが、話をすれば軽いタイプの男性であれば、話が続くと思っている女性、そんな人たちにとって綾子はどのように映っていることだろう。
 綾子自身はそんなことはお構いなし、別に他の女性が自分のことを何がどう思っていようが関係ないと感じていた。男性からは、話しかけやすいように思われていて、女性からは冷めたように見られている。これは一体どういう現象なのだろうか?
 そのうちに綾子にも気になる男性が現れるようになった。彼は最初から綾子に話しかけることはしなかった。ただ、視線だけを送っていたのだ。
――何となく気持ち悪いわ――
 最初はそんなイメージだった。だが、今までにそんなタイプの男性がそばにいなかった。その目は冷静で、ストーカーなどのように鬼気迫る視線ではない。そのことは綾子には最初から百も承知だった。
 男の人の視線にビクつき、意識してしまう自分が初めて、
――可愛い――
 と思えるようになった。
 綾子が思春期を迎えたのは他のクラスメイトから比べれば少し遅かったかも知れない。まわりでは初潮を迎え、赤飯を炊いたなどという話を聞かされていても、どうして赤飯なのか理屈が分からなかった。初めて知ったのは自分にも同じ日が訪れた時だった。驚いたのは驚いたが、ショックというものはなかった。予感があったからかも知れない。
 綾子にとって、男性を意識し始めたのはそれからだった。自分の初潮が遅かったことへの意識は少しあったのか、他人に悟られるのが嫌だったのだ。そのうちに冷静さが表に出てくるようになると、そういうキャラクターとしての認知が自分の意識を問わず、まわりからの目が否応なしに決定してしまう。あまり綾子にはありがたくないことだったかも知れない。
 視線を向けてくる男性は、声を掛けてくる男性とは明らかに違っていた。
「話しやすいからだよ」
 というのをウソっぽい言葉だと感じている間は、その男の視線に気付いていなかった。いつ頃から綾子に対しての視線を見せていたのか分からない。だが、彼の視線を感じるようになってから他の男性から話しかけられることもなくなった。
 少し寂しい気もしたが、ウソっぽいセリフを吐かれるよりもマシだった。
作品名:短編集46(過去作品) 作家名:森本晃次