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④冷酷な夕焼けに溶かされて

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(…やはり、大国の王様。)

(弱小国家を、数年で経済でも軍事でも大国と称されるまでに成長させた王様だわ。)

普段はやわらかな人好きのする雰囲気を纏い、若干の頼りなさを見せているのに、いざという時の威圧感はミシェル様をも凌ぐ。

「万が一、今後属国へ下るようなことがあれば、私が妻子すべての命を絶ちます。いずこかの後宮に入れることも、臣下に下ることも我が一族は致しません。この星一族と我が一族がひとつになった血を、利用されてはいけませんので。」

今までとは全く違う凄みに満ちた笑顔で、カレン王は言い切った。

ミシェル様は、それを真っ直ぐに見つめる。

「末の双子の名も性別も年齢も明らかにしないのは、それが理由か。」

「…。」

珍しく、カレン王は答えない。

無言で見つめ合う二人の王のそばで、私とマル様も見つめ合った。

そんな私たちを、リオ王子とフィン、そしてルイーズが緊張した面持ちで見守る。

室内の緊張が限界まで高まった時、小さくふきだす声がした。

驚いて声の方を見ると、なんとミシェル様が口元に拳を当てて肩を揺らしていたのだ。

「くくくっ。」

珍しい姿に、皆がぽかんとした様子でミシェル様を見つめる。

『おまえ、好きだわ。』

「!!」

ミシェル様が、おとぎの国の言葉で、しかもくだけた口調で言った。

「…ミシェル様…。」

私が呟くように名前を呼ぶと、笑みの形のままの夕焼け色の瞳がゆっくりと向けられる。

そして、再びベッドへ上がってくると、私の隣にその体を横たえた。

『稀代の最恐忍を嫁にした稀代のチャラ王は、会ってみると実際、噂に違わずやっぱチャラくてさ。へらへら笑いながら玉座に座ってんのを、優秀な年上女房が裏で操ってんだろうな、って正直ずっとバカにしてた。』

「…え?」

(年上?)

(マル様が?カレン王より??)

思わず話の腰を折った私を、ミシェル様がぐいっと抱き寄せる。

「ああ見えて、チャラ王の3つ上。」

(えええ!?)

驚きのあまりマル様を見ると、恥ずかしそうに目を逸らされた。

「…。」

(もう…何がなんだか…。)

(そういう意味でも、最恐だわ…。)

『けどさ、本当はすげー根性のある、綺麗な王だ、ってわかった。』

『…綺麗な王?』

カレン王も、自国の言葉で返した。

『ああ。私が目指す、王の姿。』

眩しそうに微笑む表情から、その言葉が偽りでないことがわかる。

(そもそも、ミシェル様はお世辞を言う方ではないし。)

(本心なのだわ。)

カレン王は戸惑った表情で、隣に寄り添うマル様をふり返った。

『良かったですね、カレン。』

言いながら、マル様がふわりと微笑む。

『さすが、私の愛する男性(ひと)です。』

意外なほどストレートな言葉に、カレン王の頬が真っ赤に染まった。

『…あ~…また今夜も激しそ…。』

独り言のように、リオ王子が呟く。

「?」

何のことかわからず首を傾げると、ずっと伏せられていたカナタ王子のエメラルドグリーンの瞳がリオ王子へ向いた。

『耳栓、貸してやるよ。』

カナタ王子の低く艶やかな声を聞いた瞬間、体の内側をなぞられるような心地よさとむず痒さを感じ、ぞくりと身がふるえる。

(…っ!)

(これが…『色術』の力?)

それと同時に、その言葉でリオ王子の言葉の意味を理解した私は、全身が一瞬で熱を帯びた。

「…さ、そろそろ休ませてもらおうか。」

ミシェル様が国際共通語に戻して、6人に告げる。

「はい。ごゆるりとお休みください。」

どうやら息子たちの言葉に照れていたのか、カレン王は頬を赤く染めたまま、頭を下げた。

「カレン。息子にいじられて動揺しない。」

マル様に一瞥されると、カレン王が頬を膨らませる。

「ち…違うよ!麻流のせいだよ!」

「…は?私?」

マル様は丸い大きな瞳を更に丸く大きくして、カレン王をキョトンと見た。

その表情がまたあどけなくて可愛くて、私もカレン王も釘付けになる。

「これも、ある意味『色術』だな。」

ミシェル様がからかうと、マル様が慌てて頭を下げた。

そして、おとぎの国の四人は、じゃれ合いながらテントから出て行く。

「私共は、表に控えております。」

それを見届けたフィンとルイーズも、頭を下げて出ていった。