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⑦残念王子と闇のマル(修正あり2/4)

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「…は?」

「あ、やっぱそっちでいく?」

ダナンは空へ笑みを返すと、カレンの後ろに控える理巧を見た。

「あなたが、第2王子のリクか。」

理巧は麻流を抱いたまま、頭を下げる。

「花の都は皆、優秀だな。」

その言葉に、空が喉の奥で笑った。

「それもどーだかな。」

その視線は麻流に注がれる。

「際立ったぶん、でかいものを背負わせすぎて潰しちまったしな。」

ダナンは膝を前に進めると、麻流の頭をそっと撫でた。

「ソラ。」

ダナンは麻流を見つめたまま、空へ声をかける。

「マルが記憶を失っているのなら、本当にカヅキ殿でも良いのでは?」

ダナンの提案に、空の顔から表情が失われた。

「…それは、できねーな。」

今までの軽い調子から一変して、低い声には鋭さがこもる。

「なぜ。」

「カレンと麻流を接触させたくない。」

「そもそもなぜこの子達がこのようなことになっているのか、私にはわからない!」

珍しく、ダナンが声を荒げた。

「…。」

空は、鋭い視線でダナンを斜めに見る。

「…マルがカレンの子を宿していたのに、なぜ別れさせた。」

ダナンの言葉に空は一瞬かすかに目を見開いたけれど、その視線は理巧に向けられた。

理巧は戸惑いながら、首を左右にふる。

「リクは何も漏らしていない。」

ダナンは険しい表情で、空を見た。

「私にも、それなりの情報を得る手段があるのだよ。」

空は威圧的な視線を、天井へ向ける。

その瞬間、ひとりの忍が身を震わせる気配を感じ、情報源を確信した。

「私は、マルが各国で何をしてきたか、どのような忍だったか知っている。…いや、知っているからこそ、自国を守るため雇ったのだ。」

ダナンは、ゆっくりと立ち上がる。

「けれど身近に置いてみれば、あまりにも可愛く素直で、穢れなどひとつもない、愛らしいただの娘だった。」

瞳を悲しそうに揺らす空に、カレンが大きく頷いた。

「だから、私はカレンがマルを選んだ時に、本当に嬉しかった。カレンをひとりの人間として想い、心から大事にしてくれる者がカレンの傍にいてくれるなら、こんなにありがたいことはない。」

言いながら、ダナンはカレンをふり向く。

「遊んでばかりいると思っておったが、審美眼は持っていたのだと、我が息子を初めて褒めてやりたくなったよ。」

瞳を潤ませるカレンをやわらかく見つめると、ダナンは大きく深呼吸した。

そして、空を真っ直ぐに見つめると、威厳に満ちた表情で告げる。

「マルがカレンの傍にいてくれるなら、カレンに譲位するつもりだ。」

「!」

「…え?」

「…は?」

それまで静観していた理巧が驚いてダナンを見、カレンと空も思わず素頓狂な声をあげた。

空はしばらく呆然としていたけれど、額に手を当てて頭を抱え込む。

「…だからさぁ。」

その空の言葉を、カレンが遮った。

「いや、それもひとつの手かもしれません。」

理巧の腕から麻流を抱き取り、カレンが立ち上がる。

「正式に、婚約を発表しましょう。」

「だから、それで関係諸国が!」

珍しく声を荒らげる空に、カレンが不敵に微笑んだ。

「僕が、脅し返します。」

その言葉に、理巧がハッとした顔でカレンを見上げる。

「もう既に色々聞いたことにする、ってことですか?」

カレンは頷くと、妖艶に微笑んだ。

「なんたって、僕は『あの』カレンですから。」

目にかかる輝く金髪をかきあげながら頬笑む姿からは色香が立ち上ぼり、ダナンでさえ息をのむ。

そんなカレンに、空が苦笑混じりに頷いた。

「なるほど。」

「たしかにそうなると、両国の王位継承者をお互いの国に人質に出さずに済みます。」

「…理巧、気づいてた?」

「ええ。ダナン様の『麻流じゃなくて楓月でも』で。カレン様が人質で花の都へ来るなら姉上との接触を避けるために、兄上のふりをさせた姉上をおとぎの国に人質で送ろうとしていたんでしょう。」

「…ご名答。」

「そうなんだ!?全然気づかなかった!やっぱリクは賢いね~!」

「…おまえ、賢いんだか何なんだか…。」

「…。」

既に家族のように溶け込んでいるカレンの様子をダナンは微笑ましく見守っていたけれど、腕の中の麻流に視線を移すと切なげに眉を下げる。

「けれど、マルは記憶を失くしている。婚約に納得するのか?」

「まぁ…」

すぐに、空と理巧が同時に口を開いた。

そしてお互いに顔を見合せると、苦笑する。

「大丈夫だよな?」

「ええ、間違いなく。」

頷き合う二人の前で、カレンが麻流に口づけをした。

その瞬間、麻流の瞼が開く。

「…。」

空は、その様子を腕組みして見つめた。

「!」

麻流はカレンに抱かれていることに驚いて飛び退こうとするけれど、一瞬早くカレンが強く抱きしめる。

「マル。一緒におとぎの国に帰ろう♡」

「…は?」

カレンの腕の中で、麻流が上ずった声をあげた。

「こういう情勢になったなら、これ以上の視察旅行は危ないですよね?」

戸惑う麻流を抱きしめたまま、カレンはダナンと空を見る。

「ん。」

「そうだな。」

二人が頷くと、カレンは麻流を床に降ろした。

「ソラ様。僕が情報を握っていると匂わせる役目、リクに依頼してもいいでしょうか。そしてその間の護衛は、マルでお願いしたい。」

頬をりんご色に染めて立つ麻流と笑顔のカレンを、空は見比べる。

「…麻流はもう王女だ。俺が任務を与えることはできない。」

「では、このまま花の都へ向かい、女王様のお許しを頂きます。そしてリンが子馬を産み、落ち着いたら共に帰国致します。」

カレンは麻流の両手を、その大きな手で包み込んだ。

「マル。きみにもう一度、おとぎの国を見に来てほしい。春のおとぎの国は、本当に美しいんだ!」

キラキラした笑顔で顔を覗き込まれた麻流は、その顔を直視できないのか視線をさ迷わせる。

そして助けを求めるように、空を見た。

空はジッと何かを考えていたけれど、しばらくしてダナンを見る。

「全然『残念王子』じゃねーな。」

そういう声色は優しく、緊張していた空気が一気にゆるんだ。

「…成長したな、カレン。」

ダナンのエメラルドグリーンの瞳は潤み、瞼は濡れる。

「では…」

カレンが言うと、空はその瞳を三日月にして頷いた。

「ん。」

やわらかな表情に、皆も笑顔になる。

けれど空はその表情を瞬時になくし、頭領の顔に戻った。

「理巧。」

「は。」

理巧も、『息子』から『忍』に戻る。

跪く理巧に、空は冷ややかに告げた。

「2日で戻りな。」

「は。」

空はダナンに片手を上げ、軽い挨拶をする。

「じゃ、また結婚の儀でな。」

「!…ああ。」

頬を綻ばせるダナンからカレンへ視線を移すと、ゆっくりと近づき、金髪をくしゃりと撫でた。

「俺の術、解けるのおまえだけだよ。」

「え?」

驚いた時には、もう空の姿はない。

カレンが理巧を見ると、ゆっくりと大きく頷いた。

「私にも、解けません。」

「…。」

カレンが驚く前で、理巧はダナンの前に跪く。