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沈黙のAI

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若手研究者B「いや、悩み尽きない恋愛感情を成就させるよりも、AI推奨、人工知能による霊験あらたかなるお墨付きの選択の方が、自身の負担にもならず、リスクも少ないと」岡 博士「まあ君達、神社の御符でもないだろうに・・・しかし、僕の友人でさえ直ぐに飛びついた位だからな、・・・全く何を考えているのやら」
その後、AI省推奨のこの特別企画は国を上げてのイベントとして周知されるようになり、まずは、第一期生として1,000組のカップルが誕生したのであった。無論、その裏には、個人のすべてのデータをリンクさせ、数値化した様々な組み合わせを検証し尽くして、最後に最新のバーチャルリアリティでの映像、視覚、聴覚、触感などを取り入れた模擬結婚生活シミュレーションシステムをクリアしての最終決定なのであった。その後も栄えあるカップル達は、ひと組の脱落者も無く順調に交際を続け、晴れて多くの人々に祝福されながら、華燭の宴を各地で挙げたのであった。・・・その1年後、総理官邸地下戦略会議室にて、パネルディスカッションが再び招集され、重要なテーマは、前回からの持越し議題でもあった、人口増減問題に関する事柄が、集中的に討議されていたのであった。
総理「岡 博士の開発したシステムの成果で、ひと組の落伍者もなく幸せな家庭を築いているとか。民心の安定は、すなわち国家の安定に通じると、歴史での教訓が示している限りなのだが」地方創生担当「その後の1,000組のモニタリング調査をしてまいりました所、離婚率は0パーセントと驚異的に推移いたしておりますが、しかしながら何故か、・・・出生率と申しましょうか、受胎の兆候がまだ全く見受けられないとの報告が入っています」と、地方創生担当のせっかちに捲くし立てるような物言いに、苦笑しながら、
総理「それは、まだわずか1年にも満たぬ慶事だし、当人達にとっては、魔法にかけられている様な、まだまだ甘いハネムーンの途上なのだろうから、傍が騒ぐ事でもあるまい。来年か再来年辺りには、それこそ彼方此方で産声が上がる事だろう。そして、国の人口減少問題の処方箋と言うか、絶妙手の一手により、やっと解決の道筋が立ったと言う事だ」
岡 博士「現状としては、想定以上に推移しているとは思いますが、まだまだ楽観は禁物かと」
総理「博士、一生検証するつもりなのかね、AIによって結ばれたカップル達とはいえ、彼らはロボットではないのだから。各々努力して子孫を増やし、素敵な人生を歩んでくれると思うよ。今後はこのシステムをAI省から地方創生省に移管し、さらに大規模に実施して行くように」地方創生担当「は、この伝家の宝刀さえあれば、必ずや出生率を存分に引き上げて、人口減少問題を一気に解消いたしてご覧にいれます。それと、これは私からの提案と致しまして、このシステムの愛称と言いますか、名称について省内で広く議論した折、Ryoen・Musubiと言う提案がなされ、これが実に多くの支持を集めたのですが、総理は如何お考えでしょうか。
総理「うん? Ryoen・Musubi・・・なるほど、我が国のいや、世界の基軸通貨でもある円と縁談の縁を被らせた訳か、良円は良縁につながる一石二鳥とでも言うか、良いアイデアじゃないか、君にしては上出来だよ、・・・いや失敬、君ならばこそのアイデアだ」地方創生担当「は、有難うございます。はげみになります」と言って、深々と頭を下げたのだが、これが神の角度とでも言うのか、無垢な金柑のような頭に、それこそ針孔を通すような精妙さでライトがヒットし、光の束となって総理の目を直撃したのであった。不意を食らった総理は、目頭を押さえながら、うつむき加減に寡黙になり、その僅かの間をとらえた地方創生担当は岡 博士に向かって、「協力をお願いしますよ」と、念を押したのであった、が、岡 博士は目も合わさずに、分厚いテキストデータに目を落としながら、小さく頷いたのであった。それは示し合せたかのように、受胎の兆候がまるで見受けられないと言う報告書と、またそれらに関連して、AIに意思を感じるような寡少な振る舞いを、他の研究者達の間からも指摘されはじめて、動揺していた為でもあった。やがて視力を回復させた総理は「それから先月、国連安保理での議題の中に、我が国と同様の問題を抱える先進各国首脳から、また逆に、無秩序な人口爆発に悩む途上国の首脳からも、規律の取れた出生率を維持する為に、このシステムの提供を懇願されてね。最初は戸惑いもしたが、このシステムがグローバル・スタンダードとして認知されれば、この分野における我が国の、イニシアティブが取れると思い、快く快諾した。よってAI省と地方創生省で連携し、Ryoen・Musubiシステムの知的財産権譲渡契約を速やかにまとめ、海外への技術移転を加速させてくれないか」
地方創生担当「は、全力で対応させて頂きます」と、その時、岡 博士は全く予想もしない展開に、恐れていた現実とは、こんなにも唐突にやって来るものなのかと思いながら、おもむろに顔を上げ「総理、それはすでに決定事項なのでしょうか」と、のどの潤いがなくなり、乾ききった声を絞り出すようにして発言したのであった。
総理「公の場での、それも国連安保理会議中に私が承諾したと言う事だから、いまさらNOとも言えまい。博士、とにかく最善を尽くしてもらうよ。以上」・・・ここで会議は打ち切られ、その後、主なメンバー達は、それぞれの所轄官庁に引き上げたのであったが、岡 博士だけが、起居動作を忘れたかのように、静まり返った会議室に取り残され、総理の最後の言葉を反芻していたのであった。そして、博士は独り言のように、「賽は投げられた、・・・濡れぬ先こそ露をもいとえ、か」と、呟いたのであった。・・・それから数年の後、日本発のAIシステムアプリ、Ryoen・Musubiは、世界中に広く導入され、広範囲に運用されていたのである。欧米各国では、未婚率や離婚率が著しく低下し、途上国では、人口爆発現象も下火になるものと期待されていたはずなのだが、その、次の段階になかなか移行しないと言うか、まいた種からまだ発芽の兆候もないと言う、そう、受胎の報告例がまだ一切届いていないのであった。日本においては、さらに目を覆うような由々しき事態が進行しており、その後、続々とRyoen・Musubiによって誕生したカップル達の間でも、子宝に恵まれないと言う深刻な状況が発生していたのであった。ここに来てついに政府与党は重い腰を上げ、各界からの有識者達を緊急招集し、対策チームを立ち上げたのである。総理官邸地下戦略会議室では、悲壮感漂う中、暗中模索の議論が展開されていた。とくにひときわ、面やつれの色を見せていたのが、地方創生担当であった。
総理「何処をどうしたら良いものやら、地方創生担当は、どんな手立てを打っているのかね」
地方創生担当「・・・それにつきましては、AI省より移管されたこのシステムを着実に運用しただけでありまして、・・・この様な目論見はずれと申しましょうか、1+1=2+αの所、最終的には1+1=0もあり得る訳でして、懸念しておる次第です」
作品名:沈黙のAI 作家名:森 明彦