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好奇心の小窓

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 中学生になった私に、初恋が訪れた。
 ある日の放課後、階段ですれ違った上級生に私の胸は高鳴り、異性を想う心が芽生えたのだ。その情景に、私は思い当たることがあると気づいた。
 階段を駆け降りる男子生徒と下で佇む女生徒。そうだ! あの小窓から見た姉がいたのは、まさにこの場所だった。
 あの時の光景が鮮明に思い出された。姉もこんな気持ちだったのだろうか? そんな恋しい相手からもらったものは、たとえ鉛筆一本でも宝物。それが、その時になってようやく私にもわかった。
 そして、上級生への思いが募るほど彼のことが知りたくなった私は、あの小窓をどうしても覗きたくなった。
 ある日曜日、私は気持ちを抑えきれず、あの時の友だちの家に行ってみることにした。当然、あの子はいない。誰かほかの人が住んでいれば入ることはできない。ドキドキしながら、記憶をたどって私は歩いた。
 そして、私は見覚えのある粗末な教会に着いた。空き家のようで、人の気配はない。恐る恐る中を覗き様子をうかがったが、静まり返った室内はあの時と変わっていなかった。私はまっすぐあのドアに向かった。
 そして、そのドアを開けると、やはりあの時と同じ、小さな椅子の向こうに小窓が見えた。私は椅子の埃を払い、腰掛けると、そっと小窓を開けてみた。
 
◇ するといきなり、あの上級生の姿が見えた。そこは彼の部屋のようだった。壁にかかっている時計を見ると同じ時刻だったので、おそらく今の彼の様子だろう。流行の音楽をかけながら雑誌に目を通していた。手元まではよく見えないが、表紙に女の人が写っているみたいだった。私は、自分が覗き見をしていることに気づき、ハッとして小窓を閉め、小部屋を出た。◇
 
 
 帰り道、私は考えた。姉の時も、今回の上級生の時も、私は人の秘密を覗き見しているのだ、そう思うとすごく恥ずかしくなった。でも、あの小窓を開くと、今知りたいことが見える。この魔力には到底勝てそうもない。
 私は自分自身と葛藤しながらも、時おり、その小窓を開きに行った。そして、話したこともない上級生の日常を知るようになった。すると、だんだん上級生に対する興味は失せていき、胸をときめかせていた初恋は色あせていった。知らない方がいいこともあるのかもしれない、そう思い、私は小窓へ行かなくなった。
 
 
 高校生になって思春期を迎えた私は、迷路に迷い込んでいた。生きている意味がわからない、そんな思春期特有の深い悩みを抱え込んでいたのだ。
 死んだら人はどうなるのだろう? この私という意識は消えてなくなるのだろうか?
 私はふと、あの小窓を思い出した。そうだ、死後の世界が知りたい。そう思うと、いてもたってもいられなくなった。記憶をたどり、私は学校帰りにあの教会に向かった。
 すると、あの建物はまだそのまま残っていた。しかし、かなり傷んでいて今にも崩れ落ちそうだ。ゆがんでなかなか開かない戸を開けて中に入ると、私はミシミシと音のする床を歩き、あのドアに向かった。
 そして、ドアを開け、椅子の埃を払い、小窓に向かって座った。私は目を瞑り、深呼吸をして心を落ち着かせてから、その小窓を開いた。
 すると、なんとそこには、小学一年の時のあの子が、こちらを向いて立っていた。
 
 
『みっちゃん、久しぶり。
 あの頃は、やさしくしてくれてありがとう。
 誰からも相手にしてもらえなかったけど、みっちゃんだけは声をかけてくれたよね。
 うれしかったよ。
 私は、あれからすぐ、みっちゃんとは会えない所へ行ってしまったんだ。
 この世界のこと、みっちゃんは知りたいようだけど言えないの。
 ごめんね……
 そろそろ時間みたい、この部屋からすぐに出て!
 さよなら、みっちゃん』
 
 
 次の瞬間、小窓は勝手にピタリと閉まり、後ろのドアがガタガタと音をたてはじめた。私は怖くなり、急いで外へ出た。すると、古びた教会は私の目の前で崩れ落ちた。

作品名:好奇心の小窓 作家名:鏡湖