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⑩残念王子と闇のマル

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革命


二人が再び想いを確かめ合ってから、およそ2か月後。

「うわぁ♡」

カレンが仔馬を見て、とろけそうな笑顔を見せる。

「抱いてみますか?」

「…ん!」

理巧の言葉に、即座にカレンの顔が輝いた。

「どうぞ。」

馬医の忍がカレンの腕に仔馬を預けると、カレンが感激した様子でぎゅっと抱きしめる。

けれど、突然強く抱きしめられて驚いたのか、仔馬が声をあげながらジタバタと暴れた。

「あっ…ごめん!」

カレンは慌てて腕の力を緩め、謝りながら仔馬を撫でる。

そんなカレンと仔馬を、大きな仕事を終えたばかりのリンちゃんがやわらかな表情で見つめた。

「星、良かったね。」

麻流が声をかけると、得意気な様子で星が尻尾を大きくふる。

「男の子かぁ♡」

リンちゃんによく似た真っ白な長毛の仔馬を撫でながら、カレンが目尻を下げた。

「一緒に帰れる?」

麻流が訊ねると、理巧が馬医に視線を流す。

「来月、いけそう?」

馬医は理巧の足元に跪くと、頭を下げた。

「は。おとぎの国までであれば問題ありません。」

馬医の言葉に、カレンが仔馬をもう一度抱きしめる。

「やった♡」

「良かったですね、カレン。」

麻流はその隣に腰かけると、微笑みながら仔馬を撫でた。

そのやわらかな雰囲気に、馬医の忍が戸惑う。

「もう、忍のかけらもないよね。」

理巧が馬医に小さな声で囁くと、馬医が頷いた。

「王女様に、見えます。」

その反応に、理巧は一瞬目を見開いた後、小さな笑い声をあげる。

「まぎれもなく『王女様』なんだけどね。…ちなみに、私も、これでも一応『王子』。」

悪戯な口調で言ったけれど、馬医が慌てて頭を下げた。

「…っは!失礼致しました!」

冗談のつもりが思いがけず恐縮されてしまい、理巧は小さなため息を吐く。

「頭領。」

その時、厩舎に忍が入ってきて理巧の足元に跪いた。

「明日の警護の件で、空様と女王様がお呼びです。」

理巧は頷くと、馬医に声をかける。

「交代で目を離さず、管理な。」

その口調も声も空にそっくりで、カレンは思わず吹き出しそうになり慌てて口もとをおさえた。

理巧はそんなカレンをチラリと見た後、きれいに頭を下げる。

「参りましょう。」

カレンは一生懸命真剣な顔を取り繕うと、頷いた。

そして仔馬の額に口づけ、もう一度優しく抱きしめて、名残惜しそうに馬医に手渡す。

「星、リンちゃん、おめでとう。」

麻流がそれぞれを撫でながら、改めて声をかけた。

カレンも、2頭の鼻をぎゅっと抱きしめる。

「新しい命をありがとう。」

2頭は大きく尻尾をふると、得意気に嘶いた。

カレンと麻流は微笑み合うと、揃って馬医に頭を下げる。

「無事に取り上げてくれて、ありがとう。」

「僕の帰国まで、よろしくお願いします。」

馬医は慌てて跪き、深々と頭を下げた。

「かしこまりました。」

理巧は厩舎の扉のほうへ歩いて行くと、突然ピタリと足を止め、その切れ長の黒水晶を三日月にする。

「理巧?」

麻流に顔を覗き込まれた理巧は、麻流へやわらかな笑顔を向けた。

珍しいその表情に麻流が戸惑うと、カレンも首を傾げる。

そんな二人に微笑みかけながら理巧が扉を開けると、そこにはなんと、使役動物達がズラリと並んでいた。

「!」

整列した狼や猿、猛禽類が、3人をじっと見上げる。

「見せてあげな。」

理巧が声をかけると、馬医が仔馬を抱いて出てきた。

とたんに動物達が色めき立ち、そわそわし始める。

使役動物たちは、お祝いにかけつけたのだ。

理巧はそんな動物達を見渡すと、その視線を猿に留める。

「まず猿。」

理巧に呼ばれた猿達はサッと立ちあがり、抱かれている仔馬に近づくと蹄をそっと握った。

驚いた仔馬がジタバタすると、猿は速やかに離れ、厩舎に入る。

「烏。」

次に理巧に呼ばれた烏たちは、仔馬を抱く馬医の腕に止まり、仔馬のたてがみを軽く食んだ。

毛繕いするように優しく食まれ、仔馬は気持ち良さそうにに目を細める。

満足した烏たちも、猿が開けて待つ厩舎の扉を翔んでくぐった。

次に呼ばれた鷹たちや鷲たちも、同じように仔馬に挨拶し、厩舎へ入って行く。

「狼。」

ついに呼ばれた狼たちは嬉しそうに尻尾をふりながら駆け寄ると、皆で仔馬の匂いを嗅ぎ、その体を舐めた。

仔馬は小さく嘶き、尻尾を大きくふる。

そんな仔馬に満足したのか、狼たちも厩舎にお祝いに入っていった。

最後に残った梟の風を、理巧が見つめる。

風はそんな理巧をジッと見つめ返すと、首をぐるりと一周させ、その大きな金色の瞳を三日月にした。

「風。」

理巧は、小さくくすりと笑いながら呼んでやる。

すると、風は音もなく翔んで理巧の肩に乗った。

そんな風を仔馬もジッと見つめる。

「ホーッ…」

風は小さく鳴くと、そのまま厩舎の扉を滑るようにくぐっていった。

少し経つと、一斉に厩舎から出てくる。

理巧の足元に改めて整列した使役動物達を、理巧は見つめ静かに口を開いた。

「星と仔馬への祝い、感謝する。」

軍隊のように統率のとれている動物たちにカレンが驚いていると、更に理巧からとんでもない言葉が出る。

「星はあと一ヶ月しか、皆と共に過ごせない。」

「え!?」

思わず声をあげたカレンをチラリと見ただけで、理巧は淡々と続けた。

「しかし厩舎への祝いは、今回限り。母馬の邪魔になるから控えろ。星が外へ出てきた時だけ、関わりな。」

理巧の指示にそれぞれ返事をすると、一斉に去っていく。

「どういうこと?」

動物達がいなくなったのを確認して、麻流が訊ねる。

「星はおとぎの国へ供をさせ、そのまま留まります。」

城へ向かって歩き出しながら、理巧が淡々と答えた。

「…もう、私の馬じゃないよ?」

怪訝な顔で麻流が更に訊ねると、理巧は斜めに麻流を見下ろす。

「詳しくは、のちほど。」

「…。」

麻流とカレンは顔を見合せ、首を傾げた。

そして、この後、予想外の展開に二人は更に驚くことになる。

「はぁ!?」

軍議専用の広間に集まった宰相や大臣たちと共に、麻流とカレンも素っ頓狂な声をあげた。

「いい案だと思わね?」

空が頬杖をつきながら、ニヤリと笑う。

空は手術が成功したけれど、不全麻痺は残ってしまった。

日常生活に不自由はないものの、忍としての任務や王配としての外遊など、高度な技術や優雅な立ち居振舞いなどが必要な職務は、もうできない。

「いや…それは…我々に何のメリットが…」

宰相が汗を拭きながら、視線をさ迷わせた。

「星一族をおとぎの国に分け与えるなど…反逆された時はいかがなさるおつもりですか。」

国防大臣も険しい顔で、カレンを睨む。

「おとぎの国に駐在する星一族の頭領も、代々花の都の王族から出せば問題ない。」

銀河が答えると、近衛隊長が手を挙げた。

「『駐在』ですか?それは、おとぎの国にとってどういうことなんですか?星一族の身分は?」

鋭い質問に、空が理巧を見る。

理巧は小さく頷くと、威圧的な視線で近衛隊長を見た。
作品名:⑩残念王子と闇のマル 作家名:しずか