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第一回・怖いもの選手権顛末記

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 緞帳が上がり、ステージがほの暗い証明に浮かび上がると、そこには小川が流れている。
 ……と、そこに一枚の戸板が流れて来る。
「うん? 何だ?」
 通りがかった男が木の枝を拾って戸板をつつくと……。
 ザザー。
 水音と共に戸板がゆっくりと直立し、バン! と言う大きな音と共に裏返る。

「恨めしや……お前は……伊右衛門」
「ギャー!」
 男が腰を抜かすと共に暗転。

 得点はとまどったようにポツリポツリと上がって行き、980点で止まった。


「うむ、ただいまのパフォーマンスは、ご存知、四谷怪談の『お岩』殿のものであった。 短い上にもう一工夫欲しかったかも知れぬな、このコンテストを見に来る人間なら四谷怪談も戸板返しも先刻承知であろうからな……次回の健闘に期待することとしよう……次のパフォーマンスをご覧頂こう」

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 緞帳が上がると、ステージはかなり明るく照らされているが、舞台装置のようなものは皆無、何が起こるのかと観客が固唾を呑んで見守る中、袖からヒョッコリと現われたのは一つ目、長い舌、一本足に下駄履きの唐傘お化け、異形ではあるがユーモラスな姿だ。
 そして、コツーン、コツーンと舞台を横切り始めると、一間ほど間を開けて二体目の唐傘お化け、そしてまた一間の間をおいて三体目が……。
 次からも出て来るわ出て来るわ、結局二十体ほどの唐傘お化けが前後左右に身体を振りながら楽しげにステージを横切って行った。


「これで終いか?……そうか……諸君、『唐傘お化け』のパフォーマンスは以上だそうだ、」
 デーモン夕暮の声を聴いて、ようやく得点が上がり始めるが、305点で止まってしまった。
「いや、悪いパフォーマンスではない、楽しげで、悪魔も思わず微笑んでしまったぞ、しかし……怖いかと言われると、そうは言えないものであったな、得点もその辺りを反映したものであろう、いや、多勢でご苦労さんであった……次はかなりシリアスなパフォーマンスになるそうなので期待して欲しい」

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 緞帳が上がると、小さな焚き火の灯りに老婆が浮かび上がる。
「この岩屋に流れ着いて何年になるのだろうか……姫様の病を治すという胎の子の生き胆はいまだ取れぬまま、姫様は達者でおられるだろうか……ああ、しかし、今となってはそれよりも一人残して来た娘のことが気がかりじゃ、もう良い娘に成長しておるであろう、ひと目会いたいのう……おや? 誰かが岩屋に入って来たようだ……どなたかな?」
「旅の者でございます、身重の妻の具合が優れません、夜露に晒しては妻の身体にも胎の赤子にも毒となりましょう、どうか今宵一晩の宿をお貸し願いとう存じます」
「何?……身重とな……ああ、良いとも良いとも、こんな岩屋で着て寝るものも碌にありゃせんが、火だけは絶やさぬようにいたしますで、さして滋養のある物も振舞えぬが、腹を満たして身体を温める位の食べ物も差し上げられましょう」
「ああ、助かります、どうかお願いいたします」
「さあさあ、火に当たりなされ……」

 暗転……更に小さな焚き火の灯りに老婆の顔だけが浮かび上がる。
 暗くて手元は良く見えないが、シャッ、シャッと刃物を研ぐ音。

「どれだけこの日を待ち望んだことか……これで京に帰れる、娘の恋衣にも会える……」
「お婆さん……」
 焚き火の灯りの外から女の声、老婆が薪をくべると灯りが大きくなり、女の姿もぼうっと浮かび上がる。
「おお、目を醒ましなさったか」
「主人は……」
「薬を求めて里に下りなすったが、直に戻られようぞ」
「左様でございましたか……」
「具合はどうじゃ?」
「腹が痛んで動けませぬ」
「それはいかんのぅ……今すぐに楽にしてやろうぞ」
 青白く光る包丁、女の悲鳴。
「ど、どうして……」
「お前には済まぬが、儂には胎の赤子の生き胆が要るのじゃ……」
「ああ……私はここで死ぬのですね……幼い頃に生き別れた母をたずねて旅を続けてまいりましたが、それもここまで……もし、『いわて』と言う名の婆と出会うことがありましたら、恋衣は母をたずねる旅の途中で死んだと……」
「何? 恋衣? お前は……恋衣?」
「婆様?……」
「いわては儂じゃ、長い放浪で人相も変わってしまったじゃろうが……」
「母様でございましたか……私はとうとう母に会うことが出来たのでございますね?」
「ああ……恋衣、いかん、はらわたが……」
「私はもういけません、ひと目お会いできて本望でございます……」
「恋衣、死ぬな! 恋衣! 恋衣――――! おお、何ということじゃ、恋衣に会いたい一心でその恋衣を、実の娘を我が手にかけてしまうとは! あの赤子は儂の孫……儂は娘と孫をこの手で……」
 転げるように岩屋から走り出るいわて、傍らの池で血まみれの手を洗う。
「落ちぬ……血が落ちぬ……儂は畜生道に堕ちてしまった、それもせんないこと、わが子と孫を手に掛けたのだから……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 一瞬のフラッシュに浮かび上がったのは、血走った目、耳まで裂けた口、そして頭に生えた二本の角……すっかり鬼と化してしまったいわての姿。
 暗転……。

 固唾を呑んで見守っていた観客が一斉にボタンを押し、得点は2,335点。


「いや、恐ろしくも悲しい、『安達ケ原の鬼婆』のパフォーマンスであった……悪魔とて親子の情はある、長い放浪に疲れ果てた後、それと知らずにわが子と孫までを手に掛けてしまったいわて殿の心情を推し量ると我輩の胸も潰れそうであるぞ……高得点も当然のことであろう……。
 我輩のロックよりもヘビィな話であったな、諸君も疲れたであろう、ここまで六組のパフォーマンスが終了した、残るは七組、ここらで一息、二十分間の休憩としようではないか」