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短編集22(過去作品)

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 よう子と知り合ったのは、そんなクールな自分に気づき始めてからだった。今まで出会ってきた女性というのは、それなりに女性としてのオーラが前面に出ていて、いかにもセックスアピールを感じさせる女性たちだった。身体が先に反応してしまうような女性で、若さゆえに燃え上がる時は燃え上がった。
 相手の女性も満足していた。元々、彼女たちも男をとっかえひっかえしてきたことを、ある意味自慢にしていたようなところのある女性ばかりで、私もそんな中の一人だった。お互い、そんな相手を求めているため、必然的な出会いだったのだろう。
 自慢ではないが、ほとんどの女は私に惚れてしまう。それも数回のデートで相手はすでにその気になっているのだ。
 中には嫉妬深い女性もいる。
 そんな時には別れるのが厄介なこともあるが、何とかこなしてきた。しかし逆に私が惚れてしまって、柄にもなくズルズルと関係が続いてしまったことがあった。
 もしそれが「情」によるものであれば、それほどでもないが、相手の身体とその妖艶な雰囲気にすっかり参ってしまったことがあったのだ。
 それこそ「若気の至り」だったのかも知れない。相手は私よりも少し年上だったにも関わらず、その経験豊富な身体と身体から醸し出される隠微な香りのするフェロモンから離れられなくなってしまった私は、それでも幸せだった。頼ることのできる唯一の女性、それが彼女だったのだ。
 名前を和江といい、私のわがままを正面から受け入れてくれた。女性の目の前でわがままを言うなど、それまでの私からは考えられなかった。わがままなところを見せてしまえば私の負けで、相手に隙を与えてしまうと考えていたからである。
 そんなことをすれば自分の性格を曲げてしまうと思っていた。あくまでも女性にたいしては自分が優位に立っていることが肝心で、そうすることで、男としての面目を保とうとしていたのかも知れない。
 それはそれでいいことだと思う。しかしそれだけだといずれきつくなって苦しむのは自分だけになってしまう。自分のことで精一杯で、相手のことを考える余裕がなくなってしまうのだ。
 それに気付かせてくれたのが和江だった。包容力というのだろうか、優しく包んでくれる雰囲気もあった。
――マザコンかも知れない――
 と感じたほどである。
 母親を中学の時に亡くした私には、若干マザコンがあるかも知れないとは、薄々感じていた。私が女性を求めるようになったのは、マザコンに気付きはじめてからで、それを自分で認めたくないと思ったことから、女性を求めるようになったような気もしているくらいだ。
 マザコンという言葉に違和感はあった。なるべくなら知られたくないことである。それは男性であっても女性であっても同じだが、特に女性からは、知られたくなかった。
 和江には、最初から分かっていたようだ。すべてを見透かさることで、隠す必要もない。逆に気が楽にもなっていた。
 和江とズルズル続いてしまった関係、私はいやではなかった。それは今も思っている。
 しかし突然訪れてしまった別れ、もちろん、別れが来るなど信じられなかったが、本当に突然だった。
 その日の和江はいつになく燃えていた。確かに妖艶な雰囲気を醸し出していたが、それに加えて可愛らしさを感じるのだ。いつものように潤んだ目、何かを訴えるような目、真っ赤に染まったその顔に、いつもと違う可愛らしさを感じてしまった。
 いとおしい感覚は後にも先にもその時だけだった。官能の世界にこんな表情もあるのだと初めて知った瞬間でもあった。
 すべてが終わった後、
「私、今度結婚するの」
 そう聞かされた。驚きのため一瞬声が出なかった。
「そうなんだ」
 静かに答えた自分にビックリしている。別にうろたえることもなく、却ってホッとしたような気分になったのは、ズルズルから解放されるというだけではない。
――何か予感めいたものがあった――
 結婚ということは意外だったが、彼女と別れるだろうことに関しては、最初から分かっていたような気がする。しかもそれは彼女の方からの告白、私からのどちらかということは想像もつかなかった。
「よかったね」
 この言葉が言えない自分が歯痒くもあった。しかし身体は正直なのか、お互いにその日は、もう一度抱き合っていた。
――最後だなんて信じられない――
 そう感じながらであるが、和江の方はどうだったのだろう? 淡々としていて、すでに私から気持ちは離れていたようにも思える。
 ほとんど会話もなくその日は別れたが、いつも最後に彼女が言っている言葉、
「さようなら」
 という言葉が耳の奥によみがえってくる。
 しかしその日に限って彼女はその言葉を口にしなかった。無言の別れというのは初めてである。感極まって言葉が出なかったのだろうか? いや、そのわりには表情も雰囲気も淡々としている。気持ちの昂ぶりを抑えているようにしか、私には思えなかった。
「おかあさん」
 私は思わず和江の後姿に、そう呟いていた。
 その後に付き合い出したのが、よう子であった。彼女は和江と違い、冷静沈着な面を持っていた。
 私が和江と別れてからすぐに知り合ったので、和江のことは知っている。知っているというよりも私が自分で話したのだ。まだ和江のことが頭にあり、完全に抜けていないということを話したと思う。それでもよう子は黙って、私の話を聞いてくれた。
「僕はいつも女性と付き合っても三ヶ月程度しかもたなかったんだけど、和江とは結構長かったんだ。自分でもどうしてそれほど長かったか分からないんだけど、やはりそれだけの魅力があったんだろうね」
 過去の女のことをそんな風に表現する男を、よう子はどんな気持ちで聞いていたのだろう。まったく表情を変えていないように見えたのは、私の方でも気にしていたからだろうか?
 しかしそれでも話さないわけにはいかなかった。それは私の性格でもある。相手に、まず自分のことを分かってもらいたいと思う気持ち、これが強いのだ。
 今まで付き合ってきた女性に対してもそうだった。相手がどんな気持ちになるかを考えることもなく、過去の女性のことを話した。あまり露骨なことを言ったわけではないが、それでも嫌な顔をする人もいた。当たり前といえば当たり前である。
「あんた一体どういうつもり? 自慢したいの?」
 そういってビンタを張った女もいた。
「すまん、これが俺の性格なんだ」
 学生時代のことだった。
 その時初めて、今さらながら色々な人がいることを思い知らされた気がした。それでも話さなければいけないと思うことは話している。もちろん、当たり障りのないようにである。
 よう子はそんな中でも黙って聞いてくれたのだ。あまり表情に変化がないため、却ってこっちが気を遣ってしまって彼女の顔色をずっと窺っていたような気がする。微動だにしないその表情、その顔を見た時、私自身が彼女に惚れていることを感じた。
 今まで自分から女性に惚れることは和江以外にはなかった。しかも和江に対しては特別な感情があったので、普通に惚れるということはなかった。それだけ他の女とは浅い付き合いだったのかも知れない。
作品名:短編集22(過去作品) 作家名:森本晃次