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短編集44(過去作品)

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 ある日を境に、急に自分が変わったのではないかと感じる時がある。大人になったような気になる時、異性に感情が芽生えた時などのような内的要因、逆に進学、就職などのように、まわりの環境による外的要因、そのどちらも自分にとっての節目であることは間違いない。
 それを夢で見ることもある。夢で見たことによって、自分が変わったような感覚に陥ることだってある。夢が自分の精神的転機に大いなる影響を与えるのだ。
 そんな時に、時間が止まったような気がしているのは吉塚だけだろうか。夢を見ていたと思っていたが、それが夢と現実の狭間で時間の感覚を麻痺させてしまう。
――特に今日は、年上の人が気になってしまった――
 今まで感じたことのない年上の女性への感情。急に若い女性が子供っぽく思えてきたようだ。一体どうしたことだろう? マスターの昔の話にも懐かしさのようなものを感じる。
 仕事でストレスが溜まり始めていたのを気付いていたはずなのに、わざと気がつかないふりをしていた。それは誰に対してというわけではなく、しいて言えば自分自身に対してである。
――自分を偽るような人生だけは歩みたくない――
 と今までずっと考えていたはずだ。自分を偽ると、人に対しても偽ってしまうという考えが根本にあったからだ。それなのに仕事のことで自分を偽るなど、本来であれば一番したくないことだ。
――仕事で何かあっても、会社は何もしてくれない。自分のことは自分で守るしかないんだ――
 決まりきったことである。だからこそ、自分を偽らず、仕事で無理をしないように心がけていたはずだ。そんな自分が、仕事でのストレスを自分から忘れようとするなど、どこかが自分の中で狂ってきていたのだろう。
――今日という日は、そんな自分を修正する日なんだ――
 そう考えると、夢の内容も分からなくはない。そして年上の女性が気になるのも、実は元々年上が好きだったはずなのだ。小学生時代など、大人の女性に憧れていたが、それを小学生だからと自分に言い聞かせてきた。歳を取るごとに自分が成長していくものだと思い込んでいたからだ。
――後から考えることが、すべて正しい――
 と考え始めてからずっと来た。しかし、人間というのは、ある年齢をピークに老化していくものである。それにいつ気がつくかなのだろう。あくまで折り返し地点、老化が悪いことだとは言わない。考えを熟す時、それが折り返し地点から向こうなのだ。
 人生の一番の分岐点がこの折り返し地点だとすると、今日という日がどれほどの意味を持つか分かってくるというものだ。
――鏡を両端に置き、その中央に座っている自分を見つめているように思えてくる――
 両側には果てしない自分、そのどれもが自分であるのに、どれが本当の自分なのか、分からなくなりそうにさえなるだろう。
 カウンターの奥ということで入り口まで遠く小さく見えているはずの縄のれん、その一本一本が鮮やかに見えてくる。絡めてはまた絡まる。そんな縄のれんにはいくつもの折り返し点が見える。そこにまるでいくつもの人生が折り重なって、その中のどれかにある人生の節目を見ているようだ…・・・。

                (  完  )


作品名:短編集44(過去作品) 作家名:森本晃次