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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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旧説帝都エデン

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 彼女は急いでいる時などは自らの足を使わず空を飛んで目的地に行く。彼女曰くそっちの方が早くて疲れないかららしいのだが、普通は空を飛ぶというのは魔力を多く消費するため大きな疲労を伴うものであり、普通の魔導士ならば足を使うと疲れるからなどという理由でこの術は使わない。そのような理由で彼女がこの術を使えるのは彼女の持つ底を知らぬ魔力のおかげであって、彼女だからできる芸当と言える。
 遺跡の中は迷路のように道が入り組んでいて、トラップも多く仕掛けられている。トラップが仕掛けられているということは、この場所に人を近づけない為と考えるのが必然的だろう。では、なぜ人を近づけないようにしているのか、遺跡には何があるというのか?
 遺跡の中はほのかな光で溢れている。それは遺跡自体が微かな光を放っているためである。この遺跡にある壁や天上などはそれ自体が光っている、その理由は壁などに使われている岩に含まれる成分がこの遺跡全体に発せられている強い磁場と反応して輝いているのだと遺跡に入った専門家たちは言っている。
 少し遺跡の奥へと進んだ所でマナはある物を見つけた。
「あらぁん、こんなところにいかにも押して下さいって感じのボタンが」
 そう言いながらマナは壁に付いているボタンを押そうとする。
「ま、待って!」
 時雨が急いで止めに入ろうとするが間に合わなかった。
「えいっ」
 マナの人差し指がボタンを強く押した。辺りが静まり返る――。
「あらん、なにも起こらないわ」
 マナの言葉に対して紅葉は当たり前だというような顔をして、眉をぴくりと上げて言った。
「入り口付近のトラップの大半はすでに解除済みだ」
「はぁ、よかった」
 時雨は安堵のため息を付いた。しかし、マナは少し不満そうだ。
「つまんないわねぇん、あ〜んなことやこ〜んなことが起こるの期待してたのにぃ〜」
「期待しないでよそんな事……っあれ?」
 時雨はある異変に気付いて辺りを見回す。
「どうしたのぉん?」
 マナはまだ異変に気付いていないらしい。
「紅葉がいない」
「ウソぉん!?」
 紅葉の姿が忽然と消えてしまった。二人は辺りを見回すが紅葉の姿はどこにもない。紅葉は何処へ消えてしまったのだろうか?
「これが今ここで流行ってる神隠しってやつかしらぁん」
 マナの言い草は明らかに他人事ごとだった。紅葉のことなどどうでもいいのか、それともただ単に自己中心的なだけなのだろうか?
 ため息を付きながら時雨は困った表情をしてマナを見つめた。
「マナが変なボタン押すから」
「紅葉ちゃんが入り口付近のトラップは解除してあるって言ってたじゃない」
 そう言ってマナは再びボタンを押した――。
「ほら、何も起こんないじゃない」
「だからって、そう何度もボタンをむやみに押すのやめてよ。もし何か起こっ……」
 話の途中で時雨の姿がマナの前から忽然と消えてしまった。
「あっ……時間差だったのねぇん」
 少し考えた後マナはボタンをもう一度押してみることにした。
「ぽちっと」
 ――時間差でマナの姿がその場からパッと消えた。

 マナは何も無い小部屋の中央に立っていた。
 どうやらあのトラップは人をあの場所とは別の場所にテレポーテーションさせてしまうものらしい。
「あらぁん、みんないないわねぇん」
 マナは辺りをぐるりと見回した。
 部屋には何も無い、窓もなければドアもない、四方は壁で囲まれており、本当に何も無かった。
「出口がないわねぇん、ということは、他のみんなは別の場所に飛ばされたって事かしらぁん」
 そう、あのトラップは一度に一人ずつ別々の場所にテレポートさせることにより後から追おうとした者を全員はぐれさせるというじつに巧妙で手の込んだ意地の悪いトラップであったのだ。
 少し考えたマナは壁を叩きながら移動して出口が無いか調べたが見つからなかった。そこで仕方なく彼女は魔法で壁に穴を開けることにした。
 彼女は右手を壁に向けると手のひらから魔弾と呼ばれる魔力を結晶化したものを発射した。
 放たれた光が壁に当たると同時に厚い岩でできた壁は音を立てて崩れ落ち、直径3mの穴がぽっかりと口を開くと、彼女はそこから部屋の外へと移動した――。

 薄暗い廊下を歩く時雨の肩はぐったりとたれ、足取りはとても重く、それを反映するように表情は今にも自殺してしまいそうなくらい憂鬱な顔をしていた。
「はぁ、だから押すなって言ったのに」
 歩いても歩いても何処までも何処までも続く直線の廊下を彼はただひたすらに歩いていた。
「みんなどこにいるんだろう」
 彼の右手にはひも状の物が握られており、その先端にはひし形の宝石らしき物がぶら下がっている。これは彼の得意とするダウジングである。探しているモノに反応して宝石がその場所を指し示してくれるというものなのだが――。
「どうも反応が鈍いな、この遺跡のせいかな」
 この遺跡の調査記録によると方位磁石や連絡機器は特殊な電波が出ているため使えないとの報告がある。
「せめて、この真っ直ぐな道を出たいなぁ」
 彼は結局かれこれ2時間ほどこの真っ直ぐな道を歩いてた。
「はぁ、どこまで続くんだろこの道、こっちの方もぜんぜん反応してくれないし」
 前方の道は薄暗く、どこまで続いているのか検討もつかない。
 彼はひもにぶら下がった宝石を見た。
「!!」
 時雨の頭にある考えが浮かんだ。しかし、それは今までここまで歩いてきたという努力を全て水の泡にする恐ろしい考えであった。だが彼はそれを実行に移した。
 時雨は勢いよく後ろを振り向いた。
「あっ……やっぱり」
 振り向いた先にはなんと、5メートル先くらいのところに鉄の扉があった。
 時雨は2時間以上もの間、同じ道を永遠と歩かされてしまうループトラップとは知らずに歩かされていたのだった。
「はぁ……早く後ろ振り返ればよかった」
 時雨はため息を付くとドアを開け中に入って行った。

 静かな石畳の廊下に響き渡る足音。
「入り口付近にまだ解除していない、トラップがあったとはな」
 紅葉の顔つきは普段と何ら変わらない表情をしていたが、心の奥底では怒りの念で憤怒していた。彼は常に冷静沈着で顔立ちも良く女性には比較的やさしいため、女生徒に大変人気のある帝都大学のプロフェッサーなのだが、実は非常に気性の荒い人物であったありするのである。そんな彼を知っているのは極小数で、その中の一人の時雨は時折彼の無鉄砲な怒りの被害者であったりしたのだった。
「……微かだが血の臭いがするな」
 紅葉が辺りを見回すとあるものが彼の目に止まった。そこには、八つ裂きにされ内臓器の飛び出した死体が転がっていた。
「一つ、二つ……全部で5体か」
 紅葉は死体に近づきしゃがみ込むと物色を始めた。
 彼の手には常に白い手袋がはめられていて彼の手を直接汚すことはない。その手袋をはめた手が死体を隈なく調べつくす。
「歯形と爪痕、だいぶ喰われてしまっているな……獣の仕業か?」
 移動し他の死体もくまなく調べる。
「やはり、同じ歯形と爪痕か……ん?」
 紅葉は死体の手に握られている何かを発見した。 
「鍵……?」
 紅葉はその鍵を死体の手から取ると自分の白衣のポケットに入れた。