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真・平和立国

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 彼が目を付けたのは、新田原(にゅうたばる)基地に配備されている飛行教導群のFー15戦闘機と、百里基地に配備され偵察を任務としている第501飛行隊のRF−4EJだった。RF−4EJは、第501飛行隊がRF−86F偵察機の後継機として1974年12月から配備を開始したF−4戦闘機の偵察型RF−4E合計14機の事故や老朽化による減少を補うためにF−4EJ改への近代化改修の対象外だったF−4EJ計15機に偵察ポットを搭載するなどの改修を施した派生型である。RF−4Eは純粋な偵察型で、バルカン砲はもとよりミサイルも搭載できない完全非武装の航空機だった。これに対してもともと戦闘機であるF−4EJに偵察用の装備を追加したRF−4EJは、戦闘機としての装備をそのまま残しているため、バルカン砲を装備し、各種空対空ミサイルの運用が可能である。実際の訓練で赤外線誘導の空対空ミサイル「サイドワインダー」を搭載して飛行することも多い。元来、偵察機として撮影した情報を基地に持ち帰らなければ任務が達成できないこの部隊は、戦闘機に補足された場合は、それを振り切って逃げなければならない偵察機部隊は戦闘機顔負けの高機動飛行の技術を持つ。実際、戦闘機としては旧式となったF?4で最新鋭機からも逃れなければならない。彼らに手足のように操られたRF?4は、もはやF?4ファントム2の動きではない。古川は、百里基地で開催される航空祭や航空観閲式で、その迫力溢れるデモフライトを目にしている。その激しいフライトは、同じく百里を基地とする305飛行隊のF−15Jイーグルのデモフライトと比べても何ら遜色はない。
 そしてF−2の穴埋めをするもう1つの飛行隊である飛行教導群は、仮想敵機つまり、訓練での敵役を務める部隊で、全国各地の戦闘機部隊を相手に空中戦などの指導を行う。使用するのはF−15戦闘機であり、複座型であるF−15DJを多く保有する戦力としては技量・装備ともに超一流の部隊である。コブラの部隊マークを垂直尾翼に描き、茶色や紺、緑など、機体ごとに異なる濃い単色の幾何学模様の大柄の迷彩をまとったF−15は異様な迫力を放つ。
 持ってもあと3年か。。。
 半年前、輸送機部隊を除き、未だに編成を完了できない第10航空団の今後について加藤航空幕僚長に取材した時のことを思い起こした。
 これはオフレコで、、、
 と切り出した加藤航空幕僚長が、苦笑しながら語ったのは、その編成計画の裏事情だった。戦争にさえならなければ、多くの戦闘機は必要とならない。日常の領空侵犯措置、つまりスクランブル発進を行う機材とローテーションの機材、そしてパイロットがいれば事足りるが、日常的な技量維持・向上のための訓練も不可欠であり、偵察や仮想的役・指導といった本来の任務を軽んじることもできない。現状はどちらの部隊も精鋭揃いで訓練を減らしても本来の任務を安全に全うできる。しかし、当然ながらいつまでも同じパイロットを置いておくわけにはいかない、人はだれもが老いる。歳をとれば何らかの衰えが始まり、いずれ老いたパイロットは部隊を去る。その前に新たなパイロットに技術を伝承する。その技術継承の停滞に許容しうる限界が3年である。さらに輪を掛けるように老朽化したF−4部隊の限界も近い。
 集団的自衛権の行使容認こそは、閣議に付される法律案・政令案・条約案を審査する内閣法制局長を容認派に置き換え、連立与党を形成し、平和を党是のひとつとしている公民党の平和への不安を言葉巧みに払拭させて解釈変更に成功したが、それを実行するために新たな戦闘機を購入する予算は国会で審議される。内閣の解釈変更で、なかば強引に始まった集団的自衛権行使のために、高価なF−2戦闘機を40機も国会が承認するのだろうか。内閣が行った「抜け駆け」に対する反撃が始まるのはないか、、、
「政治の事なので興味はありませんが」
と前置きして締め括ったその話は、少なくとも3年以内に少しずつでもF−2が配備され始めなければ、日本の防空を全うできない。という国防を担うプロとしての責任感からくる純粋な悩みだった。

 日本という母国・自国民を守ることと、アメリカを中心とした同盟国に対する義理とも思える追従。両立が無理なら一体どちらが大切なのだろうか?
 古川が日本を離れる数日前に、第10航空団の基地が茨城県百里基地に決定し、F−2飛行隊の移動が始まった。
 三沢基地から移動してきた第3、第8飛行隊のF−2の垂直尾翼には目の前のC−130H輸送機と同じ白い鳩が描かれ、首都圏防空を担って百里基地に配備されていた部隊は、基地の広さの制約で偵察に加えて対領空侵犯措置を担うことになった第501飛行隊が入間基地に、F−15を装備する第305飛行隊は松島基地に移動した。そしてF−2部隊の穴埋めをするF−4EJ改を装備する第302飛行隊は青森県の三沢基地に移動を完了していた。

 あの時率直に感じた疑問、しかし、加藤空幕長には聞けなかった疑問が再び湧きだしてくる。時を急ぐあまり憲法改正という正攻法で国民へ真を問わずに、内閣による解釈変更のみで船出したこの政策。果たしてどこまで受け入れられるのだろうか。。。
 既に部隊は派遣されている。日本とは関係のないこんな地の果てで命を危険にさらして活動している。政策の遅れは現場の自衛官の命に直接関わる。政府は最悪の事態を想定して事を進めているのだろうか。。。
 それをこの目で見てやる。。。そして真実を伝える。何が良くて何が悪いのかを。。。何が起きても俺は無駄にはしない。たとえ目の前で誰かが銃弾に倒れても。。。
 表面が風化して崩れそうな乾いたコンクリート造りの司令部。お世辞にも綺麗とはいえないその入り口に向き直った古川は、佐々木に続いて建物に入った。
 空調で一気に汗が冷やされたからか、これからの取材への意気込みの高さからか、古川の背筋に寒気が走った。

作品名:真・平和立国 作家名:篠塚飛樹