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短編集23(過去作品)

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不安を感じる時



                 不安を感じる時


 最近、といってもここ半年くらいのことなのだが、私こと石井孝明は対人恐怖症になりかかっているようだ。それを感じたのは、仕事での移動中の電車内でのことだった。
 私は営業職なのでほとんど事務所にいることがない。移動はというと都心部に近いこともあり、ほとんどが電車での移動となる。どうしても出先が雑居ビルだったりするので、駐車場がなかったりするのだ。したがって、電車での移動は慣れていた。
 今まではそれほど感じなかったのだが、なぜだろう? 携帯電話での話し声や、通路に座り込む学生と思しき連中、周りの迷惑を顧みず大声で叫ぶように話すおばちゃんたち、気にしないようにしていても気になってしまい、鬱陶しいだけである。
 以前から傾向はあった。マナーを守らない連中は一向に減らないし、気にならなかったといえば嘘になる。ではなぜ急に気になり出したのだろう?
 ストレスが溜まっていたという意識はない。ストレスのようなものでも溜まっていない限り、そこまで変な意識はないだろう。私の場合は逆に、少しでも嬉しいことがあれば、普段は何気ないことであっても、嬉しくて仕方なくなる方である。それだけ喜怒哀楽を無意識に感じやすいタイプなのかも知れない。
 恋愛についてもそうだった。
 あまり恋愛経験がないと思っているので、実際は告白しても学生時代などすぐに断られることが多かったので、そんな風に感じるだけかも知れない。
――惚れっぽい性格――
 という自覚があり、人を好きになっては、すぐに玉砕していた。しかしそれでも付き合いがあまりなかったわけではなく、付き合った人に一目惚れをした人がいないというのも皮肉なことだった。
 私はどちらかというと人を好きになると、告白しないとせずにはいられないタイプである。もっともすぐに気持ちが顔に出るタイプなので、気持ちを隠そうとしてもすぐに他の人から見透かされてしまう。
「石井さんは、彼女のことが好きなんでしょう?」
 と、好きなタイプの女の子の友達から囁かれて顔を赤面させたこともしばしばだった。そんな経験は学生時代に多かった。告白することで自己満足していたことも多く、そのため、玉砕しても悲劇のヒーローとして祭り上げることが自らをさらに自分の世界に閉じ込めてしまうことになっていただろう。
 私が自分の性格に気づき始めたのはいつからだっただろう? 高校生の頃まで、友達はいても自分から話し掛ける方ではなく、話し掛けられてそれに応えるだけであった。しかし大学に入ると徐々に自分から友達を作るようになり、話し掛けるようになっていた。
 きっと元々が目立ちたがりだったということもあるが、その他大勢というのが嫌いな性格なのだということを自覚し始めたからに違いない。高校時代から友達に言われたことをそのまま信じたり、いつも皆の後ろを金魚のフンのようにして歩いているのが自分でも気に入らなかった。しかし、それ以外に自分のいる場所がないと思っていたのだ。何かを言い出すにも自分に自信がないし、言い出したとしても、いろいろ意見を言われてそれに応えられるだけの自信もない。引きこもってまではいないまでも、主体性のない性格だった。いわゆるその他大勢で、まわりに埋もれてしまう性格だったのだ。
 そんな私がこの半年くらいの間で変わってしまったのは、きっと山村逸子と知り合ってからのことかも知れない。
 最初は逸子のことを彼女のように感じていた。知り合ったのも、自分が彼女をほしいと思い始めていた頃だったこともあり、その感情があったからこそ、逸子と知り合えたのだと思っていた。
 しかしそれは間違っていた。学生時代に別れたきり、社会人になって二年、彼女を作らなかった私が、学生時代に付き合っていた彼女と別れたきっかけがハッキリしなかったこともあって、彼女を作らなかったのも事実である。もちろん、仕事に慣れることが最優先で、彼女を作っている時間などなかったこともあるのだが、それ以上に学生の頃の気持ちが尾を引いていたのは間違いなかった。
 それまで一方的に好きになり、告白して玉砕していたことが多かった頃と違い、学生時代最後に付き合った女性のことは真剣に考えていた。彼女も私を好きだといってくれていたし、私自身、彼女とならいずれ結婚を考えてもいいとまで思っていたのだ。
「別れましょう」
 その日、私が借りていた学生アパートにやってきていた彼女は、いつものように夕食の支度をしてくれ、一緒に食べていた。家から遠い大学に入学した私は、大学近くのアパートで一人暮らしをしていたが、彼女ができるまで自炊などしたこともなかった。初めて私の部屋の台所に立ったのは彼女だったのだ。
「これだけ揃っているんだから、私が何か作りましょう」
 初めて私の部屋に呼んだ時から、彼女はすでに料理を作ってくれた。いっしょに近くのスーパーに買い物に出かけ、まるで新婚気分に浸っていたのかも知れない。いや、今から思えばままごとのようだが、当時の二人はその環境に酔っていたのだ。
 すでにお互いの身体を重ねあっていた二人だったので、彼女が部屋に泊まっていくことに抵抗感などまったくなく、その日は素敵な一日となっていたのだ。
 そんな彼女がなぜ別れようなどと言い出したのか私には分からなかった。別れを切り出されれば頬から耳にかけてカッと熱くなった顔に止まらない震えを感じながら、それでいて頭の中が真っ白になっているような状況に陥ってしまうものだろうと思っていた。事実、それまでに少しでも付き合っていたことのある女性から告げられた別れの言葉でさえ、身体の奥から滲み出るような汗を止めることができなかったくらいである。
 しかし、不思議とその時、別れようと言い出した彼女に対しての憤慨もなく、どちらかというと他人事のように聞いていたような気がした。以前付き合っていた女性から別れを告げられると相手に憤慨していた私がである。
「ああ、何か私に言ってるんだ」
 くらいの感覚だった。
 耳たぶに熱さがあったし、震えも感じていたにもかかわらず、身体の奥からにじみ出る汗もなければ、あまりにも冷静な自分に却って憤りすら感じていたのだ。
――いったい私は何に怒りをぶつければいいんだ――
 怒りは込み上げてきているようだった。しかし彼女に怒っているわけではない。自分に怒っているようなのだが、どこに怒っているのか分からない。一つ言えることは、彼女の言葉を簡単に受け入れ、それで後悔しないかなどと考えなかった自分に腹が立っていたことだろう。
 後悔することを極端に嫌う私であった。いつも玉砕覚悟で告白するのも、
――後悔するくらいなら――
 という思いがあるからである。言わずに後悔するくらいなら、言うことによって自分を納得させようという、自己満足の気持ちもあるのかも知れない。それが相手の気持ちを考えることなく、自分の気持ちだけで突っ走ってしまう私の悪いところだと気づいたのは、かなり後になってからのことだった。
 半年前に知り合った逸子は私に従順な女性であった。
 喋り方もお嬢様のようで、今までの私のまわりにはいなかったタイプだった。逸子のどこを好きになったんだと聞かれると、
作品名:短編集23(過去作品) 作家名:森本晃次