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−12月−町にクリスマスの音楽があふれる頃…

俺はある決心をして、震える手でその電話番号を押した。
1回だけのコールの後、
「はい、浪川です。」
と、聞きなれた声が俺の耳に届いた。
「あ、俺…」
「徹さん…久しぶり、今日は何の用?」
まるで詐欺師のような俺の言い草に、電話の相手−俺の妻の玲子は戸惑った様子でそう返した。
「あのな…聞きたいことって言うかお願いがあるんだが…」
そう言った俺の手は緊張でじっとりと汗ばんでいた。

2年前、俺たち夫婦の仲は冷え切っていた。まだ3歳の佑太が不安そうに見つめる中、どんな些細なことでもケンカせずにはおられなかった。
そんな矢先の遠地への転勤辞令…玲子は佑太や自分の両親の事を理由に一緒に行くとは言わなかった。

「それにね、お互いにもう少し距離を置いた方がいいと思うの。」
そう言う玲子に
「そうだな、それが良いかもしれない。一緒にいなければ、ケンカにもならない。」
俺も、肯いてそう返して…俺は一人任地に赴いた。
だが、一緒にいて埋まらなかった溝は、200km離れて尚更埋まる訳もなく、そろそろけじめをつけて別々に歩き出す方が良いのではないかと思い始めていた。

そんなある日、佑太が一人で電話をしてきた。
「ねぇ、パパ…パパはいつ帰ってくるの。」
「ああ、近々一度帰るよ。」
「ホントに!嬉しいな、お祈りが聞かれたぁ。」
俺が帰ると言うと、佑太は手を叩いて喜んだ。一度帰る−それは、玲子と別れるためだと言うのに…俺の胸がちりちり痛んだ。
「ボクね、このごろ毎日お祈りしてるんだよ、パパとママとずーっと一緒にいられますようにって。ママもお祈りしてるよ。ママが何を祈ってるのかは分かんないけど、お祈りするようになってから、ママ泣かなくなったよ。」
そして、佑太は玲子と佑太が最近、通っている幼稚園のある教会に通い始めたと俺に告げた。それにしても、あの気の強い玲子が泣いている?それも佑太の前で…
「ママ、泣いてたのか?」
「うん…でもママには内緒だよ。」
「ああ、聞かないよ。男の約束だ。」
電話の向こうで、佑太が安堵している様子が判った。
作品名:ベストパートナー 作家名:神山 備