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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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池の中の狂気

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第3章:狂気の決断



 彼女は突然のことに言葉が出なかった。
「妻を殺してくれたなら、その報酬は10万ドルだ。」
「そんなこと・・・出来るわけないでしょ・・・」
「いいや。以前から妻の浮気には気がついていて、殺そうと計画していたのだよ。うまくいく方法がある。君はその役に打って付けだ。」
「いいえ、殺人なんか絶対にごめんよ。すぐに犯人が私だって判るじゃない。」
少し大きな声を出してしまって、彼女は少し身をすくめ、周囲に誰も聞いていないか辺りを見渡したが、この家には自分と奥様、そしてその愛人以外誰もいない。
「その心配はない。君が今日から私の屋敷で家政婦をしているとは誰も知らない。私自身も君がどこの誰かも分からない。殺した後、触ったものすべての指紋さえ消せば、証拠は何も残らない。」
「私がうまく逃げられなければ、あなたも同じ運命よ。」
「確かに運命共同体だが、君を逃がす時間はたっぷりある。私が帰宅後にも偽装工作をしよう。君さえ捕まらなければ、私が依頼した事実はどこからも出ない。」
確かにこの旦那の言うとおりだ。彼女が外の貼紙を見て、飛び込みで婦人と面接し、その後すぐに仕事を言いつけられたのは、夕暮れからの洗濯物の片付けくらいだった。奥様の夕食の後の洗い物をしていると、その途中に愛人がやって来て、寝室に入ったのが1時間ほど前のことである。それ以外誰にも出会っていない。
「金は書斎の机の中にある。きっかり10万ドル現金で入れてある。」
「それが本当なら、それを持ち逃げするところよ。そんなずさんな計画なの?」
彼女は慎重に考えながら話した。
「ははは、引き出しには鍵が掛かっている。鍵の在り処はすべて終わってから教える。」
「じゃ、どうやって奥さんを殺せばいいの?」
「その机には鍵を掛けていない引き出しがひとつだけある。その奥に拳銃が隠してある。それを使え。」
「確かにこの広い屋敷なら、銃声も外には聞こえにくい。それに近くを走る道路の騒音にかき消されるでしょうしね。」
「それに死体が見つかるのは、2週間も先のことだ。私はそれまで帰宅しないし、妻も仕事などしていないから連絡が着かなくても、慌てて探す者などいないだろう。ましてや愛人が私の屋敷に来ているなどと知っている者もいまい。」

 家政婦は迷った。しかしその大金に目がくらんだ。10万ドルは彼女にとっては6年分以上の年収に匹敵する金額だった。この国で生きていくには、どうしても大金が欲しい。また、不法移民である彼女は、この大金さえ手に入れて故郷に逃げ帰れば、一生安泰だろう。そして、
「計画を教えて、指示してちょうだい。」
彼女は殺人を請け負うことに腹を決めた。

 旦那は殺して屋敷を出るまでの手順を事細かに説明し、彼女には復唱させて確認した。
「問題は、君が銃をうまく扱えるかと言うことだ。」
「ええ。それなら問題ない。何度か射撃場で練習したことがあるし、至近距離からなら外さないわ。」
「じゃ、頼んだぞ。電話は切るな。このまま受話器は上げたままで、行って来い。」
 彼女は、まず指示されたとおり、旦那の書斎に向かった。玄関ホールを抜けて、階段の上から微かに聞こえる婦人のあえぎ声に憎悪のような感情を抱いた。
作品名:池の中の狂気 作家名:亨利(ヘンリー)