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Journeyman Part-2

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1.ルーキーキャンプ



 ルーキーキャンプとは、ルーキーや2~3年目でまだ試合出場経験がない、あるいはごく少ない選手を集めて行うミニキャンプ。
 強制参加ではないが、出場機会を求めたい若手にとってはアピールの場でもある。
 スタータークラスやベテランは参加しないのが常だが、そのルーキーキャンプにふらりとリックがやって来た。
 ティム・ウィルソンを見ておきたいというのが一番の理由、そして新人レフトタックルのジョージ・マイヤー、同じく新人ワイドレシーバーのジミー・ヘイズも見ておきたかったのだ。
 もちろん首脳陣にとって、リックのその熱意は大歓迎だ。

「マイヤーはどうだい?」
 仮設スタンドに陣取るリックの隣にジムがやって来た。
「動きが良いです、スピードで振りきられる心配はなさそうですね」
 
 マイヤーと対峙しているのは、元のチームでディフェンスエンドのスターターまであと一歩と目されていた選手、ポジションを求めてこのキャンプに向けて充分にトレーニングを重ねて来たであろう彼が、ブロックを外そうと激しく動き回ってもマイヤーは楽々と付いて行けている、この様子ならばプロのスターターに対してもスピードで負けることはなさそうだ。
 しかし、一流のプロならばこのスピードにパワーが加わる、振りきられなくても押し込まれてしまえばクォーターバックの背後は脅かされる、体重がそれほどあるとは思えないマイヤーにはその点が不安だ。
 だが、ジムがマイヤーの指名にこだわった理由もわかる、スピード不足を改善することは難しいが、筋力と体重を増やすことはトレーニング次第で可能、そしてウエートとパワーは両立させることも難しくない。
 1年目はわからないが、2~3年目にはマイヤーは良いレフトタックルになりそうだ。

「ティムとヘイズのコンビネーションなんですが……」
「ああ、あのプレーはプロでは通用しないだろうな……」

 ティムは取り立てて強肩と言うわけではないのでヘイズのスピードを生かしきれていないように見える、ティムが走りながらレシーバーを探すシチュエーションになると、ヘイズは急ブレーキをかけて振り返るのだ、ヘイズの俊足は光る物があるからヘイズをカバーしたコーナーバックは急にストップされると止まれずに前方に取り残されてしまう、その瞬間を突いてティムはパスを通すのだ、しかし、それはカレッジレベルでは通用してもプロでは難しい、一流のコーナーバックならヘイズにスピードをもってしても簡単に振りきられるようなことはないからヘイズの急ブレーキにも対応できるだろうし、クォーターバックの動きも見えているので読まれてしまう可能性がある、そうなればインターセプトも取られやすくなる。

「俺が指導してもOKですか?」
「ああ、むしろお願いしたいくらいだ」
「では……」
 リックは腰を上げてフィールドに向って行った。
 その背中を見て、ジムはリックの心の内を察した。
 リックは現役生活を今年限りと決めているようだ。
 そして、今年中にティムにスターターの座を奪われるとは考えていない、ティムの現時点での実力を見極めたのだ。
 だからこそ、2年目以降のティム、自分に代わってスターターの座に着くだろうティムを成長させておきたい、そう考えているに違いない……。

「ティム、会えて嬉しいよ、リック・カーペンターだ」
「初めまして、ティム・ウィルソンです、ロスアンゼルス時代のあなたのプレーを見てました、まだ高校生でしたが」
 リックがロスアンゼルスに在籍したのは6年前の1シーズンだけ、当時のロスアンゼルスはオフェンスラインが弱く、リックは思うような成績を残せなかった。
 おそらくティムの印象にはリックはあくまで臨時のクォーターバック、それもあまり大したクォーターバックではない、と言う形でしか残っていないだろう。
 当時高校生ではプレーの意味まではわかっていなかっただろうから。

「今のプレーは危険だぞ、カレッジでは通用したかも知れないが、プロではインターセプトの餌食になる、こちらを向いた形でインターセプトされたらそのままエンドゾーンまで一直線と言うことにもなりかねない」
「いえ、まだトレーニングを始めたばかりでタイミングは少し甘いですが、シーズンインの頃にはピタリと合わせて見せますよ」
「……ならいいが、ランバックのパターンはリスクが大きいことは頭に入れておいてくれ」
「わかりました」
 そう答えたティムの口元には微かな笑みが浮かんでいた。

 リックはレシーバーがこちらに振り返ったり戻ってきたりするランバックのパターンはごく短いパス、それも極めて速いタイミングでしか使わない。
 プロのコーナーバックの嗅覚は鋭い、彼らに時間を与えることは非常に危険だと身に沁みて知っているのだ。

 リックは常にリスクとリターンを天秤にかけてプレーする。
 3~40ヤードを一気に稼ぐロングパスはエキサイティングだが、インターセプトでボールを失うリスクも大きいのであまり投げない。
 味方ラインのパスプロテクションが破られた時、逃げ惑いながらパスを投げるのも危険だ、確実に空いているレシーバーが見つかれば良いが、僅かな隙を見つけて投げることはしない、走りながらではコントロールを乱す可能性があるし、リリースまでの時間がかかる分、こちらからは余裕が失われ、相手には余裕が生まれてくる、そんな場合は投げ捨ててパス失敗にしてしまうか、その余裕もなければ大人しくサックされてしまった方が良い。
 それゆえ、リックのパスはせいぜい10ヤード位の、それもサイドライン際のものが多い。
 成功の確率が高く、危険だと思えば投げ出してしまえるからだ。
 そして、ジャーニーマンであるリックが在籍するチームはあまり強くない場合が多い、そんなキャリアを通して、リスクを回避して確実にボールを進める、そんなスタイルを確立して来た。
 リックの考え方はそのようなものだ。

 だが、走れるクォーターバックであるティムの感覚は違う。
 ディフェンスに追われるシチュエーションになっても常に活路を探し、光明が見えればリスクを冒してもチャレンジしようとする。
 カレッジからの相棒であるヘイズもそんなティムを良く知っているから様々なパターンを駆使して一縷の光明を作り出そうとする。
 二人のコンビネーションが上手く行っている間はそれでも良い、観客にとってはスリリングでエキサイティングなプレーに見える、そしてそれが見事に決まったならばティムとヘイズの能力と勇気に大きな歓声を送る。
 だが、上手く行かなかったら? ディフェンスの能力の方が上回ったならば?
 冒したリスクはそのままダメージになる、それが度重なれば試合は壊れ、観客は試合終了を待たずにスタジアム後にするだろう、そしてそんな試合が続いたならばスタジアムから足が遠のいてしまう。

 ティムが高い能力を持っていることについて疑問の余地はない。
 取り立てて強肩というわけではないが、走りながらのパスでも正確なコントロールを発揮できる。
 身長は物足りないが、動きの良さで充分にカバーできる。
作品名:Journeyman Part-2 作家名:ST