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表裏の真実

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このお話はフィクションです。登場する人物、地域、場所、歴史的背景、登場人物の意識に関しては完全に架空のものですので、違う次元のお話だと思っていただいてもいいかと思います。作者の創作としてご覧ください。

                  事故多発地帯 

 福岡県K郡S町、ここには事故多発地帯があった。
 ダム湖になっている池の横のカーブを、スピードも落とさずに走ってくると、急に視界が途切れるところがあるらしく、カーブなのに気づかずにそのまま突っ走り、ガードレールに激突したり、対向車にぶち当たったりするのだ。
 数年に一度は悲惨な状態の事故が発生しているが、なぜか世間で騒がれることはなかった。悲惨な状況で発生する事故があったその日は、いつも世間を騒がせる事件が他で起こっている。交通事故に紙面を割くよりも、よほどスクープや特ダネになるのだ。交通事故のように毎日起こっていることは、悲惨な事故であっても、話題性には乏しい。やはりマスコミは話題性や社会的な事件でなければ、なかなか取り上げてはくれないようだ。
 しかし、この町には、同じような事故多発地帯がもう一つ存在するが、こちらの方は、悲惨という意味では目立たないが、死亡率からいくと、向こうよりも頻繁だった。近所の人しか意識していない事故多発地帯。ここがこの物語の始まりを示唆していた。
 もう一つの場所は、悲惨な状況を巻き起こす急カーブの道のような最初から危険性を帯びている場所ではない。平坦な道で、昼間は見晴らしのいい場所だった。道の両端には田んぼが広がっていて、少し歩かなければ民家がないというほどの、危険性の欠片も感じさせない場所だった。
 事故はほとんどが夕方だった。
 いくら見晴らしのいい場所だと言っても、事故が起こった時の状況を考えてみれば、決して危険性の欠片もないなどと言える場所ではなかった。一見安全に見える場所ほど、危険性を孕んでいるのかも知れないと思わせる、絶好の例なのかも知れない。
 その道は、メイン道路から少し入った、いわゆる「脇道」だった。朝や夕方の通勤ラッシュの時間は、抜け道として利用している。メイン道路でノロノロ運転させられてきたドライバーにとっては、鬱憤を晴らすにはちょうどよかった。ゆっくり走っているつもりでも、どうしてもアクセルを無意識に踏み込んでしまう。脇道というだけにどれほど道幅が広いわけではないので、道の端を自転車や歩行者もいるのだ。
 特に下校時間に当たる時間帯は、並進走行の自転車や、歩行者も横に広がって歩いていることもある。会話に夢中であれば、まわりが見えなくなるのも仕方のないことで、車も予期せぬ飛び出しに驚いて、ハンドルを切り間違えることもあるだろう。そういう意味での接触事故は多発していた。
 さらに夕方というと、夕凪の時間があるが、この時には普段見えるはずのものが見えなくなる時間帯がある。そんな時に事故が起こっているのだ。
 もちろん、死亡事故もあったりする。道が狭いことで、車がなかなかうまく離合でき渦に正面衝突ということもある。特に西に向かっている車がまともに西日を浴びてしまうと、前がまったく見えないこともあるようだ。徐行すればいいものを、自分の運転技術を過信している人間は、勘だけで車を走らせる。実に危険極まりないことだ。
 だが、事故を起こすのはそんなドライバーばかりではない。却って無謀運転は稀な方である。
 警察に逮捕された事故を起こしたドライバーが刑事から、
「どうして、こんなスピードを出したんだ。眩しかったはずじゃないのか?」
 と聞かれて、
「ええ、私も徐行を心掛けていたんです。でも眩しさを感じてから、自分の力の入れ具合がマヒしてしまっていたようで、徐行していたはずなのに、アクセルを踏み込んでいたなんて、自分でも信じられません」
 と言い訳にしか聞こえない言葉だが、言い訳であっても、数人が同じ答えをすれば、それはすでに言い訳で片づけられないことではないだろうか。誰がどこで事故を起こすか分からない中で、事故を起こした人が口裏を合わせられるわけもないし、同じような言い訳をするはずもない。
 となると、彼らの言い分には、言い訳ではなく、そこに真実が隠されていると思わないわけにはいかないだろう。
「まったくおかしなものだ」
 刑事も、何か不思議な感覚が身体の中から湧き上がってくるのを感じていた。
 それが刑事の勘というものなのか、それとも、何かの予兆が感じられたのか、ここまで皆が同じ答えを返してくるというのは、それだけ同じ状況が繰り返されたということだろう。そこに何か不思議な力が関与しているのではないかと思うのも、無理のないことではないだろうか。
――夕凪の時間というのは、どうにも嫌なものだな――
 と感じていたが、どのように今回の事故に関わっているのかを考えていた。
 夕凪が関わっているのは、間違いないことだと思っているからだった。
 夕凪の時間というのは、どうしても明るさが制限されてしまっている。それまで見えていたはずの光景が、目が慣れてしまっているからなのか、それとも夕日に幻惑されてしまったからなのか、気づかないうちに、光が制限されてしまったせいで、モノクロに見えていることを分かっていないのだ。
 見えているつもりで走っているのだから、見えないものが見えてしまっていることもあるだろう。そんな状態でまともに走れるわけはない。事故が多いのはそんなわけなのだ。
 昔の人は、そんな夕凪の時間を「逢魔が時」と言って恐れていたらしい。話には聞いたことはあっても、意識する人などそういるわけでもあるまい。
 そういう意味では、この道は、西に向かって走っている車は、まともに西日を浴びることになる。目をくらまされても無理のないことだ。何か事故を防ぐ方法はないものかと考える人もいただろうが、自治体として動いてくれることはなかった。
 大きな事故が数年に一度は起こる場所を、逢坂峠といい、頻繁に事故が起こる場所は、七日辻と言った。
 どちらも、警察や自治体に何とかしてほしいと、街の人は団体を作って申し出たりしていたが、なかなか予算の関係もあってか、申し出が通ることはなかった。
 そんなある日、街に一人のルポライターがやってきた。彼は、フリーのライターで、スクープに飢えていた。さすがにスクープばかりを狙っていては食べていけないので、スクープを狙う傍ら、何でもやっていた。食レポから名所旧跡の取材、はたまた、風俗雑誌の取材まで行っていた。何とか食いつないでいたが、さすがに一度はスクープネタを仕入れたいと、食指だけは伸ばしているつもりだった。
 彼の名前は岡本義也。いつまでもこんな生活したくないと思いながらも、さすがに最近では、
――このまま行っても、しょせん抜けられない生活だ。あまり気張ってみても仕方がないか――
 と感じるようになって、あくせくしなくなっていた。
 そんな気持ちに余裕ができたことで、彼に対しての風が変わったのか、一人の投書が岡本のところに届いた。
 そこには、
作品名:表裏の真実 作家名:森本晃次