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真・平和立国

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 その住民の感情は、全国各地の平和運動団体が支援に集まったまでは良かったが、これに左翼の活動家が加わり、さらに極左の過激派まで合流すると、住民が思う以上に規模や活動の仕方がエスカレートしていった。デモや座り込みでは飽きたらず、基地の敷地内や自衛隊車両に火炎瓶が投げつけられるようになると、住民は直接的な基地反対運動から距離をとるようになった。
 そのやり場のない住民の不満の一部は、小規模な集会やビラ配りでは収束しきれず、自衛隊関係者への風当たりとなって直接吹き荒れた。
 彼等は、平和の使者である「白い鳩」をモチーフとした第10航空団のシンボルを皮肉と捉え「黒い鳩」と呼んではばからなかった。
 もちろん、反対派よりは2割程度少ないが賛成派もいる。その間のいがみ合いも雰囲気を悪くしている一因と言える。

 知美によれば、教頭は、その反対派の中心的役割を果たしているというのが専らの噂らしい。

 だからって。。。俺は悪くない。。。
 受け続けた理不尽さが悔しさを経て怒りへと変換される。
 俺は悪くない。
 叫びたい衝動に駆られる。
 
 信浩は、軽く深呼吸する。

 誰かに何かをされたとき、何かが発生したとき、
 どう受け止めるか?どう思うか?そして、どう行動するか。それは自分で決められるんだ。
 忘れるな。。。ひと呼吸しろ。

 父の教えが木霊(こだま)する。

 そう、今はそう思う人もいる。でも俺は悪くない。。。分かってくれている人も沢山いる。
 それに、挨拶は返すのが教師として、いや人間としての常識だろう。きっと、あの人は気付く。そして今の行動を恥じ、後悔するに違いない。普通の人間に戻ったときに。。。普通の世の中に戻ったときに。。。
 拳を握りしめていつの間にか止まった爪先をじっと見つめていた信浩は、凛と顔を上げると、大股の堂々とした足取りで再び歩き始めた。
 
「情勢とか派遣の意義とか、ありきたりな説明は、国内で散々お聞きになったでしょうから、省きましょう。」
 この基地特有の情報や、行動についての注意点を終えた派遣隊司令官の佐々木は、コーラの缶を一気に煽(あお)った。返事をして苦笑した古川も一気に飲み干す。冷房がきいているとはいえ、もともとの湿度が低いこの地では、良く冷やされた缶コーラもあまり結露の汗をかかないようだ。喉を潤す清涼感の後甘みが残り、改めて水を飲みたくなったが、我慢する。ここでの水は、缶コーラの何倍も貴重だ。
 ゼロカロリーのコーラじゃないからこの調子で行くと太るな。。。
 空になった缶を横目で見た古川は、礼を言って缶をテーブルに置いた。米軍との同じ調達なのか缶の表記に日本語は見当たらない。
 通路で段ボールを擦り続けるような騒音で、頑張っていることをアピールしている冷房の前を横切り、佐々木が厚く塗装された鉄の扉が開く。それに続いて司令部の建物を出た古川の首筋や顔に熱風がまとわりついた。
 見た目に反して軋(きし)む音も立てずにスムーズに閉まってゆく扉に行き届いた手入れを感じる。自衛隊はどこでも物を大切にするらしい。国内では今だに旧日本軍の建物を使っているほどだ。
 久々の戦地で早くも里心ついちまったか。。。
 ちょっとしたことで感心する自分を内心冷やかした古川の眼前に、広大な駐機場と滑走路が見える。古川を運んできた水色のC-130H輸送機は、農作業用のトラクターによく似た牽引車で屋根の丸い格納庫へ向けて引かれ、古川の視界を右から左にゆっくりと横切っていく。そのすぐ向う側には4機のC-130輸送機が正面を古川の方に向けて翼を休めているが、濃淡のあるベージュ系に濃い茶色がまだらに混じる砂漠迷彩の塗装で米軍機である事が分かる。これから離陸するのか、各機とも左端のプロペラを回し始めた。暑さだけでなくターボプロップエンジンの低い不協和音が古川の耳を圧し始めた。
 滑走路の周りには日本と違って緑の芝生はない。あるのは、強い日差しで白っぽく見える眩しい砂のみである。そのコントラストで滑走路は黒色に近い見え方をする。
「あそこから陸さんの装甲車に乗せてもらって、基地周辺を案内します。」
 佐々木が格納庫群と反対側を指差す。弱い陽炎の向うには国内でもお馴染みのUH-1Jヘリコプターが並ぶ。砂漠では場違いなほ目立つ陸上自衛隊の濃緑系の迷彩塗装、その尾に描かれた真っ赤な日の丸が滲む。違和感を感じた古川は早速シャッターを切る。航空自衛隊のC-130Hは、これまでも海外派遣の常連で、砂漠と水色のC-130Hはお馴染みだが、この組合せは新鮮だ。災害派遣で有名な働き者が砂漠でどんな活躍をするか、、、もはや人命救助ではあるまいな。。。こいつらは、、、
 どっちを望んでいるんだろうな。。。
 ファインダー越しの機影に、語りかけるように呟いた。
 カメラを降ろした古川は、視界の隅に動きを感じた。4つ全てのプロペラが回り出した米軍C-130の重低音に隠れて気付かなかったが、背中に赤い標識灯を点滅させ始めたそれは、居並ぶ日の丸のUH-1Jの横でゆっくりとローターを回し始めていた。砂漠迷彩をまとった機首に大きく角ばったガラス張りのコックピット。太い2本のタイヤが大地に踏ん張り、尾部の小さな車輪がオマケのようにアスファルトに接する。近付くにつれてそのローターの回転は速くなり、車輪式の利点を自慢するかのように、自走してでUH-1Jの前をゆっくりと横切る。パイプの先端をスキー板のように曲げた格好のスキッド式の脚を持つUH-1Jは、自走することはできない。離陸地点までは、エンジン始動後に地面すれすれに浮かんで移動するか、エンジンを始動する前に補助輪をスキッドに取りつけて人間が押していくしかない。
 2機目も移動を開始した米軍のAH-64D「アパッチ」は、ローターの軸上にアンパンのような形の「AN/APG-78 ロングボウ・レーダー」を取りつけているのが特徴的な、アメリカ最強の対戦車ヘリコプターだ。その頑丈な機体は過去の数々の墜落で、ほとんどの場合コックピットの原型を保ち、乗員を守ってきた。そしてその重厚さとは裏腹に、高出力のエンジンと、特殊な4枚羽根ローターの形状により、抜群の運動性能を誇る。
 機首を巡らして古川の方に正面を向けて近付いて来るアパッチが陽炎を抜けると、左右側面に短く張りだした翼のようなスポンソンには内側に左右4発ずつ計8発のヘルファイヤ対戦車ミサイルと、外側には各1個ずつのロケット弾ポッドを吊り下げいるのがはっきりと見えた。動作チェックをしているのだろうか前席の射撃手が忙しなく頭を動かすとそれに応じて機首上下それぞれに設けられた丸いセンサーが回転している。ちなみに、前後2つの席のあるアパッチは、後席がパイロットである。これは、前世代のAH-1コブラも同じだ。
 陸上自衛隊もアパッチとコブラ両方を保有しているが、今回は世論に配慮したためかアフリカに持ち込んでいない。
 空気を規則的に刻むリズムが小刻みになり、タービンの咆哮が強くなったと思うと、前のめりになりながら上昇していった。機首の下でセンサー同様左右に首を振る30mmチェーンガンの銃身が不気味だ。
「随分重装備ですね。あれはパトロールですか?」
作品名:真・平和立国 作家名:篠塚飛樹