小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

⑧残念王子と闇のマル

INDEX|9ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

返事をしながら唇を重ねようとしたカレンの唇を、麻流はぺろりと舐める。

カレンは思いがけない麻流の行動に、目を丸くした。

そんなカレンを見つめると、麻流は首を傾けてカレンを甘く誘う。

「カレン…。」

カレンの鼓動が一気に高まると同時に、体の芯が熱くなり想いが一気に膨らんだ。

「マル!」

二人はお互いの後頭部を引き寄せると、荒々しく口づけを交わす。

決して離れまいとするように、二人はきつく抱きしめ合いながら、深く口づけ合った。

たまに吹く寒風の音と、源泉が沸き上がる音以外なんの音も聞こえない静かな露天風呂に、二人が抱きしめ合う水音と、吐息混じりの甘い声、深い口づけを交わす音が響く。

カレンは麻流の素肌に手を滑らせ、愛撫し始めた。

麻流も甘い声を上げてそれに応え、カレンは麻流に覆い被さりながらその大腿の奥へ手を滑らせる。

愛撫に堪らず麻流は嬌声を上げたけれど、次の瞬間、カレンの腕の中からその姿を消した。

「何するんですか、王子!」

驚いたカレンは、麻流の姿を探す。

「お…王子?」

混乱する中、脱衣場のほうから物音が聞こえた。

慌ててカレンも湯船から上がり脱衣場へ向かうと、黒い小柄な影が扉を閉めて走り去ったのが見える。

「…マル…。」

カレンは、その場に呆然と立ち尽くした。

そんなカレンの前に、理巧が現れる。

けれど、カレンは困惑し激しく動揺していて、理巧の存在にも反応しない。

「お風邪を召されますので、とりあえず衣服を。」

理巧が声をかけるものの、呆然と扉を見つめたままだ。

理巧は哀しそうに目を伏せたけれど、その気持ちを押し込め、いつもの冷ややかな表情でカレンの体を丁寧に拭き服を着せる。

「…。」

そして、必死で麻流を探すカレンの背中を押して、理巧は部屋へ連れ帰った。

「湯冷めしますので、こちらを召し上がってください。」

理巧が用意したホットミルクに、カレンがようやく反応する。

「マルが」

言いながら、熱いカップを両手で包み込む。

「マルがいつも作ってくれてたよ、これ。」

カレンはそっとカップに口をつけて、一口ごくりと飲み込んだ。

「甘い…。」

表情を和らげてごくごくと飲み干すカレンに、理巧は胸を撫で下ろす。

全て飲み干したカレンは、テーブルに置いたカップを見つめながら理巧へ訊ねた。

「マルは…大丈夫なの?」

『廃人』

暗にカレンが心配していることに理巧は気づくけれど、正直なんとも答えようがない。

理巧にも、わからないのだ。

「…。」

黙り込む理巧を、カレンがようやく見た。

「だよね。ごめん、変なこと訊いて。」

「今ぐだぐだ悩んだって、始まらねぇよ。」

突然部屋に艶やかな声が響くと同時に、空が音もなく降り立つ。

「国に帰ったら調べてみるからさ。紗那もいるし。」

言いながら、理巧の肩を抱いた。

「考えてもわかんねーことは、考えるだけ無駄。」

そして、カレンの髪の毛をかき混ぜる。

「明日から千針山越えがあるんだから、とりあえず今日はゆっくり休みな。」

銀のマスクを外している素顔の空に微笑まれると、カレンの心に不思議と安堵感が広がった。

「おやすみ、カレン。」

空に挨拶をされた途端、急に眠気を感じる。

欠伸を噛み殺しながら、カレンは空へ挨拶を返した。

「はい。おやすみなさい、ソラ様。」

目を擦るカレンの前で、扉が静かに閉まる。

カレンはそのままベッドへ倒れ込むと、瞼を閉じた。



カレンの部屋を出た二人は、廊下を歩く。

「なんか飲ませた?」

空の問いに、理巧が頷いた。

「ホットミルクを。」

その答えに、空がおかしそうに笑う。

「王道じゃん。珍しく術にかかったなーと思ったら。」

理巧は、笑う空から無表情で目を逸らした。

「父上が…いらっしゃると思いませんでしたから。」

そんな理巧の肩を、空が抱く。

「…おまえが背負う必要ないんだよ。」

空の言葉に、理巧が俯いた。

「俺の過ちだ。」

理巧が唇をぎゅっと噛みしめる。

「至恩に、きっついこと言われちまったよ。」

空は理巧の肩を撫でながら、自嘲的に笑った。

「『諦める前に、姉上のために何かできたんじゃないですか』って。」

理巧は、空を見る。

「『忍に憧れてたけど、忍だから不幸になった姉上を見て忍になりたくなくなりました』ってさ…。」

空の黒水晶の瞳を、理巧はジッと見つめた。

「たしかに、完全に、俺の判断ミスだよな。」

瞳の奥にひどく傷ついた様子が見え、理巧は戸惑う。

「ちょっと考えたら、わかることだった。
俺だって、聖華と引き離されたら…正気を保てねーよ。」

そこまで言うと、空は頭をガシガシ掻いて、深いため息を吐く。

「それをさー、勘違いしてたんだよな、俺。…親の愛情で補えるって…。」

(自分が、親からの愛情に飢えてたから…。)

心の中で呟きながら、空はふっと微笑んだ。

「親の愛と恋愛の愛情は、別物なのにな。」

あまりに悲しげな空の様子に、理巧は声を掛けようと思うけれど、まだ親の経験も恋愛の経験もないので言葉が見つからない。

「10歳の息子に言われて、初めてあがいてみようと思ったし」

言いながら、理巧の後頭部に手を添えて、空は顔を覗きこんだ。

「おまえが既にあがいてるのを見て、自分が情けなくなってさ。」

空は立ち止まると、理巧の両肩に手を置く。

「解けない術をかけちまったのは、俺だ。」

理巧は、空の顔をまっすぐに見つめ返した。

「だから、それに伴って起こることは全て俺の責任。」

空は理巧から離れると、銀のマスクをつける。

「麻流のことは、俺に任せな。」

そして理巧に背中を向け、扉をノックした。

けれど、中から返事がない。

空は斜めに理巧をふり返ると、小声で呟いた。

「カレンにも眠術かけたし、おまえも久しぶりにゆっくりしな。」

暗に『この場を去れ』と指示されたことに気づいた理巧は、頭を下げて立ち去る。

空はその背中を見届けて、ドアノブに手をかけた。

「麻流。入るよ。」

扉には鍵がかかっておらず、簡単に開く。

「…。」

室内は灯りもついておらず、真っ暗だった。

けれど、よく見ると、窓辺に小柄な影が座っている。

空は無言で入ると、灯りをつけた。

突然明るくなって目がくらんだのか、麻流が目を細めながらふり返る。

「冷えるな。」

空はベッドから毛布を持ってきて、麻流の体を包み込んだ。

麻流は黙ったまま、空に身を預ける。

空はその体をぎゅっと抱きしめながら、窓の外へ目を向けた。

「雪、降ってきたな。」

低く艶やかな声はとても穏やかで、麻流は甘えるように空の胸に頬を寄せ、小さく息を吐く。

「明日の千針山…今の私に越えられるでしょうか。」

麻流の言葉に、空は麻流へ視線を移した。

「王子を…守れるでしょうか。」

麻流の不安がどこにあるのか知ろうと、空は無言で麻流を見つめる。

すると、麻流が胸から顔を上げた。

「王子といると…綺麗でいたくなるんです。」

至近距離で見つめ合えない空は、麻流の頭に顎を乗せる。
作品名:⑧残念王子と闇のマル 作家名:しずか