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短編集5

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 彼女は地方出身で、現役で入学してきた。本人曰く、それほど受験勉強を必死にすることもなく、苦痛も感じずに入学してきたという。
 どこか自分にない部分を持っている女性であった。
 これが彼女に感じた最初の魅力だったのだ。
 名、合えを水尾恭子という。
 最初は素朴な女の子で、私が話しかけないと自分からは誰とも話しをするようなタイプではなかった。もっとも、そんな女の子だから私も話しかけやすかったのだし、元々素朴なタイプが好みだった私にとって彼女はとても素敵だった。
 化粧をすることもなく、薄いピンクのカジュアル系の服に、チェックのスカートが最初に私の目を引いた。高校生が休みの日に出かけるようなシンプルな服装がよく似合い。私と出かける時も、ほとんど服装の趣味に変わりはなかった。
 気後れしてはいけないと思っていたキャンパス内で、背伸びしがちになっていた私を制してくれているような気がする。
 最初は似合いもしないのにまわりの連中に感化され派手な服装をしようなどと考えていたが、そんなことをしなくても友達は自然に増えていった。自分から声を掛けたのは最初にできた男友達の安田修二と、付き合い始めた水尾恭子だけだった。
「お前は元々リーダーシップ性があるんだろうな。うらやましいよ、お前のように持って生まれた長所があるやつは」
 修二から事あるごとに言われる。
「そんなことないよ。君にだっていいところいっぱいあるじゃないか」
 修二はとにかく真面目である。高校生の考え方そのままで入学してきたやつで、まわりにほとんど影響されることはない。言い換えればそれだけ自分に強い信念を持っているということだろう。
 私は自分の短所は分かっているつもりだった。
 修二や恭子がどれだけ把握しているかは分からない。しかし少なくとも修二には最初からバレていたような気がして仕方がない。
 一口に言えば、
「熱しやすく冷めやすい」タイプの性格で、瞬間湯沸機のようであるが、冷めるのも早いため、意外とサッパリした性格にも見られる。まさしく「長所と短所は紙一重」を実証しているような性格である。
 だが、この性格にはもう一つの欠点があった。いわゆる「飽きっぽい」ところである。
 それが話題というだけに留まればいいのだが、高校時代など、同じ趣味で集まった仲間を裏切ったこともあった。その趣味に没頭している時はいいのだが、その趣味が一旦私の中で冷却してしまうと、人間関係まで冷却してしまう。結局、趣味が共通ということで集まったのであって、人間関係で集まったのではないと無意識に思っているから冷徹な行動に出てしまうのだ。しかもそれを自分で悪いことをしていると思っていないだけに、短所だと思いながら、これからも同じことを繰り返すだろうと思っていた。
 その思いが実現したのは、大学に入ってしばらく経ってからのことであった。
 たくさんできた中の友人に勧められ、テニスサークルを発足した。もちろん、修二や恭子も参加してくれたが、なぜかすぐに見切りをつけた私はまもなく脱退してしまった。しいて言えばテニスサークルの目的が次第にナンパ目的による、合コンや合宿へと最初の主旨から少し外れてきたことへの不満があったのが原因だった。
 見方によっては仕方ないかも知れない。しかし発足当時の幹部であった私があっさりと辞めてしまうことに不満のある人もあっただろう。それを考えると、少し自己嫌悪に陥ってしまった時期があった。
 そんなことがあってか、少し大学生活に疑問を持ち始めていた。
 私が噂話をしている時というのは、我を忘れていた。もちろん、噂話など暇な主婦連中がするだけでなく、暇に任せているものだと思っていたので、自分とはまったく関わりのないものだった。しかし、してみるとこれほど興味のそそられることもない。元々人を観察することなど苦手だと思っていた私だったので、きっかけはちょっとしたことだったのかも知れない。
 だが、やがて訪れた恭子との別れを機に、ほとんど人の噂話をしなくなっていた。どうやら噂話をする時も雰囲気が必要だったようで、その雰囲気を一番持っていたのは恭子だったのだ。
 それからの私は目からうろこが落ちたかのようだった。
 友人の間での信用は厚かったようで、「人には言えない悩み事」を結構打ち明けてくれる人が多かった。それが男女問わずだったこともあってか、自分が随分大人になったのだと思っていたのもこの頃だった。
 大学を卒業し、社会人になってもそれは同じだった。ナルシズムな性格はそのままだったが、なぜか私のまわりにはいつも人がいるのだ。自分から引き寄せているという自覚があるわけでもなく、気がつけばまわりにいるのだ。
 仕事の覚えも早いのは、さすが順応性に長けていると思っていただけのこともあり、そのあたりが上司にも好かれる要因だったかも知れない。順風満帆という文字がまさにその時の私に当てはまった。
 そういえば、同期入社の中に気になるやつがいた。
 名前を渡瀬という。
 私から見ても物覚えの悪い人で、一緒に仕事をしていてイライラすることもあった。しかし、腰がものすごく低く、こちらが責めているわけでもないのに自分から、
「すみません、すみません」
 と言ってはいつも謝っていた。
 さすがにそこまでされると苛つく気分にもなれず、黙ってペースに合わせてあげるしかない。そこまで卑屈にならなくてもと思いながら、心の中で軽蔑に近いものを持っていたに違いない。
 そういえば、その頃からである。またしても鏡が気になり始めた。
 それまでは以前鏡を気にしていたことさえ忘れていたくらいで、しばらくの間、
――こんな感覚どこかで?
 と思っていたが、それが中学生時代に鏡に対して感じたことだと思い出すまで、かなり掛かった。そして気がつけば、
――気のせいなんだろうな――
 と思っていたのだが、中学時代にまったく同じことを考え、気にしなくなったということに結局は気付いていなかった。
「いつまでたっても若いまんまだな」
 とナルシズムに浸っているのが関の山かも知れない。
 確かに若かった。
 学生服を着ていても違和感がないくらいで、たまにであるが、会社で女の人に、
「年齢より若く見られません?」
 と聞かれることもあった。しかし何となくニヤけた表情に見えることから、最初は社交辞令と思っていたくらいで、鏡を気にし始めるまでは、気にも留めなかった。
 それにしても、会社が面白くない。
 大学時代、一生懸命に勉強し、何とか大企業の仲間と言える会社に入ったのだが、理想と現実がこれほどに違うものだとは思ってもいなかった。
 確かにこの就職難の世の中、ちゃんと就職できてしかも一応は大企業、まわりからは羨ましく思われていることだろう。実際、自分も就職が決まった時は手放しで喜んだのも事実で、ここまでの順風満帆な人生がさらに続くことを感じていた。
 不安半分期待半分で飛び込んだ社会人生活、それが崩れたのは他の人と同じで、いわゆる「五月病」に掛かってしまっていたのだ。
――私が望んだ会社とはこんなものだったのだろうか?
作品名:短編集5 作家名:森本晃次