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⑨残念王子と闇のマル

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家族



『カアッ!カアッ!』

けたたましく鳴きながら、烏はペタペタと歩き回る。

麻流と理巧は視線を交わすと、ヒトの頭くらいの大きさの石に近づいた。

「待て。」

楓月が二人の前に割り込む。

「この石を、どかすんだな?」

麻流と理巧は黙って楓月を見つめ、何も言わない。

楓月はそんな二人に背を向けると、その大きな石を手で持ち上げてみる。

すると、そこに小さな穴ができた。

石の下は雪崩の雪が氷の板のようになっていて、ちょうど石を外した部分にぽっかりと穴が開いたのだ。

その穴が見えた途端、烏がその中にするりと入り込む。

それと同時に、頭上を旋回していた猛禽たちも一斉に舞い降りてきて、その穴をのぞきこんだ。

麻流と理巧も駆け寄ってきたけれど、カレンが二人を止める。

「ここは、カヅキ様と僕に任せて。マルとリクは、噴火や雪崩に警戒してほしい。」

的確な指示に、麻流と理巧は素直に頷いた。

「ナイス、カレン。」

小声で囁くと、楓月が鞄から軍手を取り出す。

「カレンも。」

言いながら軍手を手渡すと、楓月はスコップで少しずつ雪を削り取っていった。

「わ、こっち折れそうです!」

ヒビが入ったところをカレンが咄嗟に掴むと、楓月がニヤリと笑う。

「気が利くなぁ、カレン。」

丁寧に、少しずつ雪の塊を取り除いていきながら、楓月がカレンの耳元で囁いた。

「麻流の記憶が戻んなかったら、どうすんの?」

カレンが楓月を横目で見ると、楓月は手を動かしながら小声で言う。

「理巧の話じゃ、記憶が戻ったりまた消えたりって…。」

そこまで言うと、楓月は労るように優しくカレンを見つめた。

「愛してる女に忘れられてるって…辛いだろ…。」

そんな楓月の優しさに、カレンの胸はじんわりと温かくなる。

「たしかに辛くないと言えば嘘になりますけど…」

そこでいったん言葉を切ると、小さく深呼吸し、明るい笑顔を浮かべた。

「でも今現在、確実に僕の魅力でもう一度、惚れさせてますから♡」

思いがけないおどけた言葉に、楓月がきょとんとした顔でカレンを見つめる。

「…。」

カレンも、笑顔のまま楓月を見つめ返した。

けれど楓月は真顔でカレンを見つめたまま、何も言わない。

それでもカレンは頑張って笑顔を保っていたけれど、だんだんその笑顔がひきつり、頬が赤くなっていく。

「…すみません…冗談です…。」

ついに俯いて落ち込んだ様子のカレンに、楓月が声をあげて笑おうとした、まさにその時。

「はは…」

聞き慣れた笑い声が足元から聞こえ、二人は驚いて顔を見合わせた。

聞き間違いかと思い、穴を広げる作業を続けようとすると。

「さすがだな…カレン。」

再び、艶やかな低い声が足元から聞こえた。

「ち…父上?」

楓月がふるえる声で呟くと、麻流と理巧が穴に手を掛ける。

「ボケッとしてる場合か、おっさん!」

「やっぱり足手まとい。」

楓月に容赦ない辛辣な言葉をかけながら、二人は見事な連携で一気に雪の塊を取り除いた。

その途端、穴のまわりをうろうろしていた猛禽たちが一斉に穴に飛び込む。

カレンたちも4人で穴を覗き込むと、そこには猛禽たちに囲まれた空がいた。

「よ…。」

いつもの飄々とした様子で微笑んでいるけれど、その顔色は蒼白で体は小刻みに震えているのに手足はだらりとして動かない。

理巧は背中の鞄から寝袋を取り出すと、それを地面に広げた。

穴の中は狭くて深く、空がすっぽりとおさまっているので、中に入って空を抱えることができない。

理巧が考えていると、麻流が腰ベルトに縄を括りつけた。

「私なら入れる。父上を抱えるから上げて。」

言いながら、縄の先端を理巧に渡す。

「気をつけて、麻流!」

カレンが心配そうに声を掛けると、麻流は冷ややかな笑顔を向けた。

「このくらいで怪我してたら、忍失格です。」

その言葉に、再び空のからかうような声が聞こえる。

「はは…じゃ…俺は失格だな…。」

「もうお年なんですよ。」

「俺を…ジジイ扱いなんて…いい根性してんな…おまえ。」

冗談を交わし合いながら、麻流は穴の壁に両手両足をついて少しずつ底へ降りていった。

「父上!」

麻流が嬉しそうな声をあげ、空の首に抱きついたのが見える。

その光景に、カレンの目頭が熱くなった。

けれど、そこはさすがに元・次期頭領。

「父上、失礼します。」

すぐに気持ちを切り替え、麻流は空に襷をかける。

そして自分の体としっかり結びつけた。

「上げろ。」

麻流の合図で、理巧が縄を引く。

「手伝うよ。」

カレンがすぐに手伝いに入ると、楓月も縄を掴んだ。

そして、ようやく穴から空を救出する。

「父上、よくご無事で!」

楓月が涙声で跪くと、空は虚ろな微笑みを浮かべた。

「おまえ…よく登れたな…。」

理巧は空を寝袋に寝かせ湯タンポを入れながら、麻流に囁く。

「紗那姉上を、連れてきて頂けませんか。」

麻流は頷くと、カレンを見た。

「理巧と父上を頼みます。」

意外な言葉にカレンが驚いていると、麻流は風の足に手紙を2つ括りつける。

「これを麓の上忍、これは紗那に。」

風は返事をするかのように一鳴きすると、ふわりと空の傍へ舞い降り、その頬に顔を寄せた。

「風…。」

浅い呼吸をしながら掠れた声で空が名を呼ぶと、風は大きな金の瞳を三日月にし、小さな声で鳴きながら飛び去る。

あっという間にその姿が見えなくなり、麻流は空へ向き直った。

「父上。足手まといの兄上を、城へ戻して参ります。」

「あ!?なんだ、それ!?」

久しぶりに見る兄妹のやりとりに、空が喉の奥で笑う。

「…聖華…帰…」

掠れた小さな声で呟きながら、空はゆっくりと目を閉じた。

麻流はそんな空を一瞬見て不安そうな顔をしたけれど、その思いをふりはらうように踵を返す。

「…マル。」

すぐに行ってしまいそうな麻流の腕を、カレンは思わず掴んだ。

「…。」

麻流は、カレンを無言でじっと見上げる。

「気をつけて。」

カレンは再び麻流と離れることに不安と寂しさを感じながら、それを見せないよう精一杯、微笑んだ。

すると、麻流が背伸びをしながらカレンの首に腕を回す。

「!」

ちゅっ、と小さな音を立てて、カレンの唇から麻流が離れた。

驚きすぎて呆然とするカレンに、麻流がやわらかく頬笑む。

「すぐに戻ります。カレンこそ、気をつけて。」

以前の麻流でも、体を重ねる時以外で、自ら口づけをしてくることなどなかった。

カレンの心臓は一気に鼓動を早め、全身が熱くなる。

身体中が心臓になってしまったかのように早鐘を打ち、思考が停止した。

「いきますよ、兄上。」

そんなカレンにくるりと背を向けると、楓月の腕を引っ張って麻流は下山し始める。

「うわっ!」

硬い岩盤に砂利や噴石が散らばっているので、傾斜のきつい下山は足をとられやすい。

「もー、しっかりしてくださいよ!おじいちゃん!!」

「だから年寄り扱いすんな!カレンと扱いが違いすぎんだろ!!」

「大事にする価値がないヤツを大事になんか」
作品名:⑨残念王子と闇のマル 作家名:しずか