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文目ゆうき
文目ゆうき
novelistID. 59247
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睡蓮の書 五、生命の章

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 今のキレスはあまりにも、今までと変わりがなさすぎるのだ。これまでのことを考えれば、強い違和感を覚えずにはいられない。近すぎと思えるほど近く、寄りかかるようにしてあったものが、突然奪われてしまったのだ。あまりにも、突然に――。
(……けれど、だからといって、俺にできることなど、ないんだ)
 シエンはぐっと目を閉じる。これは、キレス自身の問題なのだ。
 きっと、時間が必要なのだろう。受け容れるための準備が整うまでの、時間が。
(見守るしか、ないだろうな……)
 心のうちに生かし、その視線をときに確認すること。――それは、誰でも簡単に出来ることではない。
 散らかったものを丁寧に整理すること、空いてしまった場所を何かで埋めることを、知らねばならない。
 それが大きく、整理されないままであるほど、困難になるだろう。小さな重みも数倍に捉えがちな彼にとっては、尚更だ。
 時間がかかってもいい。ゆっくりと、それが出来るようになればいい。
 ただそれが、酷くゆがんだ形で生じることのないようにと。
 そう願わずには、いられなかった。