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もやもや病 9

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84 中年の夫婦

あるとき保健所の講演会に中年のご夫婦が参加していた
奥様が質問をされた
この病気のことをよく調べないで手術をしたけれど、その後具合が良くないようで
たぶん高次脳機能障害だと思う
主治医との話に納得がいっていないようだった

講演会の終わりに、患者会の存在を知らない方もあるかも知れないからと会のことをお話しした
何人かの方に声を掛けていただいて、資料をおわけした
最後にその奥様とお話しした

自分の判断が違って、主人が今のようになってしまったのではないかと思うとこの人に申し訳なくて、と泣いておられた
この奥様が、こうして涙を見せる場が他にあるだろうかと思う

もしかしたら、ずっと一人で思いながら、誰にも涙を見せることはなかったのではないかと
太って、笑顔のその方が、とても辛そうに見えた
太ってにこやかにしている人が、みんな幸せではない

質問をしても、帰りに泣いても、その奥様を思いやったり、どうして泣いているのかと奥様を気遣うことが出来ないご主人を、この方はどう思いながら暮らしているのかと…

きっとどこに行くにもこのご主人を連れて行かなくてはならない
にこにこ笑顔は、その前からのその人の人生でしょうが、泣き顔になってもにこにこしているときのような顔に見えた

患者会を知らない人でも、どこかにこの思いを分かってくれる場があるだろうか

年をとった親に心配かけることもできなくて、自分一人で、自分の判断が間違っていたのじゃないかと責めているとしたなら、それは違うって言ったけれど、それだけで良かったのか、あの方が、もう一度連絡をしてきてくれるだろうか

どんな肝っ玉母さんでも、ご主人が、お母さんどうして泣いてるの?って、声を掛けてくれたら、どんなにか救われるだろうに…

この病気は十人十色、そこに集まった、中年以降の患者本人さんが、元気そうにしている中で、そのご夫婦が、心に残ってしまった

患者が子どもの場合、本人の場合、親の場合、兄弟の場合…思いは様々

どんなときも、その時の判断を、自分で責めることもないし、後悔することは、とても悲しく辛いこと
そんな思いをしないようにと言うのが、私の患者会との関わりのもとのようなものだ
後ろなんか向かないで、前を向いていこうね、そう思う

作品名:もやもや病 9 作家名:とことん