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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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 美紗は第1部長室のほうを見やった。わずかに空いたドアから見える部屋の中は、やはり暗かった。日垣も、関係各所への挨拶回りを終えて、すでに帰宅したのだろう。もしかしたら、夜には九州行きの飛行機に乗るのかもしれない。

 彼が東京を離れてしまう
 遠い街へ、行ってしまう

 窒息しそうな違和感を覚えながら、美紗はゆっくりと椅子から立ち上がった。彼が不在となる一週間弱の期間が、信じられないほど長い時間のように感じる。誰かを恨んではいけないと思いながらたった一人で過ごす、その時が、苦しい。
 いないと分かっていて、日垣の個室を覗いた。薄暗い部屋のなかで、彼の執務机がますます重厚さを増して鎮座していた。大きな窓の外には、紫から紺色へと変わりゆく空が広がっていた。星はなく、満月だけが冷たい光を放っている。
 彼の温もりを感じられるような気がして、ふらりと中に入った。窓際まで寄り眼下を眺めると、街明かりがぽつぽつと点き始めていた。都心にある「いつもの店」の窓から見える景色に比べると、市ヶ谷の街は全体的に低く、華やかさに欠ける。
 夜遅くまでこの部屋にいる時の彼は、仕事をしながら、時折は外に目をやることもあるのだろうか。地味な夜の街を目にしながら、通い慣れたバーの窓に映る煌びやかな街並みを思うことはあるのだろうか。「いつもの席」に共に座る相手の姿を、ほんの一時でも想うことはあるのか……。

「そこで何をしている」
 威圧的な低い声に、美紗は弾かれたように振り返った。部屋の戸口に、長身の人影が立っていた。