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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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堕とされしものたち 機械仕掛けの神

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 鋭い爪が何度も何度もロボットの身体を貫通し、火花を撒き散らしながらシュートしたロボットは動きを止めた。しかし、鴉に脅威が迫る。
 蜘蛛型ロボットの群れが鴉にいっせいに飛び掛った。
 群れを成す蜘蛛型ロボットは鴉に噛み付き肉を剥ぐ。黒衣が徐々にどす黒く染まっていく。
 鴉は表情ひとつ変えず素早く回転し、広がった黒衣は大きな鎌へと変わり、蜘蛛型ロボットが薙ぎ払われる。
 蜘蛛型ロボットは地面に転がりショートするが、壁一面には蠢く群れは鴉を狙っている。
 計ったように蜘蛛型ロボットがいっせいに鴉に飛び掛る。地面を蹴り上げた鴉は廊下の奥へと走って逃げる。
 金属を鳴らしながら群れが鴉を追って来る。
 走っていた鴉の脚が後ろに引きずられ、片腕が大きく後ろに引かれる。鴉の四肢は蜘蛛型ロボットから吐き出された糸によって捕らえられていた。
 鴉は腕に力を入れ、強引に巻きついた糸を引き破ると、すぐに手を硬質化して脚に絡みついた糸を断ち切った。
 再び鴉に向かって糸が吐き出される。鴉は床を転がり避けると、再び立ち上がって走った。
 蜘蛛型ロボットとの距離は広がっていくが、鴉の足が急に止まってしまった。
 鴉の前に立ちはだかる壁。後ろからは蜘蛛型ロボットが迫ってくる。そして、右手にはドアがあるが、鴉の目に入ったのは左手にあったダストシュートであった。
 ダストシュートの蓋を開けた鴉は、その中に勢いよく飛び込んだ。
 滑り台のような坂を滑り降りた鴉は瓦礫の山に降り立ち辺りを見回す。
 金属片やプラスチック、薬品の入ったビンなどが分別されずに捨てられている。効率を優先されたこのようなダストシュートにはリサイクルなどという概念はない。そして、このようなダストシュートの中には決まってある種の生物が飼われている。
 鴉の立つ瓦礫の山が大きく揺れた。
 低い唸り声が部屋中に響き、生臭い臭いが地面の下から上がって来る。
 鴉の立つ地面が揺れるとともに大きく下がり、瓦礫の隙間からギロリと輝く目が覗いた。
 地面が激しく揺れ、瓦礫を噛み砕く音が鳴り響き、巨大な何かが瓦礫の山の下から姿を現した。
 ナメクジのようにぶよぶよとした身体はヌメヌメとした粘液に覆われ、褐色の身体は一定の形を持っていないらしく、変幻自在に動き回る。通称ジャンクイーターと呼ばれるキメラ生物だ。
 ジャンクイーターが臭い息を吐きながら大口を開けと、そこには鋼鉄をも噛み砕く三角形の刃が並んでいる。
 伸縮自在の身体を活かし、ジャンクイーターが鴉に襲い掛かった。
 鴉は飛び上がり、ジャンクイーターガシッと歯を鳴らし空に喰らい付いた。あの歯で噛み付かれては鴉とて無事ではすまない。それにジャンクイーターの強靭な胃の中に放り込まれでもしたら、助かる見込みはまずないだろう。
 黒衣を大きくはためかせながら、鴉は硬質化させた爪でジャンクイーターを切り裂こうとした。しかし、軟らかだったジャンクイーターの肉が硬く変化して鴉の攻撃を弾いた。
 弾かれた鴉は暴れ回ったジャンクイーターに体当たりをされ、黒衣を靡かせながら瓦礫の山に叩きつけられる。
 瓦礫に倒れる鴉の黒衣が蠢き幾本もの槍と化し、ジャンクイーターに襲い掛かる
 ジャンクイーターは身体を硬質化させるが、槍と化した黒衣には通用しなかった。
 闇色の槍がジャンクイーターの身体を串刺しにし、傷から出た粘液が迸り瓦礫を溶かす。
 暴れ狂うジャックイーターは大きな口を開け、鴉を喰らおうとする
 黒衣が激しく揺れる。鴉はジャンクイーターを見据える。次の瞬間、鴉はジャンクイーターにひと呑みにされた。
 ジャンクイーターの胃液はありとあらゆるものを溶かす。その胃の中で鴉は生きていた。黒衣に全身を包むことによって、鴉はジャンクイーターの胃で生き抜くことができたのだ。
 黒衣から闇色の針が幾本も飛び出し、ジャンクイーターの身体を内側から突き破った。
 ジャンクイーターはのた打ち回り、胃液とともに鴉を吐き出すと、ゆっくりと息を引き取った。
 どこからか水の流れる音がする。
 鴉は辺りを見回した。すると、微かに見える壁の下部が鉄格子になっている。その鉄格子は人が寝そべって通れるほどの大きさで、その奥から水の流れる音がする。
 鴉は瓦礫を掻き分けて鉄格子に手を掛けると、そのまま力強く後ろに引いた。頑丈な鉄格子はいとも簡単に外れ、鴉は小さな隙間に身体を滑り込ませた。
 鴉が出た場所は帝都大下水道であった。
 オレンジ色の埋め込み式ランプが取り付けてあるが、下水道は薄暗くどんよりとした雰囲気が漂い、鼻を衝く強烈な臭いが汚水から立ち上ってくる。
 帝都の大下水道は危険極まりない場所であり、帝都政府ですら立ち入ることを拒む。突然変異で体長一メートル〜二メートルまで大きくなった巨大ネズミなどはまだ可愛いもので、下水に棲む大海蛇リヴァイアサンの全長は六〇メートルから大きいものでは一〇〇メートルにも達し、時には帝都に局地的な地震を起こすことで有名だ。
 闇の奥からいくつもの生物が鴉のようすを窺っているが、出て来る気はないようだった。それどころか生物たちの気配が鴉から遠ざかって来る。
 ――っ来る!
 鴉は感じ取った。去って行く生物たちとは別に、鴉に向かって何かが近づいて来る。
 静寂の後、下水が波打ち、水面から切るように進む背鰭が見えた。
 身構える鴉の瞳が見開かれる。
 水面が波打ち激しい水飛沫が大気中に舞い、水の底から大きな何かが咆哮をあげながら姿を現したのだ。
 水面から出ている部分だけでも一〇メートルを越えているであろう、その長い身体は蛇のようであるが、下水とは不釣合いに美しい輝く透き通る鱗はゴツゴツとしていて、それはまるでオーロラの甲冑を纏っているようだ。
 長いニ本髭がまるでそれ自体が生きているように動いている。そうこれが帝都の下水に棲むキメラの中で最も出遭いたくない大海蛇リヴァイアサンだ。
 奇声をあげるリヴァイアサンの口には剣のような歯が並び、下は蛇のように忙しなく動いている。
 互いを見据える鴉とリヴァイアサン。先に仕掛けたのはリヴァイアサンであった。
 唸り声をあげる大きな口が槍を突き刺すような動きで鴉に襲い掛かる。
 円舞を踊るようにリヴァイアサンの攻撃を躱した鴉は、そのまま黒衣によってリヴァイアサンも首を断ち斬る。
 巨大な首が地面の上に落ち、巨体は水飛沫を上げながら下水の中に沈んだ。しかし、まだ終わりではない。
 驚異的な生命力を持つリヴァイアサンの頭部が口を開けて鴉に飛び掛る。
 鴉は黒衣を巻き上げるようにしてリヴァイアサンの髭を切った。するとリヴァイアサンは方向感覚を失うが、髭はすぐに生え変わる。そこで鴉は空かさず自分の手首を切って、滴り落ちる血をリヴァイアサンの口に垂らした。
 リヴァイアサンの頭部が枯れていく。干からびて、灰になり、塵と化した。
 鴉の血は生物にとって有毒であり、リヴァイアサンはそれによって塵となった。
 水面が動いた。
 再び身構える鴉。
 激しい咆哮とともに水底からリヴァイアサンが現れた。先ほど水の底に沈んだリヴァイアサンが再生したのだ。