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Aprikosen Hamlet ―武蔵野人狼事変―

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十三宮聖「…無敎様、お怪我は大丈夫ですか?」

塔樹無敎「お蔭様で、大分(だいぶ)回復しました。これなら、すぐ戦線に復帰できると思います。それに、池上町の奴らを助けに行かないと…あっ、痛い!」

十三宮聖「仲間想いなんですね…ですが、まだ完治していないのですから、ごゆっくりなさって下さい。それと、慈悲深き良い子には、お姉ちゃんから贈り物があります^^」

塔樹無敎「この私に、プレゼント?」

十三宮聖「無敎様は、卜占(ぼくせん)などお好きですか?」

塔樹無敎「そういうのは、あまり信じないほうです。理系なんで」

十三宮聖「あら、そうですか? 科学者と呼ばれる方々こそ、科学技術の可能性と限界を、誰よりも良く御存知だと、顕ちゃんに言われたのですが…何でしたっけ?『量子論』とか、『暗黒エネルギー』とか…」

塔樹無敎「無論、己の智識が全能とも思いませんけど」

十三宮聖「うふふっ、謙虚なのは良い事ですよ…では、この中から一枚、お好きなカードを選んで下さい」

塔樹無敎「俺のターン、ドロー!」

十三宮聖「…はい?」

塔樹無敎「…ごめんなさい、何でもないです」

十三宮聖「こちらは十二番、一般的に『吊られた男』または『吊るされた男』などと訳されるカードです」

塔樹無敎「『吊人』ですか? あまり縁起の良いアルカナじゃなさそうですね」

十三宮聖「確かに十二番には、不自由や試練、犠牲と云った意味も伝わっております。でも、そういう時は…このように、逆位置にして思索するのです」

塔樹無敎「カードを逆向きに?」

十三宮聖「…どうやら、あなた様は遠くない未来、大罪と向き合う事になるでしょう。そしてそれは、常識的な手段では乗り越えるのが難しいと思われます。ゆえに、発想を逆転させるのです。時として視点は、真実さえも変えてしまうのです。こうして天が地に降り、地が天に昇るかの如く…」

塔樹無敎「あの…ありがたいんですが、もう少し具体的にお願いできませんか?」

十三宮聖「即ち、敗北と勝利が入れ替わる、負ける事によって勝つ方法を編み出すのです。例えば…お姉ちゃんでしたら、自分の生命を狙っている方に、私の『分身』を送り込み、その間に目標を果たす…なんて事を、考えるかと思いますが…」

塔樹無敎「その前に、分身の作り方を教えて下さい…」

十三宮聖「その答えは、無敎様御自身の中にあるはずです。古き幻想を、新しき創造力に昇華させるのです。このカードを、護符に差し上げます。物語の変化は、今や眼前に迫っているのですから…!」