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のしろ雅子
のしろ雅子
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未生怨(みしょうおん)上巻

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第二章 祈之6才の頃



祈之が小学校に入学して、始めての運動会の日。誰もが無関心で、婆やだけは運動会用の弁当等の用意をし「坊ちゃん、徒競走頑張って下さい!」と送ってくれた。
 正夫の拙い字で゛たなか のりゆき゛と書き込まれた白い運動帽を目深に被り、祈之はいささか緊張して大きく頷くと「まーちゃんと一緒の白組…」と、祈之を感激させた白い帽子を浅く被る正夫に手を引かれ、学校へと向かった。
 その日、運動場には各国の旗が張り巡らされ、試し撃ちのスタート合図の空砲が響き渡り、嫌が上にも気分を煽り立てた。午前中に低学年の出し物が続き、殆どの子供達が親の声援を受け、ビデオ撮影に余念のない父母の姿を捜しては手を振った。その眼差しは真っ赤なくちばしをを開け、母の帰りを待つ雛の姿に似て、大きな翼の中に擁護された誰もが平等に与えられた筈の幸せの姿であった。
 一年生のダンスが始まると、誰が来る当てもなく、誰に声援を送られるでも無く祈之はそれでも輪になって、一生懸命遊戯を踊っていた。正夫は次に四年生の徒競走を控えていたが列から外れて、首を傾げ腰に手を当てて踊る祈之に手を振った。
 祈之が正夫の姿を認めると赤い愛らしい口許をなお一層引き締め緊張の面持ちで、くるりと回り最後のポーズをとった。その様子は健気で、どこか寂しげであった。
 昼の食事時間、家族の輪で賑わう中、祈之の手を引いて正夫は日陰を捜し祈之を座らせて 婆やの用意してくれた弁当を広げて
「ほら、祈ちゃん食べよう、おいしそうだよ」
と手に箸を持たせたが、祈之は両親と一緒に甘えながら食事をする同級生家族の姿を見つめていた。
「祈ちゃんこれは?…ほら、卵焼き好きだろ?」
と世話を焼いたが殆ど口を利かない祈之に、最後は正夫も幸せそうな親子を見つめ、二人とも無言で食事を終えた。
「祈ちゃんお出で…探検に行こうよ」
と学校の裏山に連れ出し、親子の姿の見えない、誰もいない裏山を登ったり降りたりして昼の時間を潰した。

 その日から次の公演の稽古が始まっていた母は、自分の息子が小学校初めての運動会で徒競争の時、一番に飛び出したが転んで皆に抜かれ、膝を擦りむいて泣きながらビリでゴールした事も、正夫が「祈ちゃん頑張れ!祈ちゃん頑張れ!」と声を限りに応援し、泣きながらゴールした祈之を抱き締めに走った事も知る由も無かった。子供への愛情の希薄な人であった。

ღ❤ღ