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短編集23(過去作品)

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「まわりにいなかったタイプ」
 と応えるだろう。それだけ私には新鮮だった。
 いつも話していて心地よかった。
 最初女性と知り合った時、私は結構自分から話し掛ける方だと思っていた。お互いに意気投合するか、私の話がウザいと思うか、どちらかというのが今までのパターンだった。しかし、逸子は違った。意気投合というほど喋り捲ったわけではないし、引いていたわけでもない。少し覚めた目で見ているのかと最初は思ったが、そのわりに感じる暖かさをいつも心地よいと感じていたのだろう。
 最初、それでも私の気持ちは盛り上がっていた。焦りはしなかったが、逸子を失うということがどれほど辛いかということを考えないようにしていたのが良かったのかも知れない。今まで女性と付き合ってもどこか不安が付きまとっていた。それは別れた時の辛さをいつも考えていたからだ。
 そんな思いを抱かなくてもよかったのは、逸子に暖かさを伴った心地よさを感じていたからだろう。まるで母親のお腹の中にある羊水に浸かっているような気持ちになることは、自分の心に安心感を植え付けてくれるのだ。それが余裕であることを教えてくれたのも、逸子だったに違いない。
 心地よさに暖かさを伴うなど、今まで感じたことがなかった。暖かさとはちょうど人間の体温のようなもので、自分にもある暖かさと触れ合うことで暖かいという感覚が麻痺してしまいがちである。だが、気持ちの暖かさは感覚が麻痺することなどないのだ。相手の気持ちに触れること、それが暖かさを確認することなのだ。
「逸子、前からずっと知り合いだったような気がするよ」
 初めて身体を重ねた時、お互いに気持ちが昂ぶっている中で、初めて口を開いて出てきた私のセリフだった。途中までは会話もなく、流れる空気を止めてまで、息遣いを感じようとしていた私だったが、私の腕の中で思わず漏らしたであろう切ない逸子の声に反応した私の気持ちだった。
「ええ、私も今同じことを考えていたのよ。ずっと捜し求めてさまよっていた気持ちが、身体の血を逆流させているみたいなの」
 何をさまよっていたというのだろう? そういえば私も、何かを探してさまよっていたような気がする。それをもう探さなくてもいいのだという安心感をたった今得られたような気がして、私は宙に浮きそうな心地よさに酔っていた。
 ずっと前から知り合いだったという言葉を頭の奥で反芻してみる。自分で言っておいて相手も同じことを考えていると思うと嬉しくもあるが、少し怖い気もする。気持ちを見透かされていると思うことがこれほど気持ち悪いものなのかと、その時初めて気がついた。
 小学生の頃から算数が好きで、他の科目はあまり好きではなかったことを思い出した。キチンと正確に並んでいて、規則性があることで算数というのは、求める答えは一つである。「白か黒か」というのと似ているようなところがあるので、すべてが明白になるような気がして好きだったのだろう。そういう意味で想像力というよりもひらめきの方に興味があった。
 人の性格というものは単純なものではない。算数や数学のように割り切れるものでもないし、答えが一つとは限らない。一番正しいということが何であるか分からないし、もしそれが分かったとしても、望んだようになるかどうかというのも分からない。それは目に見えているものしか判断できないからで、一分後の自分を想像することなどできないという発想が頭にあるからだ。
 自分のことも分からないのに、他人のことが分かるはずがない。
 それを考えると、人の性格を判断することなど自分には到底できないものだと思えてくるのだ。
「どうしてあなたは人に気を遣うことをしないの」
 親から言われたことがあった。
 確かに私はあまり人に気を遣うようなことはしない。なぜか白々しく思えるからだ。人に気を遣っているのは、結局相手の気持ちが読み取れないので、お互いに牽制しあうような駆け引きを感じ、どうにも自分にはできないように思えるのだ。
 社交辞令が人に気を遣うことであるとすれば、私は社交辞令などしたくない。白々しさを感じながら行動することは自分の信念に反するような気がするのだ。どこに自分の信念があるのかと聞かれると、答えようもないのにである。
 そういう意味では私はずっと頑固であった。しかし私のそんな頑固な部分と話が合うやつは大学というところにはいるもので、社交辞令が嫌いだという論議を何度となくしたような気がする。しかも酒を煽りながらの会話になるので、本音が聞けて楽しかった。こちらも飾ることなく話すことができて、かなり盛り上がったことだろう。まわりから見ればただの酔っ払いだったに違いない。それこそ、我々には他人の目などどうでもよかったのだ。だが、今だったら、きっと嫌な顔をしていたに違いない。
 自分の悩みを相談できる唯一の女性、それが逸子だった。逸子が私の彼女ではないと感じたのは、悩みを相談できることに気付いた時だった。しかもその相談が自分の深層心理に関してのことだったりするのは、きっと逸子が私とずっと昔から知り合いだったと思えるからだろう。
「あなたは、自分のことを卑下するタイプなのね?」
「そうだね。自信過剰になることもあるんだけど、それ以外はどちらかというと自分を卑下して、まわりの人たちがだんだん自分から離れていくような気になることがあるんだ」
「まわりに人が近づくことも嫌なんでしょう?」
「そうなんだ。どうしてなんだろう?」
「きっと、人の考えが分からなくなるんでしょうね。これは本当にちょっとしたきっかけなんでしょうけど、分かっているつもりでいたのが、ふとしたことで分からなくなる。だから、最初から分かるわけなんてなかったんだって思う。そうでしょう?」
 あまりにも、自分の深層心理をズバリと抉られているようで、言い返す言葉も浮かばない。まさしくその通りなのだ。逸子を見ていて怖くなる時がある。それはきっと深層心理を抉られている時に見せる私への視線と同じ目を私に見せている時なのだろう。もちろん、いつもそんな視線を浴びせられるわけではないが、逸子を女性として見た時、少し怖くなることがあるのだ。
 私が自分から話さなくとも、逸子は私を見ているだけで、大体のことは分かるようだ。すぐに顔に出るタイプで、行動もすぐに読まれやすいくらいなので、逸子に掛かったら私などまるで子供の心理ではないだろうか?
「でも、あなたを見ていると時々分からなくなるの」
「分からなくなる?」
「ええ、どうしても読めない時があるのね。私の想像の域を超える時があるのよ」
 その時キョトンとして、頭を傾げながらじっと逸子を見ていたのかも知れない。
「そう、その顔。あなたにその顔をされると、そこから先が見えないの。まるで今まであなたに感じたことがすべて間違いじゃなかったのかって思えるほどね」
 何も考えずに相手の顔を見つめているだけだった。子供の頃に訳も分からず人の顔を見つめることの多かった私だったので、その頃の癖が残っているようなのだ。
 さらに逸子は続ける。
「でも、その顔を見るのは嫌いじゃないわ。何か忘れていたものを思い出させてくれるような懐かしさがあるのよ」
「安心感なのかい?」
作品名:短編集23(過去作品) 作家名:森本晃次