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バス停にて

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そこのあなた、そうあなたですよ。 
 自分はまだ若い、今日明日で年寄りになるわけはない、そう思っていませんか?

 それがなるんですよ。周りがやたら若く見えてハッとする日が、ある日突然やってくるんです。
 あなたはまだ若くていいわねえ、と言われてきた私に、還暦を祝う同期会の通知が届いたんですから。もっとも、私を若いと言ってくれた人たちは、もう今ではみんなあちらの世界ですけどね。
 それでね、私、思い切って出席してみることにしたんですよ。
「あなた、誰だっけ?」
 なんてことになるかもしれませんから、清水の舞台から飛び降りる覚悟でね。ああ、今風に言うなら、スカイツリーの展望台からとでも言うのでしょうかね。

 とにかく、高校を出て四十年ぶりのご対面ですからね。そりゃあ、みんな変わっていて当然ですけど、男子には驚きましたよ、名札を見てもわからないんですから。
 高校生と六十のおじさんを頭の中で一致させようというのが、所詮無理な話なんですけどね。先生と生徒の区別がつかないという事態を想像してもらえばいいですかね。かつて胸をときめかせたスターでさえ、今ではあのお姿なんですから、一般人であればそれが普通なのでしょうね。

 その点、女子はお見事でしたよ。ばっちり面影が残っているのですから。この日のために、しっかりと準備を整えてきたのでしょうね。まあ、女優さんほど年齢不詳というわけにはいきませんが、一瞬にして、ああ! と叫んで再会を喜べましたよ。もうおじさんたちなどそっちのけで、あちらこちらで女子会が始まって……

 舞台上では、恩師の挨拶なんてやっているんですけど、誰も聞いてやしませんよ。あれが、綾小路きみまろだったら、みんなの注目を集めたんでしょうがね。見渡す会場、どこを見ても突っ込みどころ満載ですから、彼もネタに困ることなく、笑いの波状攻撃も留まることがなかったでしょうね。
 それにしても、この場に招きたいゲストがアイドルやイケメン俳優ではなく、綾小路きみまろというのが寂しい気もしますけどね。キャーキャー言うより、ワハハと笑う方がいい歳になった、そういうことですかね。

 あちこちのテーブルから聞こえてくる会話なんですけどね、若かりし頃の懐かしい思い出話の端端に、年老いた親の介護に追われているとか、いい歳の子どもがまだ片付かないとか、この世代特有の愚痴が混ざっているんですよ。年月の流れを感じずにはいられませんでしたね。
 

作品名:バス停にて 作家名:鏡湖