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湯川ヤスヒロ
湯川ヤスヒロ
novelistID. 62114
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振替休日

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 オレは酒が好きだ。
 1日の終わりに冷えたビールが1本あれば幸せ。「あ~、このために生きてるなぁ」って。

 もともとそんなに酒なんて好きじゃなかった。20代半ばまでは、仕事の飲み会でしか酒なんて口にすることはなかったし、注文するモノといえばだいたいカシスオレンジ。ウチの家庭はオヤジもジイちゃんもまったく酒は飲まなかったし。
 酒好きになったのはふとしたキッカケ。仕事がきっかけかなぁ……

 オレは高校卒業してすぐに就職した。全国に約50店舗ほど展開する大手スーパーマーケット。今年でもう勤続15年だ。
 はじめて配属された店舗にはオレを含めて新入社員は5人いたけど、高卒はオレだけ。あの時の同期が早いうちから部門主任や本社勤務になっていく中で、オレだけはずっと店舗での平店員のままだった。これも大卒と高卒の格差ってヤツか………
 まぁ、オレは出世だとかエラくなってやろうなんて欲は無かったから、そんなのどーでもヨカッタんだけどね…………あのころは……

 27歳の時だったか……新しくオープンする店舗へ転勤が決まって、そこでオレは初めて役職に就いた。……といってもそんなエライ肩書じゃない。就いたのはコーナーのチーフ。部門主任より下の役職だ。で、オレがチーフを担当することになったのが、酒・飲料コーナーだった。
 当時は酒なんて飲まなかったオレだが、売り場で商品を担当することになると必ずお客さんに聞かれる。

「オススメのビールはどれ?」
「おいしいチューハイはある?」

 酒売り場の担当者が酒を飲めないなんて、そんなことはお客さんに通用しない。
 オレは最初は試しに、ビール・チューハイを少しずつ買いながら毎日飲んでいったのだが………それがいけなかった………んだと思う。
 酒の味、酒のウマさを覚えてしまったオレは、もう毎日ビールかチューハイが無きゃ生きていけないくらい好きになって、それからだんだん日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキー……ありとあらゆる酒が好きになっていったのだ。
 おかげで今では、常連さんからは「スーパーのソムリエ」なんてアダ名が付くくらい。店長が酒の飲めない人なので、酒類に詳しいオレを酒コーナーのチーフに置き続けてる。商品の発注とかもどれが売れ筋かよく理解できてるし、お客さんからの信頼があって今のポストに置き続けてるんだとは思うけど、これが出世に響かなければイイが。まぁ、今の店長も転勤になって、こんど新しい店長が赴任してくるから、そうなるとどうか……


 ちなみにオレが好きな酒類はまずビール。ただし味にはこだわりは無い。アルコール度数が1度でも高ければ、発泡酒だろうが第三のビールだろうが麦の味がハッキリとして、ビールよりもウマく感じるからだ。
 次に好きなのはウイスキーの水割りかハイボール。高い銘柄だともったいなくて、つい薄めに作ってしまうので、1000円以下の安価なウイスキーを豪快に濃いめで飲むのが楽しみだ。
 そしてチューハイは度数が高いストロング系がたまらない。味がついたモノが苦手なので、もっぱらドライ(プレーン)。最近は甲類焼酎を炭酸水で割って、オリジナルチューハイを作るのが趣味となってしまってる。


 とまぁ、これだけ酒が好きなオレだったが、そんなオレに「毎日、酒を飲むことができなくなる」 そんな生活が訪れようとは……

 キッカケはオレの彼女。30歳になって付き合いはじめた彼女がキッカケだ。
 彼女は5つ年下で、オレが仕事帰りに行く近所のお惣菜屋でアルバイトしていた。
 毎日通ううちにだんだん仲良くなっていって、デートに誘うようにもなって……そして彼女と付き合いはじめた。

 交際から2年たった今年、オレは彼女と同棲を始めた。一緒に住むとなるとそれなりのルールってヤツが必要で………掃除や洗濯、買い物に料理。生活費や小遣いの家計簿まで、いろいろと細かいところまで決まりごとを設けた。
 そんな中で、彼女が設けたのがオレの『休肝日』だ。毎日、酒を飲むが楽しみなオレにとっちゃ少々ツライルールだ。
 休肝日に指定されたのは毎週木曜日。なんで木曜日なのかって言うと、木曜日がオレの休日だからだ。本社勤務のサラリーマンじゃない、毎日営業してる店舗勤務の従業員は、土日が休みじゃなく、交代で平日のどこかが休みなのが当たり前だ。オレは今の店舗に勤務して以来、木曜日が固定の休日になった。で、休みの日くらいは肝臓も休みにしようってことで木曜日になったのだ。

 はじめのころは、別に仕事で疲れることのない休日に酒を抜いたってどうってことはなかった。……でも、やっぱり口寂しくなってくる………
 ある日の木曜日、休肝日だとわかっていながら酒が恋しくなって、彼女が風呂に入っている間に、コッソリウイスキーのハイボールで2、3杯やってしまった。
 彼女が風呂からあがってくるまでに飲み干してすぐにグラスも洗ったのでバレるはずなんかないと思っていたが………これが案外すぐバレた。
 バレた原因はハイボールに使った炭酸水。風呂に入る前、冷蔵庫で見た量より明らかに減っている。炭酸水だけ飲むなんてことをオレはしないので、ハイボールを飲んだだろうと問いつめられて………オレもあっさり白状した。
 もちろんそのあとこっぴどく怒られた。でも……その時、彼女が怒りながら言った言葉は今でも身に染みている。

「アナタだって、休み無しで働き続けるなんてムリでしょう? アナタの肝臓だって同じなのよ。肝臓が休み無しで働き続けてダメになって、アナタのカラダに何かあったらアタシ……」

 おおげさなのかもしれないけど、休肝日を設けてくれたのはオレのカラダを心配してくれてるからだと改めて感じた。
 そういえば、仲良くなりはじめたキッカケも似たような感じだったな。毎日、店の総菜ばっかり買いに来るオレに、「ちゃんと自分で料理とかしてますか?」って、心配そうに声かけてくれて……

 以来オレは彼女の言いつけ通り、毎週木曜の休肝日を守り続けていた。


 ある日。オレは休日と出勤日が入れ替わって、木曜が出勤、金曜が休日になった。振替えた理由は金曜日になにか大事な用事があったから休みにしたんだが………なんだったかな?
 まぁ有給取ってもヨカッタんだが、その木曜日がちょうど大売出し初日で忙しかったので出勤にしたんだ。
 その出勤日の木曜日。いつもと変わらず働いて、いつもと変わらず帰宅して、いつもと変わらず彼女が出迎えてくれた。

「ただいま~」
「おかえり、お疲れ様!」

 そしていつもと変わらず、テーブルには彼女の手料理が並んでいたが………いつも夕食と一緒に置かれているものが今日は無かった。

「あれ? ビールないじゃん?」

 そう、いつもビールが置かれている場所に、コップに注がれたお茶が置いてあった。
 オレは冷蔵庫からビールを取り出そうとすると、彼女がムッとした顔で立ちはだかった。

「ダメよ! 今日は木曜日! 休肝日でしょっ!」
「え~!?」

 たしかに今日は休肝日の木曜だ。でも今日はいつもと違って休日じゃなく仕事に行ってた。1日の疲れを癒すためにも1杯ぐらいやりたい。
作品名:振替休日 作家名:湯川ヤスヒロ