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俺はキス魔のキッシンジャーですが、何か?【第二章・第一話】

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『そうでもないよ。むしろ心配なのは楡浬饅頭ちゃんのからだだよ。楡浬饅頭ちゃんに人間の意識がかなり残ってるということは、防腐剤を使ってなくて、脳がやられてない可能性が高いんだよ。』
「防腐剤?いったいなんだそれは。」
『正式にはアンチエイジングドラッグって言うんだけど、饅頭人は防腐剤を使わないと地獄から外に出られないはずなんだよ。それが人間界に来ているということは、非常におかしな状態で原因はわからない。でもひとつ言えることがあるよ。』
「なんだかよくわからないが、そのひとつとはなんだ。」
『防腐剤を使っていない饅頭人はすぐに腐敗してしまうということ。』
「そ、そんなバカな。」
『じゃあ試しに楡浬饅頭を食べてごらん。好きなパーツで、おっぱいとか、おっぱいとか、おっぱいとか。そこそこのボリュームを誇ってるらしいしね。』
「こ、こんなみんなが見ている前で、そ、そんなことができるかよ。」
『普段あれだけキッシンジャーしてるのに。変なところでツンデレしちゃうんだね。味見なんてどこでもいいんだよ。』
「そ、そうなのか。」
 大悟は楡浬饅頭の手を取った。
「・・・・・。」
 楡浬ならば確実に『ドヘンタイ!キッシンジャー!』とか叫んでレジスタンスを展開する場面となるはずだが、なぜかしおらしい。
「い、いつもと全く違うぞ。これじゃ、逆にやりにくいんだけど。これも仕事だ。ええいっ。」
大悟はいつもと全く違う、精悍な貴族騎士が王女の手にするようなソフトなキスをした。
「うっ。苦い!」
『ほらね。その味は饅頭が腐り始めてる証拠だよ。それに、ちょっとこの動画を楡浬饅頭ちゃんに見せてよ。』
添付ファイルの動画にはふたりの美男子が映っていた。ひとりの顔は大悟。もうひとりも大悟。
「これはアイコラだ!どうしてオレなんだ。それもダブル。自分同士のって、普通の同性愛超えだ。」
ふたりの大悟が深いキスをしている。実に不快。さらに互いの手が下半身に伸びている。手の触れている部分はモザイク。明らかにBL映像である。それを楡浬は涎を垂らしながらガン見している。
「母さん。これはどういう意味だ。」
『シュミが腐り始めてるのよ。』
「腐女子かよ!」
『そうよ。腐るの、心とからだが。だからBL趣味になるんだよ。楡浬饅頭ちゃんは大ちゃんのことをBL妄想してるはずだよ。』
大悟は楡浬を見た。すでにBL本を手にしている。さきほど後ろに隠したのはこの本だった。
「いつの間にこんな本を渡したんだよ。」
『ママがモモちゃんに送っておいたんだよ。楡浬饅頭ちゃんはそれでおとなしくなるから、モモちゃんには渡りに船だったんだよ。BL本は大ちゃんの貞操防具なんだから、ちゃんと楡浬饅頭ちゃんに持たせておけばと安心寝られるよ。』
「余計なことを。BL本なけりゃ、許嫁プレイが、できた、・・・いやなんでもない。」
『大ちゃん。これからが大事な話だよ。このままじゃ楡浬饅頭ちゃんは1週間で心身ともに腐ってしまう。その前に何としても防腐剤を手に入れる必要があるんだよ。』
「それはどこにあるんだ。」
『地獄だよ。』
「地獄だと?楡浬の出身地じゃないか。」
『そうだよ。地獄でも防腐剤は危険ドラッグに指定されているんだよ。簡単に流通するはずがないんだけど、それが饅頭人の手に渡り、饅頭人が人間界に来るようになってしまったらしいんだけど。』
「防腐剤はいったい誰が持っているんだ。」
『さあ。それははっきりわからないけど。政府高官とか、大統領の周辺とか、とにかく偉い人、いやウサミミ鬼が持ってるんだろうね。』
「大統領周辺って言ったら楡浬の一族かもしれないだろう。楡浬は閻魔大統領の娘だったよな。」
『そうだねえ。でも大統領自らが危険ドラッグをバラまくはずがないから、その周辺と言ったまでだよ。後は地獄に行ってみないとわからないよ。でも地獄だよ。鬼がいるんだよ。そんな危険なところには大ちゃんを行かせられないよ。』
「ここまで話しておいて、行くなという方が無理だろう。」
『そう言うと思ったけど。もし、大ちゃんにナニかあったら、魔境放眼の後継者はモモちゃんになるから心配ご無用だよね。』
「何かをカタカナにするな。それに心配ご無用はオレが言うべきセリフだろう。オレの母親は人でなしだったんだなあ。」
『そうだよ。ママは厳しいんだから。大ちゃんはこの世に思い残すことがないよう、ママと大えっちをしてから旅立つんだよ。』
「うるせえ!大も中も小もねえ。母さんとは金輪際えっちはしねえ。」
『あらあら。過去にはえっちをしていたかのようなセリフだねえ。照れ屋さん。』
「もう電話は終わりだ!」
 大悟は携帯を切った。
(本当は地獄には行ってほしくないんだけど。うちは魔法伝家だから地獄とのパイプを切るわけにはいかないからね。大ちゃんには苦労かけるけど、死ぬことだけは勘弁だよ。)
 大悟の母はひとりごとを言いながら、携帯を強く握りしめていた。

 大悟と母親のやり取りの後、大悟は考え事をしようと家の近くの公園にいた。
「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん。」
 大悟の前に現われた桃羅。いつもならスカートの裾を持って、パンチラ可能態勢を取っているのだが、今はかなり違う。赤い制服を着た、コンビニの店員姿の桃羅。
「桃羅。放課後だからバイトしている時間帯だろう。どうしてこんな場所に来たんだ。」
「今、ママからメールが来たよ。事情は把握した。だからここに超特急でやってきたんだよ。お兄ちゃん、今自分が何をやろうとしているか、わかってるの。」
「ああ。極めて危険な場所への旅だ。オレも魔法伝家の家元の一員だ。行くところはその名前の通り生き地獄だ。」
「愛人二号、今は愛人二号饅頭を救うためだよね。そんなことのために、自分の命を懸けるなんて、魔法伝家の風上にも置けないよ。風上はモモのパンチラ特区だけに限定してよ。」
「この期に及んでもモモらしい表現を使うんだな。オレはもう決めたんだ。」
「行っちゃダメだよ。どうしてもって言うなら、モモにも覚悟があるよ。」
「それはこういうことか。」
「さすがモモのお兄ちゃん。わかってるじゃない。人間界を出たいならモモを倒してからだよ。でもモモに倒されて地獄を見るだろうけど。仮にモモを倒しても行くのは地獄だけど。」
「さすが親子だ。母さんと同じようなことを言ってるな。いつもはエロいことで同義語をバラまいているけど。」
「場所はここでいいな。このあとすぐだ。この時間帯なら、人気もなくていいだろう。」
「わかったよ。残念だけど、お兄ちゃんの時間は朝を迎えることはないからね。」
「そうだな。最後の晩餐くらいはやってほしかったな。」
「じゃあ、モモのパンチラでも味わったら。えいっ!」
桃羅は、ノイズを出す時の姿勢を取った。大悟の頭上に右手で携帯をかざし、そのまま振り下ろした。大悟はその瞬間、後ろへ2メートル飛んだ。同時にザーッという土を抉る音がした。地面には直径10センチ、長さ2メートルの真っ直ぐな溝ができていた。
「ふう。間一髪だったなあ。砂遊びをするような年じゃないんだけど。」
「あれれ。魔法は何にもできないお兄ちゃんが避けたよ。そんなスピード、キッシンジャーの時でも出せてないよね。」