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美しい日本語を守る会 その4

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 ラジオ・テレビでやたら海鮮丼を耳目することが多くなっています。多くの魚が旬を迎えているせいかもしれませんね。
 あたくしはこの「海鮮丼」という言葉を最近知りました。10年ほど前、近所に海鮮丼専門店なるものができまして、それで知ったわけなのです。(あたくしのような爺ぃにとって10年は最近の範疇なのですよ)
 その時はただ素通りしただけの言葉でしたが、ここにきてラジオ・テレビでの、海鮮丼! 海鮮丼! 海鮮丼! を聞くに及び「海鮮丼ってなんですか?」と鯨統一郎のデビュー作のような疑問を持ちました。

 あたくしは自身の作品で、寿司やちらし寿司(あるいはバラちらし)の描写はいたしましたが、海鮮丼は登場させたことがありません。食したことがないので当然ですね。
「海鮮丼」って「ちらし寿司」とは違うの? 何となく「バラちらし」と違うことはイメージできるのですが、根本的に何が違っているのか? を調べました。(人生の残り時間はわずかですが、いち日の時間だけは持てあましておりますので……)

 実はこの「海鮮」という言葉は日本語の新参者でして、どれくらい新参かと言いますと、明治・大正の国語辞書には記述がありません。最初に登場したのが平凡社が昭和9年から発刊を始めた「大辭典(大辞典)」です。これは全26巻、1万6,800ページで項目数は72万語に及ぶ文字通りの大辞典(当時の定価はなんと130円!!! 米が10キロ2円のころ)です。その第5巻に「海鮮」の語釈があります。

【 食用に供せられる海産動物をいふ。陳造の詩「海鮮當入筋」 】
 なんともお古い言い回しで嬉しくなっちゃいますね。蛇足ですが、後半は詩人陳造(正しくは陳慥でしょう)の漢詩で「海鮮筋に入らんと当たる」で、意味は「海のものは身体に良いもんね~」だと思います。筋は中国の古語で肌という意味もあります。
 元に戻すと、一般の人が手に取れるサイズ・価格の辞書に「海鮮」が登場するのは戦後を待たなければなりませんでした。
 今の辞書の語釈は次のようになっています。

かいせん【海鮮】
食用の新鮮な海産魚介。「―料理」主として中華料理に言う。
(岩波 日本語表現辞典)

かい‐せん【海鮮】
新鮮な海産物。「―料理」
(広辞苑 第七版)

 今回調べて驚いたのは「海鮮」という項目がある辞書は少ないことでした。三省堂の大辞林にして記載は第三版(2006年)からです(それまでは「海鮮料理」という項目だけでした)し、未だに記載がない辞書も多く存在します。

 懸命な皆さんは先に紹介した「大辭典(大辞典)」とそれ以外の国語辞書の語釈の違いにすでにお気づきだと存じます。そうなのです、「新鮮な」という形容詞が最近の辞書では追加されているのです。元々は中国の語であった(今でもそうですが)「海鮮」は、中国では「海里的可食用的动物性」でして、意味は「海の食することができる動物」です。新鮮という意味は含まれておりません。日本流に意味が変化する見本ですね。

 そして、フィールドワークした結果(単に食べ歩き、聞き歩きですが)、あたくしなりに「海鮮丼」と「ちらし寿司」の違いを感じることができました。

・寿司屋で「海鮮丼」をお品書きに載せている店はなかった。
(あたくしが行ける店ですから、たかがしれてます)
・逆に寿司屋以外で「ちらし寿司」を出している店もなかった。
(あたくしが行ける店で……以下略します)
・「ちらし寿司」は酢飯だが「海鮮丼」は酢飯以外(白米のご飯)も存在した。
・「海鮮」と称していても穴子や玉子など火を通したり、ネタ(種)に手間を加えているものもあった。
・「ちらし寿司」はお重で出す店もあったが、「海鮮丼」は丼であった。
(所詮はあたくしが行ける店ですし、おすし)
・「ちらし寿司」は店によって、醤油もわさびも追加で必要としないよう手間を掛けている店があった。
(所詮は……略)
・「海鮮丼」のネタ(種)は総じて「ちらし寿司」よりも大振りであった。
・「海鮮丼」って、刺身をご飯に乗せたものじゃね?
・広島のあなごめしは旨い、特に上野食堂
・越後村上は江戸庄の村上牛レアステーキ丼も旨い

 結論は、やっぱり江戸前のにぎり寿司が好きだ~! としたいです(^^)

 最後に「大辭典(大辞典)」の「ちらし」の語釈を載せましょう。
【 ちらし おこし鮓をごもく又ちらし共云ふ。 】

 さすが大辭典! 古式ゆかしい!

 そして、「おこしずし」の項がこちらです。
【 越し鮓 散し鮓を箱に詰めて壓(お)したもの。往事、大阪堂島邊(辺)の米商人が散しといふ言葉を忌みて、かく作り、かく呼んだ。また食する時箸にて掬う如くするを以て「すくひ鮓」とも呼んだ。 】

 この「大辭典(大辞典)」は「国立国会図書館デジタルコレクション」にて全巻見ることができます。平凡社からは縮刷版が全二巻(なんと拡大鏡付きです)で出版されてますが、税込みで6万円を超えていて手も足も出ません。「国立国会図書館デジタルコレクション」はあたくしのような貧乏人の味方なのですよ。

「カツ丼」や「鰻丼(うなどん)」は多くの辞書に語釈がありますが、「海鮮丼」は未だ記載がありません。