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Journeyman Part-2

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 危険を察知する能力にも長けているから、パスプロテクションが破られてもタックルを回避しながらターゲットを探せる、そして、いざとなったら自分でボールを持って走ることも出来る。
 それらの能力はプロでも充分に通用するレベルにある。
 ただ、その能力を過信しているきらいがあるのだ。
 NFLはフットボールの最高峰だ、カレッジとはディフェンスの能力が違う、通る筈のパスがインターセプトされ、かわせる筈のタックルを食らい、ランに切り替えても止められてしまった時、カレッジでは通用したプレーが通用しないとわかった時、それでも自分の能力を信じられるかどうか……。
 ドラフトでのクォーターバックの指名は難しいと言われる。
 カレッジでは光り輝いていた選手が輝きを失ってしまうことは珍しくない、しかし、逆にさほど期待されていなかった選手がプロの厳しいプレーで磨かれて光を放つようになることもある。
 それはひとえにプロの壁にぶち当たった時に、自分の能力を生かせる道を見つけられるかどうかにかかっているとリックは考えている。
 自分は……能力が高い選手だとは思っていない、ドラフトにかかるかどうかさえ懐疑的だったくらいだ。
 だが、自分の能力の限界を知り、プロでも生かせる能力を磨き、プロでは通用しない部分は封印してリスクを回避する事でここまで来た。
 ティムの能力の限界は自分より遥かに高いと思う、自分はせいぜいいぶし銀の輝きしか放てなかった、だから『ジャーニーマン』なのだ。
 だが、ティムがプロでのプレーの厳しさを知り、その中で持てる能力を100%発揮できたとしたら、彼は金色の光を放つサンダースの顔とも言うべき選手になれるだろうと思う、ティムはジャーニーマンで終わるような素材ではない……。
 
 いくつか技術的なアドバイスもしたが、技術的なことに関する限りティムは真剣な表情でそれを聞き、その場で実践してみたり質問して来たりもした。
 リックのパスは自分のパスより正確だと認め、素直にそのアドバイスを聞く耳は持っているようだ。
 ただ、自分がカレッジで培って来たプレーがプロでは通じないと指摘されることは納得できないらしい。
(あなたにはこれは出来ないでしょう? それで何がわかると言うんです?)。
 ランバックのパターンは通用しないと指摘した時、ティムの目はそう語っていた。

 リックが仮設スタンドに戻ると、ジムはまだそこに座っていた。
「ティムはどうだい?」
「能力は高いですね、アドバイスに耳も傾ける姿勢も持ってます」
「技術的なことに関してだけはな……」
「まるで話している事が聞こえていたみたいですね」
「聞こえちゃいないさ、でも様子でわかるよ、さっきのプレーを完璧に出来る自信はあると言ったんじゃないか?」
「その通りですよ」
「だが、実際にはそうじゃない、君ならあのプレーはやらない、リスクが大きすぎるからな」
「やらないんじゃなくて、出来ないんですよ、俺は典型的なポケットパッサーですからね、走りながら投げることなんか出来ないんですよ」
「そうかな、もし出来たとしても君ならやらないような気がするが」
「……多分ね……」
「君はプロの怖さを良く知っているからな、君をドラフトしようと決めた時の事は話したことがあったかな?」
「いえ、聞いてませんね」
「君はカレッジの頃から典型的なポケットパッサーだったが、あの頃なら走れないこともなかったんじゃないか?」
「さあ、どうでしょう、あまり好きじゃなかった事は確かですが」
「いや、どことの試合だったかは忘れたが、残り十数秒で2点のビハインド、敵陣40ヤード辺りと言うシチュエーションだった、君はラッシャーに追われながら15ヤードのパスをサイドライン際に決めて、逆転フィールドゴールに繋げた、だが、そのビデオを良く見るとその15ヤード先にもガラ空きのレシーバーが居たんだ、サイドライン際じゃなかったがね、そっちに投げればタッチダウンが取れたように見えたよ、だが君はそれを選ばなかった、もしそっちに投げてタッチダウンまで行かなければ時間切れで試合終了だ、サイドライン際ならタッチダウンにはならないがフィールドゴールに繋げられる、そっちの方が確率が高いと瞬時に計算したんだと思った、それができる男なんだと……」
「そんなことがありましたかね、忘れました」
 嘘だった、確かにその通りの事を考えて投げたのだ、そのシーンははっきり憶えている、25ヤード先で『こっちだ!』と手を挙げたレシーバーの表情までも。
「3年目だったな、プレシーズンゲームでもそんなことがあったんだよ、プレシーズンゲームは若手にとっちゃアピールの場だ、ところが君は勝利の確率が高いプレーを選択した、それも何度もね、その時『こいつは使える』と思ったんだ……君は充分に期待に応えてくれたさ」
「ウィルが出てきたらあっさりカットされましたがね」
「そのことについちゃ、謝る気などないよ、ウィルを使った方が勝てると思ったからさ、実際そうだっただろう?」
「その通りでした、謝ってもらいたいだなんて思っちゃいませんよ」
「ただね、ウィルも君のプレーを見て成長したことは間違いない、クォーターバックコーチの所に試合のビデオを持ち込んで、この場合は、その場合は、と質問攻めにしたらしいからな」
「そうだったんですか……それもあってサンダースに俺を?」
「そうさ」
「で、ティムが成長したらお払い箱ですか?」
「君の方が上だと思う限り君を使う、ティムが君を追い越したと思ったらティムを使う、シンプルな話さ」
「当然ですね……実は今シーズン限りの引退を考えてます」
「そうかい?」
「鎮痛剤なしで眠れる体を取り戻したいですからね、実際、俺程度の素質で良く12年もNFLでやって来れたと思ってますよ、背番号13、キャリアも13年、キリが良いじゃありませんか」
「君が今年で引退するとしたら、ティムには余程頑張ってもらわないとな」
「そのために俺が出来ることは何でもしますよ」
「シーズン途中で交代するかも知れんぞ?」
「構いませんよ、そうなっても今年の年棒が減るわけでもありませんからね、働かずに報酬をもらえるなら文句ありませんよ」
「ははは……そうか……」
 ジムはリックの肩をぽんと叩くと腰を上げた。
 リックは軽く手を挙げると、またフィールドに目をやった。
 そして……ジムが仮設スタンドから降りる際に、リックに向って覚えたての日本式お辞儀をしたのを視界の隅に捉えた。
 そうせずにいられなかったジムの心情を察するからこそ、リックはそれに気付かなかったフリをしてフィールドを見つめ続けていた。


作品名:Journeyman Part-2 作家名:ST