短編集29(過去作品)
「でも、長所は短所の裏返し。過剰にさえならなければ、自信を持つことって大切なことだと思うの。自信が持てないから皆苦労するのよね。あなたは気付いていないかも知れないけど、あなたが自分に自信を持っているって、すごく伝わってくるわ。それがあなたのいいところなのね」
餃子の話を思い出した。自分にだけ分かっていないのだろう。それこそ、自然に滲み出てくるものに違いない。
その日は気持ちも身体もリラックスすることができた。アルコールも入っていないのに、ほろ酔い気分になっているのは、自分に酔っていたのかも知れない。
北野と別れてから、私はなぜか、付き合っていた女性と出会ったスナックに足が向いていた。
店は前に来た時同様に私を迎えてくれ、幸子ママも相変わらずだった。
店に入って最初に感じたのは、壁に掛かっている絵だった。
「あれ? 前からここに絵があったかな?」
「ありましたよ、柏木さんは気付かなかったんですか?」
確かに気付かなかった。しかし今回気付いたのは、絵の前を通り過ぎようとした時に、以前に感じたことのある香りがしたからだ。絵は風景画なのだが、その中央に女性が描かれている。思わず、食い入るように見ているが、私は絵からしばし視線を逸らすことができなかった。
――この女性、ここで知り合って私が抱いた女にソックリだ――
と感じたからである……。
名前を何と言ったっけ? 思い出すこともない。
絵の中の彼女は、いつまでも私の中の彼女のままであり、永遠に私のものになったような気がしてならなかった……。
( 完 )
作品名:短編集29(過去作品) 作家名:森本晃次