小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

われら男だ、飛び出せ! おっさん (第ニ部)

INDEX|11ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

 杉村がよどみない手つきでラーメンを作り始める。
「どれ位修行されたんですか?」
 と、佳範、数多の料理人を見て来た経験から、只者ではないと見たのだろう。
「三年ほどです」
「三年ですか?」
 杉村の答えはまったく意外だった、自分たちよりは期間が長いものの、思ったよりもだいぶ短い。
「ええ、ただ、ラーメン店で修行を始める前は旅館で板前修業をしていましたが」
 杉村が口にした旅館の屋号、その旅館ならば佳範も知っている、割烹旅館の老舗として知られた名旅館だ。
「そちらではどれほど?」
「二十年ほどになりますか」
「それがどうしてラーメン店に?」
「いけませんか?」
 佳範が言葉に詰まっていると、杉村は悪戯っぽく笑った。
「確かに老舗と呼ばれるところで修行してましたが、いかんせん料金が高いんです、とても庶民がちょくちょく味わえるような値段ではありません、素材は吟味された最高級品ばかりでしたしね、だけどそこに物足りなさを感じたんです、調理の仕方もきっちり確立されていて工夫の余地がなかったんですよ、料理長は立派な方で、素材の持ち味を最大限に生かすように丁寧に細心の注意を払っていました、しかし冒険は許されない、背負っている看板が大きすぎたのかもしれませんがね……それがどうにも息苦しくなって……」
「しかし、独立するにせよ割烹店を開くという選択肢は考えませんでしたか?」
「もちろん考えましたよ、でもあれこれ考えている時、ふとラーメンが頭に浮かんだんです、元々喜多方ラーメンは好きでちょくちょく食べていましたが、ラーメン店というのはごく限られたメニューで味を深い所まで追求できる、しかも庶民が日常的に食べられる……そこに気がついたんです」
「なるほど……良くわかります」
「はい、お待ちどうさまでした」
 カウンターに並べられたのは、琥珀色に透き通ったスープに平打ち縮れ麺、薄切りだが大ぶりのチャーシュー、薄目の味付けであることが伺えるメンマ、そしてたっぷりの葱が載せられた、和食の一品と言っても過言ではないラーメン。
「やはり香りが良いですね」
「それも味の一部ですから」
「麺が柔かそうに見えますね」
「腰を失わない程度に柔らかく仕上げてます」
「チャーシューは薄切りですね」
「ええ、スープとの相性を考えまして」
「では、頂きます」
 三人はしばし無言でラーメンをすする、杉村はその様子を穏やかな笑みを浮かべて見守っていた。
「いや、一気に食べてしまいました」
「何も喋る気になれませんでした」
「絶妙のバランスですね、一口目から引き込むのに最後まで飽きさせない」
「ありがとうございます、あなた方のラーメンも是非味わってみたいですね、やはりあっさり醤油系だとか」」
「ええ、でも、喜多方のものとは違います、関東系のものですね」
「私のものよりはガッツリした感じなのでしょうね」
「そうですね、麺の腰、スープのインパクト、具の存在感、どれもないがしろにしていないつもりです」
「三人で作り上げられたラーメンと聞いています、私の場合とは違うでしょうね、こうしてお顔を拝見して少しお喋りをしただけでもそれぞれの個性を感じます、三人で力を合わせて、時にはせめぎ合って作り上げたラーメンは一人で作り上げたものとはまた違うものなのでしょうね」
 三人で作るラーメン……いつでも力を合わせることは意識していたが、個性のぶつかり合いと言う点は意識していなかった。
 それぞれが個性を発揮してこそ自分たちのラーメンのだ。
 三人はそのことを肝に銘じるのだった。