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誰がガールズバンドを殺したか?

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1.

 終わってしまう。
 17歳の夏休みが。
 人生一度きりの夏が。

 そんな風に冷房の効いた自分の部屋でボヤいてたって何にもなりゃしないのに。
 しかしどうしようもなく今年の夏休みはヒマだった。

 本来ならば軽音の夏練習があり、講堂や部室棟なんかでのリハーサルに励んでいるはずだったのに、夏休み前に起きたのっぴきならない事情により、その予定は吹き飛んでしまった。
 私には片思いしていた男子がいた。同じ部活で隣のクラスの大島くんのことが好きだった。クラスの友達であり、部活では相方であった長井智美には彼のことをよく相談していて、学祭のライブが終わったら告白するんだって一学期の頃は意気込んでいたのだ。
 それがだ! くそったれ! 思い返すだけでも腹が立つンだよ!
 私は見てしまったのだ、彼とクソ泥棒猫女が仲睦まじげに歩いてンのを…

 現場に居合わせた中学の頃からの友人である木村茜は後にこう述懐する。
「あン時の麻衣子は怖かったね。まるで修羅のようだったなァ…。仁王像のように立ち尽くして、血の涙を流しながらスチール缶を握りつぶすのをあたしは見たヨ」
 そんなこんなで想い人を友人に盗られ、すっかりやる気を失くしていた私は、練習にも顔を出さず、かといって夏期講習に行くこともなく、家でダラダラしてばかりいた。両親や大学生の姉は、まぁなんか私の身に起こった事態を察したようで、特にお小言を言われないのをいいことに、私の夏期ニート生活は続いていた。

「学祭のライブかァ…」
 口に出す度に虚しい。今年は智美とゆずでも演って歌える女子っぷりをアピールするつもりでいたのに。どうしてこうなっちゃったんだろう。つーかさ、人の男を盗るンじゃねェよなァ…。
 私が軽音に入ったきっかけというか理由は、自分を変えたかったからだ。
 勉強はいまいち、運動はダメ、根暗で内弁慶などうにもイケてない自分を変えたかった。小さいころから歌うことが好きだったし、歌に関してだけは褒められたこともある。高校に入ったら軽音に入って、自分でギターを弾いて自分の歌いたい歌を唄う。ステージに立って普段のウジウジした自分ではない、別の自分になる。それが理由だった。
 高校の入学祝いにフォークギター(御茶ノ水で1万2000円だった)を買ってもらい、春休みはほとんど練習に費やした。弦の張り方に失敗し、何本も弦を無駄にしたり、チューニングがどうにも上手くできず、結局チューナーを買いに行ったりなんかもしたけど、一つずつコードを覚えて、入学する頃には長渕剛の『乾杯』なんかは弾けるようになっていた。私の趣味ではないけどね。おとんの趣味です。簡単でいい曲だって言ってたのよ。
 そして高校に入学し、すぐに軽音に入った。上級生たちは皆いい人たちで、優しく接してくれた。人気の部活だというイメージがあったんだけど、そんなに部員数が多くないことにびっくりしたのを覚えている。先輩たち曰く、「実際楽器を買って練習してステージに立とうっていう根性がある奴、というか物好きは案外多くない」だそうな。
 同級生の男子たちはミスチルやイエモン、女子はジュディマリやスピッツのコピーをやる子が多く、上級生たちはヴィジュアル系やミッシェルガンエレファントなんかをやっていた。夏の講堂リハで、三年生が演奏したミッシェルガンエレファントの『世界の終わり』に感動し、大学生の姉に即CDを貸してもらったのはいい思い出だ。
 学祭のライブには一人で出た。別に誰にも誘われなかったわけではなく、同級生からは一緒にスピッツのコピーをやらないかと誘われていたのだけれど、あまりスピッツは好きではないから断った。私にはどうしても歌いたい曲があったのだ。
 『黄泉がえり』という映画の主題歌で、出演もしていた柴咲コウが歌った『月のしずく』という曲が私はどうにも好きで、どうしても歌いたかった。ギター弾き語り用のスコアしか見当たらなかったので、一人でやらざるを得ないという事情もあったの。念のため。
 ステージでどう歌ったかなんてのは全く覚えていない。緊張と謎の興奮で若干パニックになっていた。無我夢中で歌い、ステージ袖に引っこんだ。そしたら先輩たちがキラキラした笑顔で迎えてくれて、当時の部長に「やるじゃん佐藤ォ!すっげぇいい声だったよアンタ!」と背中をバシバシ叩かれ、「ああ、きちんと歌えたんだな私」と実感できたのはステージを降りてからだった。
 それから冬と春のライブがあり、どちらも私は一人で出た。学祭によって「佐藤は一人で歌える子」というイメージがついてしまったらしく、二回とも誰にも誘われなかった。
 春にクラス替えがあったが、茜とはまた同じクラスだった。中学三年からずっと同じクラスである。茜は「まーたアンタとおなしクラスかァ」とかぬかしてたけど、一緒なのは心強かった。茜は私にとって数少ない友達だから。
 中三の修学旅行で同じ(あまりもの)グループになったのがきっかけで、私と茜は仲良くなった。茜は背が高く、武道をやっていることもあってスタイルも非常にいい。目つきはクッソ鋭いが美人である。あまりワイワイしたがるタイプでなく、怒ると口より先に足が出るタイプ(スカートめくりをした奴の前歯を折ったこともある)ので、周囲から怖がられていた。一緒のグループになった当初は私もビビッて警戒していたのだけれど、意外にインドア派でめんどくさがりという共通点もあり、ポツポツと話すようになった。旅行中私たちは新幹線・バスによる長距離移動・ベッドの寝心地が最悪なビジネスホテルなどに散々と苦しめられた。それらによって危険な領域へと突入した私たちの間には奇妙な連帯感が生まれ、東京に帰ってくるころにはすっかり十年来の親友のようになっていた。
 智美に大島くんを寝取られた件に関しても心配してくれて、「大島の野郎ォ…、腕の一本でも折ってこようか?」と言ってくれたが、仇討ちは申し訳ないがNGと止めた。ンなことで茜が退学になっても困るし。
 忌まわしき恋敵に関しても少し話しておこう。長井智美。一年の時は隣のクラスだったので、話すのは部活の時くらいだった。ショートカットで目がくりっとしていて可愛く、ロリ声かつ少し舌っ足らずな話し方をする売女である。あと胸がデカい。一年女子の中でも華やかな子で、中心的な存在だった。学祭ではスピッツのコピーバンドでヴォーカル・ギターをやり、そのロリ声を十分に活かしたヴォーカルで男子たちを狂喜乱舞させた恐ろしい奴。
 二年になってクラスが一緒になり、何くれとなく話すようになったのだが、正直苦手なタイプであり、茜なんかも「アタシはあーいうのはダメ。売女臭しかしないもん」などと言っていた。結局のところピュワピュワふわふわしたペースに飲まれ、いらんことを話してしまった私が悪いんだけどもね。今となってみればさ。