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短編集19(過去作品)

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 私を見つめる優しそうな目、それはまさしく私を慕っている目である。何か口元が動いているようにも見える。
 何と言っているのかハッキリとは分からなかったが、そのうちに分かるような気がしてきたのは気のせいではないかも知れない。
――そういえば、翔太は私とまったく正反対の性格だったな――
 と、思うと最近の自分を見ているまわりの目を思い出した。きっと思い出しながら夢から覚めていっているのを感じていたかも知れないが、その時にもう一人の私とは、弟の翔太ではないかと感じている。
 完全に目が覚めてきた。目を覚ました時の私は、もう夢の中で見たことを忘れかけている。しかし、私を慕うように何かを言おうとして動いていた口元だけは、鮮明に覚えている。それを理解する時、きっと弟の気持ちが分かるのではないだろうか?
――翔太は生きていれば、きっと事業家肌の人間になっていただろう――
 別に根拠があるわけではない。自分が芸術家肌だと思えば思うほど、翔太が事業家肌だったような気がしてならないのだ。自分にないものを持っていた弟を尊敬してもいたし、翔太も兄の私を羨ましがっていたかも知れない。それだけお互いに刺激しあっていたように思える。
 私が自分の中に翔太がいるのではないかと思い始めたのはいつからだっただろう。自分の死ぬ夢を見始めて、自分のことを芸術家肌だと感じ始める。そんな中で自分をいかに表現するかだけを考えていたつもりだったが、どこかで違う自分が顔を出しているのだ。その間の時間は私の中では止まっている。
 よくSF小説や映画の中でタイムスリップの話が出てくるが、タイムトラベルをすると、自分の身体だけが時間を感じず、それ以外のものは時間とともに過ぎてきたものだった。
 慣性の法則というのがあるが、まさしくそれを思い出させる。動いている電車の中などで、飛び上がっても着地するのは電車内の空間に守られた定位置である。外の影響があるわけではなく、もしそんなものがあったら、動くものすべて圧力によって、人間が乗ることなどできなくなってしまうだろう。きっと次元の違いのようなものが慣性の法則の中にはあるのかも知れない。
 弟が死んでからの両親の態度を今さらながらに思い出す。弟への思いがあれだけあったにもかかわらず、数十日も経つと気持ちはあっさりと私に移っていた。それも弟の分まで私に気を遣ってくれるようになり、まるで私の後ろに弟が見えるのではないかと気持ち悪く思ったものだ。しかしそんなことなどあるはずもないと思うことで何とか両親の気持ちを正面から感じないで済んだが、それもまんざら嘘ではなかったのかも知れない。
――私の後ろに弟を見ていた――
 と感じるようになって、実際私も時々自分の中に別の自分がいると思うようになっていた。それは二重人格で性格が正反対の私が見え隠れしていると思っていたのだが、ひょっとしてそれは本当に弟だったのかも知れない。
 そういえば時々懐かしい声に呼び止められるような気がすることがあった。どこの誰だか思い出せないのだが、それも弟だと考えると何となく納得がいく。その時分からなかったのは、きっと自分の性格がまだハッキリと分かっていなかったからだろう。分かっていないので、本当に正反対の性格が弟の性格だったことや、話しかけられるような気がしても、それを気のせいだと思ってしまったに違いない。
 ある日私はギロチンに首を突っ込んでいる男を見かける。それが夢であることは分かっているので、きっとその男が私だということは、ウスウス気付いていたのだ。
 ゆっくりと覗き込んでみる。恐る恐るという表現がピッタリだが、今まで恐る恐るということはなかった。きっと何かの予感があったのかも知れない。いつもは覗き込んでそこに自分の顔を確認すると目が覚めていた。
 しかしその日は違っていた。見てしまっては最後という気持ちはあった。それはすぐに目が覚めてしまうというのとは違い、本当に「最後」という感覚である。
 いつもよりドキドキが強かったような気がする。完全に予感めいたものがあったのだ。
だからこそ、怖いながらも顔を確認したくて仕方がなかったし、自分の顔ではないような感じでもあった。
 そこにあるその顔、思わず叫んでいたが、声になったかどうか……、
「翔太」
 すると、まわりは一斉に私を見た。
 しかしそれを確認はできなかった、なぜなら私は、その瞬間に目を瞑ってしまったからである。目をあけるとそこには群衆の恐ろしい目、まるで幽霊でも見たかのような目もあれば、憎しみに震える目もある。
 そう、私はギロチンに挟まれているのだ。今しも上から落ちてきた刃で、首が吹っ飛んでしまいそうで、首の感覚はない。
 きっとここで死んでしまうんだと思ったが、次の瞬間に私は自分が本当の自分ではない気がした。
「ここで死んでしまうのは、いったい誰なんだろう……」
 次第に記憶が薄れていくのを今さらのように思い出していた……。


                (  完  )

作品名:短編集19(過去作品) 作家名:森本晃次