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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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snow


 今日の帝都は昨晩から降り続いている大雪のため、都市機能の30%が麻痺するという深刻な状況に陥っていた。
 大雪による交通渋滞、事故、電波障害、そして、大雪に便乗して犯罪行為を犯す者。この大雪を純粋に喜んでいるのは小さな子供くらいなものだった。
 A.M.7:40――。
「雪かぁ、ひさしぶりだなぁ、でもこんな大雪3年ぶりだったかな?」
 時雨[シグレ]はこたつに入りながら、独りみかんをツマミにTVを見ていた。
《次のニュースです。今日未明、都役所前の交差点で生命科学研究所から逃げ出した実験サンプルと帝都警察との間で激しい攻防が繰り広げられました。実験サンプルは帝都警察の目を掻い潜って逃走、未だ発見されていません。なお、帝都警察の誤射により、周りのビルに被害を与え、都役所の半分が倒壊、死者、負傷者あわせて50名ほどの被害者が出たもようです。詳しい情報が入りしだいおってお伝いします。》
 液晶モニターの向こうの出来事は時雨に取っては、いくら近くで起きた事件であろうと夢の出来事とあまり変わらなかった。
「朝からこの街は忙しいねぇ」
「この街は24時間寝らぬ」
「わあっ!!」
 自分しかいないはずの部屋で突然声がしたものだから、時雨は思わずあられもない声をあげてしまった。
 驚いた顔のまま状態を後ろにえび反りに曲げるとそこには見覚えのある顔が時雨を見下ろしていた。
 その人物と少しの間目が合い、沈黙を置いたあと、眠そうな目を擦りながら時雨はあいさつをした。
「やぁ、紅葉[クレハ]、おはよう」
 時雨の目の前にいたのは白衣の麗人紅葉だった。
「仕事の依頼に来た」
「えっ!?」
 時雨に不思議そうな顔で見つめられた紅葉はもう一度用件を簡潔に述べた。
「君に仕事の依頼を頼みに来た。理解できたかね?」
「またぁ、そんなご冗談を」
 時雨が冗談だと思うのは当然だった。この男が人にものを頼むことなどそうあることではなかったし、しかも仕事の依頼を直々に頼みに来るなど初めてのことだったので時雨は彼の言葉を本気とは受け取れなかったのだが、紅葉の表情は真剣そのものだった。そのため時雨は驚きを隠せず口をポカンと空けてしまった。
 腕組みをしながら紅葉は眉毛を吊り上げたあと細い目をした。
「冗談なのではない、重大な問題が発生したものでな、君にその解決にあたってもらいたい」
 真剣な紅葉とは対象的に時雨の全身からはヤル気のないオーラがもうもうと出ていて、そのオーラは部屋中に充満していた。
「はぁ、仕事かぁめんどくさいなぁ、だって外は大雪、今日は日曜、そして、もうすぐクリスマスだよ、副業の方はお休みにするよ。ついでに本業も今日は休みでいいや」
「何を莫迦なことを言っている、大雪はともかく、日曜? クリスマスが近い? などという理由は君が仕事をしない理由にはならん」
「だってぇー」
 駄々をこねる時雨はとても愛くるしい表情をしていたが紅葉はそれに惑わされることはなく激怒した。
「仕事をするのか、しないのかはっきりしたまえ!」
 彼が感情を表に出しながら、怒ることなど滅多にないのだが今は違った。
 彼の依頼は大雪の中わざわざ時雨のもとへ来ただけのことはあり、とても重大なことなのだろうか?
 ちょっとキレ気味の紅葉を見て時雨はしかたなく仕事をすることを決意した。なぜなら、紅葉はキレたら何をするか分からないからだ。
 彼は今までに数多くの大事件を起こしているらしいがそのほとんどは世に出ることはない。なぜなら、彼の起こした事件のほとんどが彼の手によって隠蔽され闇に葬られているからだ。
 時雨の聞いた話によると、紅葉がビルを一つ倒壊させたとか、街一つ消してしまったとか、さらには実験で島を一つ消滅させたというとても信じがたい噂ではあるが時雨は紅葉ならやりかねないと思っている。現に時雨は紅葉がキレたところをたびたび目撃しているがそれは凄まじいものだったらしい。
 上体を起こした時雨は急須を手に取りお茶を二人分入れ始めた。今日のお茶は玄米茶だ。
 突然階段を駆け上がる音がしたと思ったら次の瞬間、部屋の中に雪だるまが飛び込んで来た。
「な、何!?」
 時雨は雪だるまを見て慌てふためき炒れ途中のお茶を盛大にぶちまけた。
「あつーっ!!」
 熱さに悶える時雨をよそに雪だるまがぶるぶるっと身体を震わせると、その中から可愛らしいツインテールの眼鏡をかけた女の子が現われた。歳のころは10代後半から20代前半らしいのだか顔立ちのせいかもっと若く見える。
「テンチョ、あたしですよぉ〜、ハルナですぅ」
 ぐぐっとハルナは時雨に顔を近づけて覗き込んだ。
 ややあって時雨は状況を理解したらしく、落ち着いた様子でお茶を入れなおし始めた。
「……な〜んだハルナちゃんか、ってこんな雪の中どこ行ってたの!?」
 ハルナは時雨の本業である雑貨店の店員兼なまけものでどうしようもない時雨の身の回りの世話役を住み込みでしている女の子なのだが、どうしてこんな大雪の日に外に出かけていたのだろうか?
 ハルナの手にはコンビニの袋がぶら下がっていた。
「トイレの電球が切れちゃって」
「それだけ?」
「それだけって、なんてこと言うんですかぁ! 夜トイレに入ったときに恐いじゃないですかぁ〜」
ぶるぶるっとハルカは身震いをした。それを見ていた時雨もつられてぶるぶるっと身震いをした。
「ハルナちゃん、外寒かったでしょ。しかも服もびしょびしょみたいだからお風呂入ってきなよ」
「は〜い」
 元気な返事をしたハルナは床を水浸しにしながらお風呂へ駆け出して行った。
 時雨がふと横を見ると紅葉はいつの間にかこたつに入り、いつの間にか自分でお茶を入れて勝手に飲んでいた。
「ふむ、いいお茶だ。……ん、どうした?」
 横で口をポカンと空けた時雨と目が合った。
「いつの間にこたつ入ったの?」
「君らがコントをしている間にだ」
「別にコントじゃないけど」
 紅葉がお茶を少し啜った。
「ところで仕事は引き受けるのだろ?」
 この言葉には妙な威圧感があり、断るという選択肢を決して選ばせないようにしているようだった。
「仕事はするけどさぁ、内容はどんなの?」
 仕事をするとは決めたものの時雨にはヤル気については未だになかった。
「私のペットが一匹逃げた」
「ペット? 紅葉ペットなんか飼ってたの? 初耳だなぁ」
 そう言いながら時雨は今入れたばかりのアツアツのお茶を紅葉に手渡した。
「ペットとは生命科学研究所で飼育していた私の実験サンプルのことだ」
「実験サンプルってもしかして、ニュースでやってるあれのこと?」
 時雨は熱いお茶をすすりながらTVの画面に向かって指を指した。
《今入った情報によりますと、生命科学研究所から逃げ出した実験サンプルはイチョウ団地で目撃されたとのことです。目撃者の証言によりますと実験サンプルは東に向かって逃走中とのことです。以上帝都警察緊急対策本部からの中継でした。》
 このニュースを見た紅葉は怪訝な表情を浮かべた。
「もうニュースになっているのか」
「あたりまえだよ、都役所前で帝都警察とお激しくやっちゃたらしいから」
「身支度を済ませろ、すぐに出かける」