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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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トラブルシューター夏凛(♂)1 堕天使の肖像

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第4章 マモンカンパニー


 マシーンに襲われた次の日は日曜で、?清掃作業員?の夏凛にとっての休日だった。
 その日の昼頃、ゴスロリ姿の夏凛は帝都の中心部から、やや東に位置する帝都公園にいた。
 この公園は日曜であるということとツインタワーの近くにあるということもあり、家族連れやカップルで賑わい、噴水のある広場ではストリートパフォーマーのグループがMDコンポから流れるポップな感じの曲に合わせてダンスを披露し、その周りには人々が集まり歓声を上げていた。
 そんな人々を後目に夏凛はスカートの裾を弾ませながら男の人と並んで歩いていた。
 夏凛と一緒に歩いている男の顔は美しかった。
 男の顔は中性的な妖艶さを放ち、背の高さは一七五〜一八〇センチくらいだろうか。その男は夏だというのに、ボタンは全て閉めていないものの黒いロングコートを着ていた。
 彼の名は時雨。帝都の街で一番美しいと言われる彼は『帝都の天使』と人々に呼ばれている。その名前を帝都の街で知らない者はいないのではなかろうか?
 そんな彼は夏凛と同じトラブルシューターであり、そして、夏凛の兄でもあった。
 時雨と歩く夏凛の表情は喜びと嬉しさでいっぱいだ。夏凛は兄である時雨のことを溺愛していて、トラブルシューターになったのも時雨に対しての憧れからであった。
 公園を歩く二人の前方にアイスクリームの販売車が見えてきた。それを見た夏凛はその車を指差し、こう言った。
「兄さま、あれ食べたい」
 この光景を端から見たら、美男美女のカップルと間違えられるかもしれない。
 夏凛は浮かない顔をした時雨の腕をぎゅっと掴み、強引に販売車の前まで小走りで連れていった。
 アイスクリーム屋の前には数人の客がすでにいて、二人は順番待ちをした後、夏凛がチョコレート味と抹茶味のソフトクリームを注文した。
「チョコと抹茶一つずつね」
 注文を受けた男性店員の目は泳いでいた。それもだいぶ前からから――夏凛と時雨がこの場に来た時からだ。
 店員の目が泳いでしまっているその理由は、帝都でも三本の指に入る程の美人を二人も前にしているからだ。そして、この二人がなぜ一緒にいるかという疑問からだ。
 この二人が兄弟であることを知る者はあまりいないし、夏凛がトラブルシューターであることを知る者もあまりいない、つまり二人の接点を美しいということ意外見出せないのだ。
 ややあって店員が注文を繰り返した。
「チョコレートソフトと抹茶ソフトですね。畏まりました」
 ソフトクリームはすぐに作られ、夏凛に手渡された。
「合わせて五五〇円になります」
 と店員が言うと時雨はコートのポケットから硬貨を取り出し店員に手渡した。
 帝都では現金よりもカードが主流なのだが、時雨は年寄りと同じく現金の方が使いやすいと思っている。
 近くにあった白いベンチから丁度カップルが立ち上がり誰もいなくなったので、二人は自然とベンチに腰を掛け、そこで夏凛は時雨に抹茶ソフトを渡した。
 時雨はお茶が好きなのだ。そのことを知っている夏凛は迷わず抹茶ソフトを注文したのだが、手渡された時雨の表情は浮かない、むしろ怒っているようにも見える。そして、それを見た夏凛の表情が曇る。
「どうしたの兄さま?」
 首を傾げ時雨を見つめるが返事は返ってこない。別のソフトクリームが食べたかったのか?
「ねぇ?」
「…………」
「怒ってるの?」
 この言葉にやっと時雨が口を開いた。
「もしかして、これだけの為にニ日前の深夜に電話してきたの?」
 二日前の電話とは夏凛が路地裏で男を追い詰めて、真に電話をかけた後にもう一度誰かに電話をかけたあの時のことだ。つまり誰かとは時雨だったのだ。
 夏凛は屈託のない愛らしい笑顔を浮かべて頷いた。
「うん!」
 少し沈黙を置いた後、時雨はベンチから立ち上がり無言で夏凛を置いて帰ろうといた。
 夏凛は慌てて時雨のコートの裾を引っ張って引き止めようとした。
「ま、待ってたら、さっきのはジョーダン、ホントは別の用件で呼び出したんだって!!」
 不機嫌顔の時雨は夏凛の身体を三メートル程引きずった所で肩越しに後ろを振り向き夏凛の顔を細い目をして見た。
「本当にちゃんとした用件があるの?」
「もちろんですともぉ〜」
「本当に?」
 念を押して聞く時雨に対して、夏凛は何度もコクコクと頷いて見せた。
 それを見た時雨の表情は呆れ顔といった感じだ。そして、時雨は深いため息を付いた。
「はぁ、仕方ないなぁ、話だけは聞いてあげるよ」
「それでこそ兄さまぁ〜!!」
 二人はベンチに戻り腰を掛け直した。
 時雨は未だ不服そうな顔をして夏凛を見て言った。
「それで、ボクに用事って何?」
 この言葉に夏凛は急に真剣モードに切り替えて答えた。
「単刀直入に聞くけど、兄さまに帝都政府直々にある絵画を探して欲しいって依頼があったでしょ?」
「さぁ、仕事の依頼についての情報は関係者以外に漏らすわけにはいかないから」
「真くんに頼んで調べはついてるんだけど」
「それでもダメ。ボクの口からは何も言えないよ」
 トラブルシューターが仕事の依頼内容を他言しないのは当たり前のことだった。夏凛もそれを承知の上で時雨に聞いているのだ。
 その時突然、二人の目の前に宙に浮かぶソフトボール程の大きさの金属でできた謎の球体が風を切りながら現われた。
 二人にはこれが何であるのかわかっている。そう、これは情報屋真の偵察用カメラだ。真はこのカメラを使ってオフィスにいながら外の映像を見ることができる。
 カメラに付属しているスピーカーからやや雑音交じりの声が聞こえて来た。
《二人のラヴラヴなデートの途中で悪いな》
 その言葉を耳にした時雨はややうつむき加減で呟いた。
「……違うから」
「兄さまったら照れちゃって」
 そう言いながら夏凛は笑顔を浮かべながら時雨の肩をバシッと叩いた。叩かれた時雨は憂鬱な表情を浮かべ、ため息をついている。
《二人ともなかなかのアツアツじゃないか。おぉそうだ、そんなことより、絵画を盗んだ男の所在がわかったぞ》
「どこどこぉ〜?」
 夏凛はベンチから身を乗り出して宙に浮かぶカメラを覗き込むようにした。
 そして、真が夏凛に男の居場所を教えると夏凛はうんうんと頷き、真に言われた言葉を確認の為繰り返した。
「……つまりぃ〜、絵画を盗んだ男は身を潜めて女と同居してるってことだよね?」
《そういうことだ。今も私の別の偵察カメラで男の部屋の前を監視してるが、男に目立った行動はないようだな》
 夏凛が何か言いたげな表情をして時雨を見つめた。見つめられた時雨は思わず夏凛に聞いた。
「どうしたの?」
「兄さまとのせっかくのデートだったのにぃ〜」
「……仕事が入ったんでしょ、早く行って来なよ」
 時雨はそう言いながら、細い目をして夏凛に向かって小さく手を振った。
 それを見た夏凛は捨て台詞を叫んで走り出してしまった。
「兄さまのばかぁ……ぐすん」
 その走り去る姿は失恋をして走って行く女の子のそれによく似ていた。
「はぁ……」
 残された時雨が深くため息を付くと、スピーカーから真が時雨に声をかけて来た。
「二人とも同じ依頼をしたのに、時雨の方は行かなくていいのか?」
「……なんか疲れた」