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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅹ

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 第5部で地域情勢の分析業務を担う専門官やその卵である若手職員の中には、学生時代の留学や在外公館勤務などで、己が担当する国や地域で実際に生活した経験を持つ者も多かった。酒の席で、国際色豊かな思い出話が惜しみなく披露される。美紗にとってはそのひとつひとつが純粋に面白かった。語るべき経験を何も持たない自分が、仕事仲間として受け入れられていることに、居心地の良さも感じていた。

 第5部では、部長を始め職員の多くが宴会好きだったのか、結局、納会は夕方まで続いた。後片付けまで付き合った美紗が第1部のフロアに戻ると、すでに日が暮れかかっていた。第1部所属の職員は皆帰ってしまったらしく、灯りは全て消されていた。美紗は、薄暗い部屋の中に入り、自分の席に座り込んだ。ついさっきまでの高揚にも似た感覚が、無音の空間にすうっと吸収されていった。
 年内に日垣と顔を合わせるのはこの日が最後だったが、当の彼とはほとんど話せなかった。もっとも、そんな時間があったとして、人目のあるところで彼の真意を聞くわけにもいかない。

 なぜ、二十四日にあの店に来ていたの?
 その日、あなたは、誰を、想っていたの?

 淡い期待が、泡のようにふわりと浮いて、消える。