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短編集19(過去作品)

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 職人気質である父の性格は一直線で、曲がったことは大嫌いだった。そのことは母もよく熟知していて、かなり気を遣っていたようだ。しかし子供の私だけは思うようにならないため。内心悩んでいたことだろう。だが、それでも普段の父親は私に優しかった。今ではだいぶ人間が丸くなったみたいだが、どうしても曲がったことが嫌いな父は理不尽なことに直面することが多かったようで、そのたびに酒を煽っていた。
 酒を煽った時の父親は別人なのだ。理性は吹っ飛んでしまい。相手が愛する母であろうと、いくら血の繋がりのない子供である私であろうと、容赦なかった。夫婦喧嘩は修羅場で、さすがに気丈な母もむやみに逆らえるものではない。本当に手がつけられないようだった。
 それでも少し酔いが覚めてくると理性が戻ってくるのか、最後はふらりと表に出て行ってしまう。あとには散々たる部屋の中に、うな垂れた母と、ただ泣いてばかりの私が残されるだけだったのだ。
 しばらくして、父と母の間に翔太が生まれた。念願だった父の喜びようったらあったものではなかった。その頃にはもう父の酒乱はなくなっていた。きっとそんな父への天国からのプレゼントではないかとも思われた。
 それからしばらくは幸せな家庭環境が続いた。連れ子である私にも父は優しかったし、それだけ人間が丸くなったのであろう。精神的にも余裕ができたことで、仕事にも運が向いてきたのだろう。元々職人気質の父は縁起を担ぐことも多く、その気になれば運も向いてくるというものだ。
 だが、世の中というのはむごいもので、そんな父に待っていたのは、弟の交通事故死という最悪の結末だった。死んでからしばらくは本当に放心状態であった。何も手につかず、あれだけ気丈だった父や母がずっと泣き伏せていたのである。
 何かきっかけがあったのではないかと思えるほど、両親の立ち直りは早かった。もう酒を煽ることもなくなったし、父もまるで私を我が子のように接してくれたのだ。私には最高に嬉しいことだった。
 遠回りをしたが、やっと私にも家庭の温かさを感じることができたような気がした。弟の死を乗り越えた時、本当の家庭を感じたのは何とも皮肉なことである。
 だが、私の記憶とは別に違う人生を感じることがある。それがどんな人生なのか分からないが、夢を見ていて、起きてから感じるのだ。まったく覚えていないのだが、意識の中であまりにも生々しい夢だったことに、
――まるで自分の人生を見ているようだ――
 と思うのだった。
 そういえば、今の人生がたまに薄っぺらいものに感じられることがある。時間の経過にしてもそうだし、記憶の中にふとした矛盾を感じるのだ。それはすぐに忘れてしまうのだが、きっとゆっくり考えればすぐにそのわけを見つけることができそうに思えた。
――ひょっとして弟の人生を見ているのではないだろうか――
 とも考えたが、それも違う。それが前世の記憶とダブっているのではないかと思うようになったのが、幼児期の記憶があることだった。
――客観的に見ている自分がいる――
 と感じたのも、まるで夢の延長線上にいるような気持ちになっても仕方のないことのように思えた。やはり夢というのは、潜在意識が見せる頭の奥に封印している記憶のようなものではないのだろうか。
 弟が生きていたら、私の人生はどんな人生になっているんだろう? ふとそんなことを考える時がある。両親とも私に対して今のような態度でいれるだろうか? 今はとても私に優しく、しかも私に期待してくれているような感じである。弟が死ぬまでは完全にほったらかされていたこともあり、期待されるのはまんざら嫌ではない。
 両親の私を見る目が完全に変わったことは明らかだ。それは時々感じる。今までと同じような目で見ているときもあるかと思えば、期待に目を輝かせる時もある。しかし、たまにまるで幽霊でも見るかのような虚ろな目をしていることもあり、少し怖くなることもある。
 そんな私だったが、同じように感じるのは両親だけではなかった。友達から、
「お前、時々違う雰囲気の時があるな。一匹狼のような感じのところがあるかと思えば、時々すごい統率力を発揮することがある」
 自分では分からないが、それを言われるのは一人からだけではない。たまに先生からも言われることがあるくらいで、とうとう学級委員をさせられたこともあった。
 本当ならそんな面倒くさいことは嫌なはずである。しかし、その時は嫌でありながら、
――ようし、やってやろう――
 と、意気に感じたのも事実だった。今までの私であれば、そんなことはなかっただろうに……。
 今から思えばそれも中学の頃までだっただろう。中学の頃に初めて人間の性格について考え始め、芸術家肌か事業家肌かということを感じ始めたのだ。もちろん私は芸術家肌でありたい。ずっとそう感じてきただろうし、人を統率する能力よりも、自分を使って何かを表現する芸術家肌でありたいと思っていたのだ。
――私の中にもう一人の自分がいるみたいだ――
 と、よく感じていたが、それも何かが違うような感じだ。躁鬱の気があるので、それで二重人格というのであれば分かるのだが、どうも自分ではない人格が宿っているような気がして仕方がない。事業家肌のように、人を統率するのに優れていると言われても、ピンと来るものではなく、実際にその時の記憶は完全に飛んでいる。きっと頭の中に封印されているのだろうが、まるで夢のように開くことのない封印のようである。
 そんな頃、私は自分が死ぬ夢を見るようになった。何度も何度も見ていたので、気持ち悪い感じがしたが、不思議と死ぬという感覚が麻痺してくるような変な気持ちにもなっていた。
――死ぬ時の気持ちが分かるような気がする――
 と感じたが、漠然とであって、これなら怖くないかも知れないと思った。しかし、死ぬのは怖いことだという感覚は絶対的なものであるので、やはり夢は夢、起きてから感じるとどうしても漠然としてしまうのだろう。
 夢の中で客観的に死んでいく人を見ている時、目が覚める前に必ず顔を見ることができる。顔を見たが最後、すぐに目が覚めてしまうのだが、最初はその顔が私の顔だと分かっていたのである。それだけに驚いてきっと大きく目を瞠り、顔が硬直した状態で夢から覚めていたことだろう。しかし、最後は違っていた。確認したその顔は明らかに私の顔ではない。その顔は私を見て、懐かしそうに、そして何かを言いたげで慕うような目をしていたように思う。
 最初はそれが誰だか分からなかった。だが、よく見ているうちに分かってくる。その時は顔を見た瞬間に夢から覚めることはなく、相手が誰かを確認できる余裕があったように思える。やはり潜在意識が見せるのが夢、顔を確認したいと感じたに違いない。
 顔を確認するやいなや、私はビックリしていた。
――翔太――
 それは紛れもなく私の死んだ弟、翔太だったのだ。ビックリしたのは一瞬で、夢とはいえ、弟に会えたのは嬉しかった。しかしそれが処刑されるところの夢だなんて……。夢の中でも弟はすでに死んでいることは分かっているはず、しかしそれを今さら夢に見るのも変なことだが、きっと私にお別れを言いに来たのではないかと思えて仕方がなかった。
作品名:短編集19(過去作品) 作家名:森本晃次