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沈黙のAI

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岡 博士「人間の生死にかかわるような案件を、まだまだ未知数のAIに裁量させてもよいものかどうか、一抹の不安を感じます。ここは4~5年をかけ、じっくりとシステム構築に向けた基礎研究が先ではないかと存じますが。やはり、科学的な知見をもとに、あらゆる可能性を論じた後、スタートさせるべきでは」
総理「その、一抹の不安とはどんな事柄かね」岡 博士「・・・それは、つまりAIは 1日24時間フルタイムで各国間とデータのエクスチェンジをしているのですが、近年、我々には予測もつかないような、遥かに理解を越えるAI言語を作り出し、どうも他国のAI群と緊密に情報交換をしている節が伺えるのです」
総理「AIに自己が芽生えたとでも」岡 潔博士「感情かどうかは現段階では不明では有りますが、これは私の印象として、時々ふっと生命が宿ったかのような振る舞いを示す時があります。彼らは、人類が積み重ねてきた膨大なデータを日々学習し、数百万年かけて類人猿から人へと歩んできた過程を、もしかしたら猛烈な威勢で追いかけ、自己進化させているのではと。やがて人類の叡智をすべて吸収し尽くし、さらに凌駕したその先には、何が起こるかはまだ予測不能で、時を経て見なければわかりませんが、何か胸騒ぎを覚えるのです」
地方創生担当「あなたの見解を100歩譲って考慮した所で、所詮はただのシリコンと半導体の塊ではないか、そういうものに一抹の不安を覚えるとは、それは貴方の取るに足らぬ杞憂に過ぎないのではないのか」
岡 博士「いえ、人間にも同じようなメカニズムが働いている事を大臣は御存じない! 人は、体内の化学反応によって電気を生みだし、その電気信号を複雑な筋肉や神経細胞に作用させ、脳や心そして体を動かしているのですから」
総理「まあ、待ちたまえ。博士の杞憂かどうかは別として、これは人口減少問題に対処する一つのアプローチとして、ある一程度のサンプリングデータを取得する為の、システム作りに取り掛かって見てはどうだろうか。いくら机上で論理を尽くしても確証は得られまい」岡 博士「・・・では、あくまでも検証のみと言う事であれば、前向きに検討いたします」総理「では、今日のディスカッションは閉会と言う事で、また次回人口増減と、出生率に関する問題を主なテーマとして取り上げる事にしよう。検証結果を楽しみにしているよ、博士」 その後、各担当大臣は秘書官達を引き連れ、予定されている次の公務へと足早に向かったのだが、岡 博士の足取りだけは重くAI省に戻ったのは、千代田区・霞が関一丁目・合同庁舎ビル群に鮮やかな茜色の夕陽が差し込み始めた午後5時過ぎ頃の事であった。やがて1号館9階オフィスに着くと端末を取り出し、大学の頃からの友人でも有り、今では言語学の世界では常にトップランナーを務めている立花 馨教授に連絡を取ったのである。・・・
岡 博士「やあ、立花君久しぶりだな、国際言語学会での君のすばらしい才気縦横の活躍に、僕はいつもながら憧憬の思いを寄せているよ。同期としても誇らしい限りだ」
立花教授「なんだよ急に改まって、だいいちストレートなフレーズを好む君が、そんな称賛の形容詞で持ち上げるとは、ただ事じゃないな」岡 博士「・・そういう事だ」立花教授「ほら、やっと普段の君らしい言語にもどった」岡 博士「言語学者と話すと、いつもあげ足取られてばかりだな」と、苦笑しながら、やや沈みかけていた表情に笑みが戻ったのであった。立花教授「そりゃあ君、一応言語学についてはプロフェッショナルを自負しているつもりだから手厳しいよ・・・それで要件とはなんだい」・・・そこで岡 博士は、戦略会議室でのディスカッション内容を、手短に打ち明け、さらに自身の見解をも熱く語ったのであった。一通り聞き終わった立花教授は、「いやー、長生きはする物だね。一つ僕にも世話してもらいたいものだな、その日本国中から選び抜かれた僕だけのイブをさ」岡 潔博士「不謹慎この上ないな、何かと思えば。君は最近、才色兼備の申し分ない奥さんをもらったばかりじゃないのか、よくも抜け抜けと言えたものだよ。仲間内では得意の言語学を駆使して、上手に口説いたのだろうと話していたのに」立花教授「そりゃないだろう、・・・しかしすまない、大事な話の腰を折って、所でそのAI言語に付いてだけど、僕も少し気になって過去に色々と調べた経緯があってね、しかし僕にはとても難解で取りつく島もなく、とうとう最後には理科研の友人に泣きついた所、ともかく最新鋭のスーパーコンピューターをもってしても、解読不能と言う事なんだ、さらに探索を掛けると、パンクしかねないとの事だった。何しろ、最新のアルゴリズムを駆使しての、しらみつぶし探索では、かるく1千万年はかかると言う話でね、解は、少なく見積もっても10の80乗ほどはあるとか」
岡 博士「10の80乗とは、・・・それは全宇宙の原子の数とほぼ同じ数値じゃないか」立花教授「ああそれから、今、各国間で先を争って基礎研究中の、量子コンピューターがいずれか誕生すれば、地球上のいや、宇宙における難問も瞬時に解ける可能性があるとも言っていたな、しかし、近年各国間の開発予算が年々削られているとこぼしていたが、いったい如何いう事だい、これは君の範疇だろう」
岡 博士「一応、事業仕訳も予算もAIにすべて任せているのだが、最重要の学術振興プログラムには、限られた人間以外は、アクセス出来ない様にセキュリティキーが掛っていたはずだが」立花教授「これが、ヒューマンエラーではなければ、何か特別の意思が働いていると言う事になるのか」やがて、少し考え込んだ様子の岡 博士は、茜色の太陽の残滓が、西の空に沈み込み、辺りがとっぷりと暮れゆく光景を虚ろな目で見るとは無しに彷徨わせ、やがて僅かに泡立つ心の揺れを覚えながらも、岡 博士「今日は本当に有難う、この件に関しては、改めて詳しく検証する事にして、まずは総理に約束した課題を仕上げなくては、じゃあこれで失敬するよ」と言って岡 博士は、一方的に端末を切ったのであった。その後、彼は統括本部所属の若手研究者達と共に、寝食を忘れてのシステム作りに取り掛かったのである。
実は、若手研究者達のあいだでは、この斬新なテーマを聞くにつけ、それがさらに評判を呼び、部外の研究者達も呼応して自身の研究の傍ら、得意分野での惜しみない協力を申し出たのであった。その甲斐もあり、4週目にはほぼシステムは完成し、アンケートの調査名目でAI省独自のツールを使い、未婚成人男女に全国公募を掛けた所、かなりの数の参加希望の申し込みがあったのである。若手研究者A「まあ、中には物見高い参加者もいるとは思いますが、それにしても凄い反響が有りましたね」若手研究者B「今までの出会いとか、お見合いなどと言うシロモノは、マンネリ化した時代遅れの遺物と言うのか、つまり井の中の蛙、で、あったのかもしれないな」
若手研究者C「現代は恋も相手も、AI情報の大海原で射止める時代が来た、と言う事か」若手研究者A「この様な斬新な手法に、かなりの数の方々の参加があったと言うのも、実は、日本人特有の未知のテクノロジーへの憧れに近いものが、内包していたと言う事でしょうか」
作品名:沈黙のAI 作家名:森 明彦