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真・平和立国

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 そして彼等を見下ろすような位置に自分はいる。いや、自分達。だ。俺と同じ長テーブルテーブルには田中と佐野、そして川村がいる。
 そうか、、、体育館のステージにいるんだ。もう一度見下ろした学生服の群れから高い天井へ視線を巡らしてやっと気づいた。中空に折りたたまれたバスケットのゴールそして銀色の傘を被った天井のハロゲンランプたち。。。
 それにしてもなんなんだこの面子は。。。
 ステージの中心を隔てて左右に設けられた長テーブルは、上から見れば「ハ」の字に見えるはずだ。「ハ」の字の開いている側が学生服の群れに向いている。まるで公開討論だ。初めてのことだし、突拍子もないことだが、なぜか緊張感はない。そもそも何の騒ぎなんだ?何でここにいる?
「先日、幼稚園で読み聞かせのボランティアをした時のことです。」
 向かいのテーブルの中央に座る塚本が口を開いた。両脇に並ぶ役員が塚本の方を向く、上体ごと向けて続きを聞く準備万端な彼らの仕草が白ける。いわゆる「取り巻き」というヤツだ。同じ学校の生徒で同じ学年なのに、何故おべっか遣いをするのか、
「読んであげたのは皆さん御存知の「桃太郎」です。」
 「とりまき」達は大仰そうに頷く。
「読んであげた後に子供達にテーマを与えて話し合いをしてみました。」
 取り巻き達からどよめきが上がる。そこには「さすが塚本さん」という言葉も混じる。
「テーマは3つにしました。
まず1つめ。
鬼が来たらどうすればよかったのかな?鬼は強いし怖いよね。
そして2つめ
鬼ヶ島に鬼退治に行く必要はあったのかな?仕返しだよね。それっていいことなのかな?
最後に3つめ
なんで動物達は桃太郎と鬼ヶ島に行ったのかな?みんなならどうする?動物達は鬼には何もされてないし、桃太郎とも関係なかったよね。
ということで、テーマを分かりやすく噛み砕いて与えてみました。」
 取り巻き達は深く頷く。静まり返って微動だにしない学生服の群れとは対照的だ。
(分かりやすく噛み砕いた)だと?誘導じゃないか、幼稚園児が素直に主張できるような質問じゃない。
 一体何なんだこの場は。。。それに佐野は、確か沖縄へ転校した筈じゃなかったのか、、、
「その答えに私は大変なショックを受けました。」
 塚本は取り巻き達が目に入らないかのようにゆっくりと訴え握り拳を大袈裟に振った。狐のように狡猾な瞳、その視線をステージの下に広がる学生達に右から左へと振り分けながら。。。そして深く息を吸った塚本は、急に立ち上がる。
「子供達は、「鬼が来たら刀でやっつける。」と言うんです。「怖いし、強いよ。」と私が念を押したら何と言ったと思いますか?「鬼よりも強い武器を使えばいいんだ。」と言うんです。これでは戦いになってしまいます。村は戦場になってしまうんですよ。それでもいい。と子供達は言うんです。犠牲者が増えるだけではないのでしょうか?なぜ逃げる。隠れる。という発想にならないのでしょうか?金品が目当ならば、くれてやればいい。そうは思いませんか?」
 次第に語気を強めた塚本は、誰に同意を求めるでもなく、一旦言葉を切った。
(何が言いたいんだコイツは?馬鹿か?)
 信浩は、伺うように塚本の目を見る。目が合った。と思ったのも束の間、狐の目が鋭く尖り、蛇の目に豹変した。
「私達の次の世代として日本の未来を背負う幼稚園児がこんなことを言っているんです。こんなことで日本は平和でいられるのでしょうか?そもそも私は近年の日本の防衛政策が子供達の感覚を歪(ゆが)めてしまった。と思っています。」
「そうだ、そうだ。」
 取り巻きたちが鼻息を荒くする。
(おいおい、歪んでいるのはお前らの方だろ。強盗に黙って金品をくれてやれってことが正常な考えか?)
 信弘の苦笑を見逃すまいと塚本の蛇の目が信弘の目を射る。
「そこで、今回は私達の学校で防衛に深く関わっている方に集まっていただきました。」
(ここでも始まるのか。。。)
 軽蔑の薄笑いを浮かべて信弘達を指差す塚本の態度に丁寧な言葉遣いとは裏腹の悪意を感じる。
「皆さんどう思いますか、この園児達の反応は?」
 釣り上がり気味になった塚本の薄い唇が挑発する。
「園児達の考えは、至極当然だと思いますね。だって、村人から金品を奪うことが鬼の目的だと分かっていて、黙って見過ごすのが正しいことでしょうか?鬼が来るたびに生贄を差し出せと言うのですか?村人が鬼を追い返す力を持つ事、それを行使することに何の問題があるのか?逆にお聞きしたい。」
 川村の張りのある低音がステージに響く、その巨体を包む制服は柔道で鍛えた筋肉にハチ切れそうだ。 川村の父親は、ひたちなか市にある陸上自衛隊の勝倉駐屯地に勤務していた。勝倉駐屯地には、施設科隊員を養成する施設学校と、教官など教育支援を行う施設科のエキスパートともいえる施設教導隊がある。
 施設科部隊は、道路や橋梁等の破壊や構築・修復、渡河機材による渡河支援、陣地の構築など、戦場の土木・建築を担う。このため多くの建設機械を保有しており災害派遣や国際貢献など、戦場でなくてもその能力を存分に発揮している。海外派遣では初のPKO活動となったカンボジア派遣を皮切りに、東ティモール、ハイチ地震、南スーダン共和国など、活動の幅を広げている。
(川村、こんな奴等にムキになるなよ。)
 立ち上がろうとする川村の腕を信浩が引き下げる。
 施設教導隊に所属していた川村の父は、海外派遣の経験が豊富だった。それゆえに留守を耐えてきた川村はこの手の輩には煽られやすいのを信浩は心配していた。
 ちなみに施設科は一般の軍隊でいうところの「工兵」である。この他にも自衛隊には独特な名称があり、長距離砲や対地ロケット砲などの「砲兵」や地対空ミサイルなどを装備する部隊は「特科」と呼ばれる。挙句の果てに「歩兵」に至っては「普通科」だ。陸上自衛隊だけではない。海上自衛隊では「ヘリ空母」だろうが「駆逐艦」だろうが戦闘艦艇は「護衛艦」である。自衛隊の前身である「保安隊」が、アメリカの御下がりの戦車を「特車」と呼んでいた事に比べればだいぶマシなのかもしれないが、呼び方ひとつにしても自衛隊そして政府がいかに「平和」「九条」という戦後日本人の民意に「気を遣って」きたかが窺い知れる。そういえば昔親父が乗っていた自慢の戦闘「攻撃機」F−1だって「F−1支援戦闘機」と呼ばれていたっけ。
 桃太郎だけでなく昔話は子供に道徳心や人としてあるべき姿を示しているからこそ、要は「お手本」だからこそ、語り継がれてきたのではないだろうか、、、だとすれば、桃太郎を読んだ子供達の反応は、やはり正しいし、昔から日本人が大切にしてきた考え方と行動ではないのだろうか。。。こいつ等だって幼稚園の頃は桃太郎の話に影響を受けた筈だ。それを読み聞かせた大人たちだって、、、そのまた大人も。。。
 【自分達を守る。】
 ということさえも平和のために拒否する。。。
 だから。。。
 【戦うための武器は持たない。】
 周辺の各国は戦うための武器を持っているのに。。。
 自衛隊を憲法違反だと言う人達の常套句。。。
 その考えのおかげで戦後70年以上平和が続いたと本気で思っているのか?
作品名:真・平和立国 作家名:篠塚飛樹